9話 新人冒険者のその後の雑用生活
何日かは草むしりを請け負った。
簡単なのは、全面取りの依頼だ。
大体は『アースクェイク』と『ドラマル』で片が付く。
畑などは『アースクェイク』の深さの調整で耕運ができるし、振動数を調整すれば石だけを表面に出すことができる。
ただ、石はレードに『ツブト』飛ばしてもらう必要があるが。
畑といっても、作物が植えてあれば基本、手取りだ。
畝の側面は何とかなっても作物間はどうしても残るので地道に作業した。
あと、止まり木亭の弁当事業が軌道に乗ったので、俺は弁当担当を卒業した。
が、レードの弁当は俺が作りたいので、みんなと一緒に作業している。
ギルド納入分も俺担当だ。
一般販売している分に当たりがある。という噂を聞いた。何個かに1個特にうまい弁当があるらしい。
もしかして俺が作った分か? 材料は同じだし厨房さんの腕も上がったから味は変わらんはずだが。俺はガチャの景品作った覚えはないぞ。
「おはようニャルムさん。」「おはようございます。」
「おはようですニャ。シルド様、レード様。」
「これ、御届け物です。いつもの。」
「ありがとうございますニャ。シルド様。レニーア先輩からお話があるそうですニャ。先輩を呼んでまいりますのでそちらでおまちくださいニャ。」
「なんだろうね?シルドに話って。」
「とりあえず待つか。」
いつもの接客ブースで待っていると
「おはようございます。シルド様、レード様。」
レニーア姉さんがやってきた。
(一応)隔離スペースだ、まどろっこしいのはなしにしよう。
「で、姉さん。俺に話行って何?」
「っ!…まあいいわ。今回ね、シルド君に指名依頼が来てるのよ。」
「わーシルド、おめでとう。」
目立ちたくはないんだが、レードが祝ってくれるのはうれしい。
「何言ってるの。前代未聞よ。前代未聞。E級冒険者が指名依頼もらうなんて。」
「指名といっても依頼なんだから強制力はないんでしょう。俺はレード抜きに依頼受ける気はないよ。」
「そこは『レード君も一緒でいい』と聞いているから問題にはならないわよ。」
「なら受けようと思う。」
「相変わらずブレないわね。依頼内容確認しなくていいの?」
「姉さんのことだから俺たちにできないことは回さないでしょ。で、何?」
「あそこに残っている最後の塩漬け依頼『家の掃除』よ」
スタッフジャンパー完成後の初依頼だ。
俺はテンションが上がるのだがレードがいまいちだな。
「今までシルドと『おそろい』だったのに…みんな同じのを着てる…」
確かにG級F級も同じのを着ていたな。
レードのためにグループ別の色違いを提案してみよう。
無理ならバッジか何かで差別化を考えよう。
えっと確かこの家だな。
「ごめん下さい。冒険者ギルドから来ました。ブロサムさんご在宅でしょうか。」
「はーい」<ガチャ>「冒険者っていうとあなたがシルド君?」
「はい、冒険者のシルドです。こちらは相棒のレードです。」「レードです。」
「この度はご指名ありがとうございます。」
「まあここじゃあなんだから上がって」
「「お邪魔します。」」
入ってみたが手が回ってないみたいだな。
「ごめんなさいねちらかっちゃってて。とりあえずは『ありがとうございます』」
なんだなんだ?依頼受けたことに対してか?
「母があなたたちの事すごく褒めてたのよ『こんな老人のために規則を破ってまで尽くしてくれた』と」
「もしかしてブロサムさんってフロルさんの娘さん?」
「あの日はどうしても仕事が休めなくって気にはしてたのよ。それが仕事終わりに寄ってみると庭も家もきれいになってるし。それにスープまで。あなた方のお母さんの味ですってね。それに腰まで直していただいて。ほんとうにありがとうございます。」
「いえお気になさらずに。俺だって何とかしてあげたいと思ってたんですけど手がだせなくって…相棒のレードが背中押してくれたからお世話することができたんですよ。」
「それでもあそこまでできる方はおられませんよ。本当にありがとうございました。」
「あのう、そろそろ本題に入りませんか。」
レード、ありがとう。危うく無限ループに入るとこだった。
「そうですね。…お恥ずかしい話、自分は家事が上手でなくて…それでも何とかしようと頑張ったんですけど母の家と自分の家両方中途半端になってしまい…。母の介護の際にこちらの家の家事がおろそかになるのが解ってましたからギルドに依頼は出してたんですけれども。受けてくださる冒険者がいなくって。」
溜まった家事を後回しにしていたらどんどんたまっていく。家事アルアルだな。
「わかりました。全部片づけましょう。な、レード」
「うん、私とシルドなら無敵」
おいおい、何と戦うんだ?
