16話 新人卒業昇級生活
「お前ら、昇級試験を受けろ。」
ギルマスからいきなり言われた。
「それもC級だ。」
えらい飛び級だな。
「実績上げすぎだ。雑務では常に★5つ以上にご指名有り。薬草採取にいけばB級魔物を狩ってってくる。この前の『スレイブ』なんかほんとならA級だぞ。」
うん、あれはちょっとヤバかった。
「痩せていたから、弱っていたんだろうが、それでも危険な魔物だぞ。」
軟体系の魔物だから『収納』から塩ぶちまけてやっと倒しました。
ちゃんと塩は回収したので塩害は発生しないはずです。
「で、その昇級試験はどんなものなんですか」
「護衛だ。行商人の護衛。隣の領都まで片道3日、領都へ着いたら逆にこちらへ向かう行商人か商隊の護衛で戻ってくる。一応ギルドから元冒険者と記録係がつくことになっている。」
「記録係って誰が付くんです。」
「まだ決まってないが。誰にしようか」
「指名していいですか?」
「誰だ?」
「ニャルムさんで。」
…
…
「ニ"ャにぃぃぃぃ!」
「ニャルムさんは俺たちの担当じゃないですか。査定係じゃなくて記録係なんでしょ。ならニャルムさん一択で。レードもそれでいいよな。」
「ニャルムさんなら…いい」
「…でも私町外出た事ニャいし…」
「シルドのごはん、食べれるよ。」
「行きます!」
…
…
「ギルマス。」
「ン?なんだ?」
「冒険者がギルド職員を餌付k…の食事用意してもいいんですか?」
「本来はいけないんだがな…」
[ニ"ャーーー]
「まぁ自炊能力の確認という名目での味見ならいいだろう」
[ニャン♡]
[『味見』では済まなさそうではあるが…]
「明後日、7時に北門前に集合だ。護衛対象は行商人のクライフ=ローレンと妻、娘と馬車1台。行先は隣領都のビクセン。なおギルドより馬車が1台が出るので多少の荷物は問題ない。」
「俺たち、護衛のノウハウ知らないんですけど。」
「それを自分たちで調べることも試験内容に含まれる。他の冒険者に尋ねるのもOKだが、俺には聞くな。ギルマスの立場がある。職員も同様だ。」
う~んどうしよう。
「シルド。困ったときのコウフィン商会。」
「レード…そうだよな。コウフィン商会なら相談乗ってもらえるな。」
「ニャルム。今日のお前の業務は二人について行ってどんな準備をしたか報告することだ。シルド、レード連れて行ってやってくれ」
「「わかりました。」」
<シュタ!>「了解ですニャ。」
と、やってきましたコウフィン商会。
「「「ごめん下さい。」」」
「いらっしゃいませ、シルド様にレード様、ニャルム様。ささっ、こちらへどうぞ。」
今日は支店長自ら、出迎えてくれた。
応接室に通され、
「改めて、いらっしゃいませ。今日はどのようなご用向きで。」
「その前にこちらをどうぞ。火酒を使った『ブランデーケーキ』というものです。」
「私はあんまり好きじゃない。でも神父様が好んで食べてた。」
「なんと、グロップ様の好物とは。そんなものをいただいてしまうと私どもにはお返しするものが…」
「いえ、今回はちょっと相談に乗ってもらえないかと寄ったので、相談料替わりとして受け取ってもらえないでしょうか。」
「シルド様も交渉上手ですな。そういうことでしたらご相談に乗らせていただきましょう。」
「ありがとうございます。」
「して、そのご相談事とは。」
「実は今度、昇級試験を受けることになりまして。」
「それはおめでとうございます。昇級試験となりますと『討伐』『護衛』ですかな。」
「今回は行商人の護衛です。ですが護衛については経験がないもので。ですのでせめて商人から見た護衛とはどういったものなのか教えてもらえないかと思いこちらへ伺った次第なのです。」
「そうですか。少々お待ちを。誰か、ヤーウェイを呼んできてくれ。」「かしこまりました。」
…
「失礼しますシルド様、レード様、ニャルム様。私、冒険者向けの道具販売担当のヤーウェイと申します。」
所作からするとこの人結構強いな。
「このヤーウェイは、元C級冒険者でして、護衛任務を請け負ったこともあり、また引退後は行商も商っておりましたので、少しはお役に立てるかと思い呼びました。名残惜しいのですが後のことはヤーウェイとお話しください。では失礼します。」
「ありがとうございました。」
お忙しいのに付き合っていただいて、ほんとにありがとうございました。
「早速ですがシルド様、今回の依頼の概要をお伝えください。」
概要なんで固有名称はいらないな
「護衛対象は行商人と妻、娘と馬車1台。対してこちらは俺とレード。ほかに馬車1台にギルド職員が2名。日程は片道3日。目的地到着後、こちらに帰る商人の護衛として戻ってくる。」
「街道を使われるのですよね。」
「はい。」
「まずは街道の基本をお教えしましょう。徒歩の場合、だいたい1時間歩く距離毎に塚があります。そして6塚目が宿場町となっております。」
約6時間歩いて宿泊、が基本となるのか。
