8話 新人冒険者の草むしり生活
さて。
今朝のノルマ、弁当12個終了。
内2個は俺たち用
「シルド坊。ギルドからの注文だよ。ギルマス室に弁当3個持ってとくれ。」
「わかった。」
1個当たりの金額は銀貨2枚だが弁当箱を持って返すと銀貨1枚キャッシュバックされる。
弁当箱自身の転売防止策+リピーター獲得策だ。
あと、レシピには書いていないコツを厨房係に教えていったのでかなり仕上がってきている。
(燻製肉の切り方がどうとか、野菜はどう切るかとか、塩少々の分量とか)
俺の弁当係卒業も間近かな。
「シルド、終わった? 行くよ。」
「おう。じゃあおばちゃん。行ってきます。」
「ああ、行っといで。」
ギルドにて
「おはようニャルムさん。」「おはようございます。」
「おはようですニャ。シルド様、レード様。」
「これ、御届け物です。ギルマス室への」
「ありがとうございますニャ。[わたしの弁当♡]後でギルマス室に届けておきますニャ。」
もしかして弁当ってニャルムさん、レニーア姉さん、ギルマスの分?
「よろしくお願いします。」
「シルドォ。何か受付のお姉さんたち。なんかそわそわしてない?」
確かにこちらをチラ見しているような…
「それはですね…(小声)昨日シルドさんからの差し入れが、あまりにもおいしかったので今日もないかと期待されちゃってるわけですニャ」
そうだったのかぁ!…昨日おばちゃんに言われたことが身に染みてわかった。
でもあれって、シスター直伝なだけでなんも変哲もない田舎のパウンドケーキだぞ。
「シルドのケーキがおいしいのは解る。[あれ食べたら他のが食べれない]それにしてはニャルムさんは落ち着いてるよね。」
「あれはシルドさんの『お詫び』ということはわかってますからニャ。ということは、また何かあったらシルドさん焼いて下さりますニャ!」
ニャルムさんの期待が重い。
「シルド様、レード様。おはようございます。」
「「レニーアさん、おはようございます。」」
「ギルマス室への御届け物、ありがとうございます。ニャルムさん、これは私の方でギルマス室に持っていきます。後、午前業務が終わったらギルマス室に来るように[一緒にお弁当食べましょ♡]」
「ハイですニャ♡」
「で、シルド様、レード様。今日のケー…ご予定は」
レニーア姉さん。おまえもか!
「私たち、今日は草むしりの依頼を受けようと思ってます。」
「それでしたらこちら等いかがでしょうか。」
レニーア姉さんが紹介してくれたのは『西区、荷車置き場』
「はい、それを受けます。」
「承知しました。あと、昨日の作業着、洗っておきましたのでこちらで着替えて向かってください。…こういった雑用時に冒険者装備でガチャガチャうるさいって苦情が過去にあってね。お願い。」
昨日もそうだが、ただ作業着で街中歩くというのも、少々浮いてしまうな。
「レニーア姉さん。姉さんの羽織ってるようなジャケットって余ってるのあります。」
「あるけれど。シルド君どうするの?」
「今日はそれを羽織って現場に向かおうと思ってまして。作業着のままだと街中で浮いてしまいますし、それに胸元のギルド紋の刺繍でいかにも『ギルドから来ました』感が出ますし。もちろん現場では汚さないように脱ぎますが…」
要はスタッフジャンパー替わりが欲しいわけで…
「……」
「…姉さん?…」
「採用です!なんで気が付かなかったんでしょう。ミチールさん、男性職員用のジャケット2着持ってきて。余ってなかったら適当な男性職員引っ剥がしなさい。ニャルムちゃんが足速かったわね。服飾屋の…いえ、この場合は…コウフィン商会へ使いに行って。」
「レニーアさん、ジャケット持ってきました。」
「シルド君、レード君。今日はこれで我慢してね。さぁ仕事仕事!」
用意してもらったジャケットは、俺には合ったが、レードには大きすぎたのでレニーアさんのをお借りした。
ダボダボ服もいいが、ちょうどいい服の方がレードに似合ってる。
荷車置き場の事務所はこちらだな。
「ごめん下さい。冒険者ギルドから来ました。」
「ほーい。おや、なんとめんこい娘っ子が来たもんだ。」
「あの、私は…」
「失敬失敬、おなごの服羽織ってたもんで間違えタダ。で、あんたギルドの職員け?」
「いえ、今回草むしりの依頼を受けた冒険者で私はレード。彼はシルドと言います。」
「そーけそーけ。依頼出したどもなかなか連絡こんであきらめかけとったとこんだ。受けてくってありがとう。」