ともかくはまずは洗濯だ。
魔法を使っても乾くのには時間がかかる。
井戸端で樽を二つ(『収納』から)取り出し、水を入れる。
押し出しポンプが設置されてると水汲みが便利だ。
とりあえず、洗濯物と思えるものは全部ぶち込んだ。
「レード、俺の洗濯中。部屋の掃除をしてくれ。」
「わかった。」
埃等の処理はレードの『ドラマル』にお任せだ。
洗濯中は俺はこの場所から動くことはできない。
『分割抉開器』のように固定するなら一定時間保持できるが
魔力的に常に稼働させ続けなきゃいけないからなぁ。
肉体的には俺、さぼってるんだよなあ。
ほんとにレードにばかり働かせてごめん。
今度、テンシュさんにドライフルーツがないか聞いてみよう。
うん、ドライフルーツのパウンドケーキでレードをねぎらおう。
そうだな、テンシュさんも喜んでたと聞いたし、ニャルムさん、レニーア姉さん…は個人的にはだめだったな。
またいっぱい焼こう。
と、構想しているうちに洗いは終わった。次はすすぎだ。
水換えは地味に重労働だ。
そうだな、テンシュさんにサクションホースみたいなものがないか聞いてみよう。
これがあれば水替え楽になるぞ。
そうこうしているうちに洗濯終了。
絞り作業も地味な重労働だ。
そのあと『ヒート』をかけながら減圧すると粗乾き状態になるから、後は干すだけ。
「シルド。終わった?」
「終わったぞ。次は何する。」
「こっちはまだ私だけで十分だからさぁ。厨房借りてスープ作ってくれない?ブロサムさんもおいしいって言ってくれてたでしょ。」
「でも俺じゃシスターみたいにできないぞ。」
「それはシルドが思っているだけだよ。あのスープを今出かけてる旦那さんや子供にも食べさせてあげたいな。」
旦那と子供がいるのは(洗濯物から)わかってたが出かけているのか。
「そういって、お前が食べたいだけだろ。」
「ばれた?」
「わかった。ブロサムさんに許可もらってくる。また仕事押し付ける様で悪いな。」
「いいよそんなこと。シルドのスープが食べられるなら。」
「じゃあいっちょ気合入れて作りますか」
「ブロサムさん。厨房お借りしていいですか?昼食作るんで。」
「かまわないけど、材料なんかおいてないわよ。」
「それはここ(嘘:実は『収納』)に。俺たちの分作るついでなんで材料費なんか気にせんでください。」
モルネにレイシ。そうそう、加工済みのアレもあったな。
魔猪の切り落とし、ハーブも入れてコトコトコトコト。
『ヒート』はむらなく火が通って助かるなぁ。
こまめに灰汁取りが必要だけど、これをするだけで味は格段に変わる。こまめにこまめに、コトコトコトコト…
さて、仕上げだ。塩で味を調えて…完成!
…
やっぱりシスターのあの味は出せないなぁ。もっと精進しなければ。
「シルド、出来た?」
「おう、今できたとこだ。ブロサムさん、お昼にしましょう。」
「これよ、この前、母の家で食べたスープの味。」
「いや、シスターに比べたらまだまだですよ。」
「シルドもいい加減認めてよ。シスターの味そのものだって。」
いや、まだまだ足りない。でも何が足りないんだろう? 愛情?
まあ、レードが喜んでくれればいいか。
でもやっぱり頑張ろう。
スープは晩の分まであるし
食器も洗った。
「後はするところないかな?」
「シルド、家具の裏もやっちゃわない?」
「そうだな、やるならとことん!」
「えっ?、あの…」
「レード、行くぞ。せーの!」「『ドラマル!』」
俺が家具を持ち上げ、レードが魔法で掃除する。
「せーの!」「『ドラマル!』」
「今度はこっちだせーの!」「『ドラマル!』」
…
…
やり遂げると気分がいいな。
「そろそろ洗濯物を取り込もうか。」「うん」
レードが取り込む。俺がたたむ。レード取り込む。俺たたむ。…
「ブロサムさん、衣類のしまう場所の指示を」
「あっはい、子供の服はあの小さい箪笥で、旦那の服は一番下で…」
…
「ヨシ!終わり!」
「言ったでしょ『私とシルドなら無敵』って」
「ちょっと待ってね。えーと満足度は… はい作業終了証明書。ほんとに助かったわ。ありがとう。」
「いえ、ご指名ありがとうございました。またのご利用をお待ちしております。」
「ぷっ、そんなにしょっちゅう頼まないわよ。でも、また困ったことがあったらお願いしてもいいかしら。」
「もちろん!」
「その時は私も一緒に指名してね。」
「わかってるわ。『無敵』だもんね。」
「はい!」
ギルドにて
「「ただいま戻りました」」
「レード様、シルド様。お帰りなさいませ。」[この時間に帰ってくるのが普通なのよ。普通は〕
「作業終了証明書です。」
…
…
…
★…7つね
…
…
「……はい、確かに受け取りました。ご苦労様でした。」
なんかお疲れのようだな。レードには悪いがスタッフジャンパーの色の件は明日にしよう。
「レニーア先輩、どうしたんですかニャ。目がうつろですニャ」
えーと満足度は★5つっと
あれ?掃除頼んだのに洗濯や料理もしてくれたのよね。じゃ二つ追加しちゃいましょ
「はい作業終了証明書。ほんとに助かったわ。ありがとう。」
=====
「「母さんただいま」」
「「お父さん、ボク君、お帰りなさい。ボク君、おばあちゃんちでいい子にしてた?」
「うん。わぁー。家、きれいになってる。」
「すごくきれいになったね。お義母さんの家もきれいになってたけど。これもシルド君が?」
「一緒に来たレード君とね。二人とも息ぴったりの連携ですごかったわよ」
「冒険者って、魔物狩るだけじゃなくこんなこともできるんだね。」
「そーよぉ。それにスープもつくってくれてねえ。すっごくおいしいわよ。」
「わー早く食べたい。」
「手を洗ってらっしゃい。すぐ用意するわ」
「「「聖クッタベルタ様、今日の糧を与えていただきありがとうございます」」」
<パク>「おいひー」
「おいしいねえ」
「これ、シルド君のお母さま直伝の味ですって。男の子がこれ作れるなんて私、自信なくすわ」
「君は君で頑張ればいいよ」
「あなた…」
「お父さんお母さんボク冒険者になる。冒険者になっておいしいスープ作ったり、おばあちゃんのような困ってる人を助けるんだ。」
「それならもっと勉強しなきゃな!」
「う……がんばります。」