「次に馬車の場合、1時間走る距離毎。3塚目が馬車塚となっております。」
つまり1時間おきに馬車塚ー宿場町ー馬車塚ー宿場町ー馬車塚ー宿場町 となる。
「なるほど、基本旅程は6時間移動して宿泊、となるのですね。」
「シルド様はご理解が早いですね。この馬車塚は馬のための水を用意してあります。また場所によっては飼葉売りが小遣い稼ぎにいる場所もあります。水は無料ですが飼葉は吹っ掛けられる場合がありますのでご注意を。野営用の薪も無料で用意はされていますが、使った分は近くから補充するのがマナーとなっています。」
「よく考えられてますね。」
「はい。先人たちの知恵には驚かされます。これらの事から水は最小限で。また飼葉は用意するか途中補給するかですが、馬車に余裕があるのでしたら、当商会の圧縮飼葉をお勧めいたします。」
商売上手だな。
「3日とお聞きしていましたが、そのあたりの距離には大きな町はございません。差し支えなければ行先だけでも教えていただけませんか。」
ニャルムさんを見ると、小さくうなずいた。これぐらいは教えても大丈夫なようだ。
「隣領都のビクセンです」
「それですと本来は4日弱の旅程となりますので多少の強行軍となりますね。その旨、ニャルム様はお聞きにななられていませんか?」
[ニ"ャッ!]
聞いてなかったようだ。ギルマスから渡されたメモをを急いでみている。
「えっ、えっとですね。依頼主の意向で、基本野営だそうですニャ。」
「なるほど、依頼主様は節約家、倹約家ですかな。わかります。場所によっては宿泊費がべらぼうに高いですからねぇ……」
わぁ、ヤーウェイさん遠い目をしてるよ。つらいことがあったんだね。
「…と。そうなりますと野営セットが必要ですね。まずテントに寝袋は必要ですね、あと見張り番用の時計かろうそく。」
「見張り番とは?」
「塚では基本、野獣や魔物は襲ってきませんが、塚以外での野営ですとその限りではありません。塚でも野盗には注意しないといけませんからね。ですので誰か一人、見張り番をするのですが一人徹夜で番なんか無理ですから一定時間ごとに交代するのですよ。」
あの桶と棒の高速ゲームをレードとなら夜通しできるけど…次の日ダウンじゃあだめだな。
「そのために時計で確認するか、一定時間で燃え尽きるろうそくを用います。通常、時計は高いものですが、見張り番用のだいたいの時間が解る物でしたら、3日分のろうそくより安いです。」
キッチンタイマーみたいなものか。
「見張り番担当者は昼は馬車で寝てもらうのも手ですが、馬車によっては眠れたもんじゃありませんからね。おすすめできません。」
巡回司祭様の馬車は快適だったがギルドのはどうだろう。後で馬と一緒に確認しておこう。
「ニャルムさん。見張り番はどうなってます? 俺とレードだけなのか、同行職員さんもシフトに組むのか?」
「えーとですね<パラパラ…>ギルド職員も見張り番に参加しますニャ」
そうか、それなら当番時間は2~3時間だな。
俺は朝側にしてもらおうか。そしたら朝食や弁当を作る時間が取れるな。時間があればケーキも焼こう。
「後は鍋と食材ですね。食材は途中補給を考えても2日は持っておく必要があります。特にパンなんかは日持ちするものを3日分は用意しておいてください。」
「なぜです。補給できるのならそれほど必要ないのでは?」
「宿泊費ほどではないですが、宿場町では吹っ掛けられますからね。馬車に余裕があれば食材は積めるだけ積んでください。」
なるほど、食材は多いほどいいのか…ちょこちょこ買い足してるから『収納』には…3日分ぐらいあるな。
「あと、食材が多いと逆に金子を持ってないと判断されることもあり、野盗対策にもなります。」
『収納』に頼りすぎてもいけないな。
かといって『収納』があるのにわざわざお馬さんに重労働強いるのも悪いし。
……樽とか箱とかの上げ底を考えておこう。減った分だけ追加すれば、あんまりわからないだろう。
「必要なものはわかりました。あと、護衛としての心得とか、気を付けるところはありますか?」
「そうですね。優先順位を徹底しましょう。まず『依頼主』 これは護衛依頼なので当たり前ではありますが依頼主を無視して敵から逃げるなど言語道断です!」
こちらは行商人時代の経験のようだな。
「次に『自分』です。いくら依頼主を守ったとしても、自分がダメになってしまったらその後は依頼主を守れませんからね。」
こちらは冒険者時代か。
「まずここまでで重要なのは『敵に情けは掛けるな』ということです。敵はこちらの命を奪おうとしているのですから、変に生かして反撃されてしまえば元の木阿弥ですからね。完全制圧できない限りは情けは掛けない事です。」
…魔物ならともかく…俺は非情になれるだろうか……[レードが絡めば別だが…]
「次が馬と馬車。移動手段がなくなれば、荷物を守れても、結局、捨てる事に成り兼ねません。」
馬車を壊されて、手で運んだことも有ったのだろうか?
「最後に荷物です。商人にとって商品は何物にも代えがたいもの、ではありますが同時に命があればまた取り戻せる物でもありますので。」
命あっての物種だ。
商品がなくなれば信用を無くすが、命がなければその信用すら取り戻せないから。
「よくわかりました。では逆に商人にとって理想の護衛とはどんなものでしょうか。」
「シルド様は難しい事をお聞きになられますね。そうですね……『護衛』なのですから商人と商品を必ず守る者でしょうが……私は…先に上げた優先順位を守れる者と考えます。また、商人は依頼主ではありますが雇用主ではありません。ですので商人と対等な関係が築ける者。私見ですが、前の件も含めこれが(私の)理想の護衛です。」
「なるほど、ありがとうございました。」
「まぁ、シルド様でしたらあの、パウンドケーキ一つで良好な関係が築けると思いますが。」
「御冗談を。」
真面目な人かと思ったらこういった冗談も言うんだな。いや、これも関係構築の手段なんだな。すごくためになる。
「私もそう思いますニャ!」
「シルドのケーキは最強。それが正解。」
おいおい…
あっ、これを確認しておかないと。
「護衛としての装備はどうですか。俺たちはこの格好(革鎧等の初級冒険者スタイル)に、俺は長盾にショートソード。レードは長剣なんですが。」
「これは戦闘スタイルにも関係しますので一概には言えませんが、お二人で魔猪や魔狼をそのスタイルで難なく狩れるでございましょう。街道沿いの護衛でしたらそれで十分にございます。不安に思われるのでしたら胸部だけのプレートアーマーもございます。」
「購入はともかくそれを後で着けさせてもらってもいいですか?」
「はい、着けていただかないと使用感はつかめませんからね。」
「後はテント、寝袋、鍋と時計ですね。食材を2人2日分用意できますか。」
「としますと1日分と帰りの分は現地調達で?」
「手持ちの食材もあるので。帰りの分は現地調達を考えています。後、圧縮飼葉を帰りも含めて6日分。」
「それでしたらビクセンにも当商会は支店を構えています。帰りの食材、飼葉についてはそちらでご用意できます。ご出発は明後日ということは、ご購入品は明日、馬車で取りに来られますか」
「ニャルムさん。明日、馬車を借りれます? あと御者のレクチャーを今日昼からできますか。」
「えっとですね<パラパラ>…大丈夫ですニャ。」
「わかりました、それではこちらに必要な食材をお書きください。それが書けましたら装備などを見に参りましょう。」
「シルド様と話してみていかがでしたか。」
「あの落ち着きと、聡明さ。とても16歳とは思えませんでした。」
「そうでしょう、さすがグロップ神父様の御子というべきでしょう。」
「しかし食材の注文書を見て驚きました。主食用の固い黒パンはなく、ド麦粉にデ麦粉、それに重曹。さらには砂糖ですから。確かに砂糖や塩は場合によっては金子より役に立ちますから、わからないではないのですが…」
「さしずめ、野営地でケーキでも焼かれるおつもりなんでしょう。」
「ああ。私が冗談を言ったばかりに…」
「いえ、あの方はそういう御方なのです。ヤーウェイが言わずともどこでも焼かれるでしょう。それよりも商品の用意は済んでいますか。あとビクセン支店への連絡も。」
「はい、そちらは済んでおります。」
「あなたは立派にシルド様のお役に立てたのです。誇っていいですよ。」
「ありがとうございます。ですがそれはシルド様レード様がご無事にお帰りになられてからの事です。」
「あのはなたれ小僧が立派になって…」
「それは言わんでください。」