「早速ですけど、作業場所と範囲を教えてください。」
「そうだの。ちょっと来てくんろ。」
隣接の荷車置き場にて
「ちょうど荷車がはけていい塩梅だ。あんの草の高さが変わっているあたりが荷車置く範囲だぁ」
「大体100シャックン四方くらいですか。」
「そんただとこだなぁ」
「抜いた草はどこに捨てればいいでしょうか?」
「そこんの大きな樹の根元にまとめて置いてくんろ」
「ちょっといいですか」「どうしたのシルド?」
「草抜いた後のでこぼこは、なるしちゃった方がいいですか?」
「まぁ、出来たらしてくったら助かるけんど、依頼は草むしりだかんなぁ」
「できたらなるしていいんですね。」
「できる範囲でいいぞぅ。」
「では作業に入ります。」
「わっしは事務所におるで、作業が終わったら声をかけてくんろ」
ジャケットは樹の裏で『収納』にしまって。
「シルド、どう作業する?」
「全面やっちゃっていいんだろ。いつもの草むしりの手順で…いや、最後のなるす際にレードがヒートをかけてくれるか70度くらいで?」
「いいよ、でもなんでヒート?」
「残った草の種の芽を出にくくするんだ。」
「…わかんないけどわかった。」
「じゃ行くよ『アースクェイク』」
土をほぐして草を抜けやすくして
「草集めるよ『ドラマル』」
小竜巻で草を引っこ抜き集める
隅から隅まで小竜巻を移動させるから、少々時間がかかるな。頑張れレード。
「次に『ヒート』」
俺のヒートの射程は10シャックンほどだからレードに頼む。レードにばかり働かしてるなぁ。ごめんレード。
「最後に『グラビティプレス』」
『アースクェイク』で轍のへこみもほぐれ、全体に平均化してるので圧を書けると平に固まる。
「おじさん、終わりました。」
「へ、1時間もかかってねえけんど?」
「作業確認をお願いします。」
「はわわ、轍ものうなって。それに固ってい。これなら車輪めり込まずにすむでなぁ。」
「いかがでしょうか。」
「いやぁ、助かっただ。ホイ、作業終了証明書だぁ。こんなに奇麗にしてくでてあんがとさん。あんがとさん。」
ギルドにて
コウフィン商会とは見積もり等検討し、後日再打ち合わせの運びとなりました。
その直後、
「「ただいま戻りました」」
「レード様、シルド様。お帰りなさいませニャ。こんなに早くおかえりになったのは何かトラブルでも?」
「いえ、依頼終わりました。」
「ニ"ャ!」
「どうしたのニャルムちゃん?」
「…レニーア先輩…」
「あら、レード様、シルド様。何かお忘れ物でも?」
「いえ、依頼が終わったので報告に帰ってきたんですが。」
「え"ーーーーーーー」
二人してそんなに驚くことだろうか?
「『西区、荷車置き場』ってここから歩いても2時間はかかるわよ。それにあの面積。2,3時間仕事よ。それを1時間ちょっとで?」
「私もシルドも冒険者なんで、高速移動術を持ってますし、今回の依頼は細かい作業が不要だったので早く済んだのです。」
『空歩』で屋根伝いに走ればあっという間です。
1っ本1っ本手作業で抜くより(レードが)まとめて抜きました。
「それにしても早すぎるわよ。終了証明書見せなさい。評価は★…なんで★が8つも書いてあるの?確か評価用の印刷は☆5つでしょ!」
「えっと…私たち、次の依頼受けていいでしょうか?」
「ちょっと待って……この件は後で私が現場確認いたします。書類上問題ありませんので次の依頼を受けて構いません。」
「レード。このまま次も草むしりにしようか。」
「まだ作業着のままだしね。何件かいっぺんにしちゃう?」
「いやそれはやめた方がいい。次も簡単にできるとは限らないから。手間だけど1件ずつ確実にやっていこう。」
「わかった。そうなると…これなんかどうかな。結構長い間張られているみたいだけど。」
「依頼主、困っていそうだな。これにするか。」
「ニャルムさん『北区、フロラさん宅花壇の草むしり』受付お願いします。」
「ハイですニャ。受領確認」
「じゃあ」「行ってきます。」
「行ってらっしゃいませニャン」
「地図からするとフロラさん宅ってここだよな」
「確かに花壇が草だらけだね。花も咲いてるけど雑草に負けそうになってる。」
「ごめん下さい。冒険者ギルドから来ました。」
…
……は…い……
…
「シルド、聞こえた?」
「すごくか細い……失礼します。」
中に入り一気に寝室まで突入。
そこには、何とか起き上がろうとしているおばあちゃんがいた。
「おばあちゃん、寝てていいよ。俺たちは冒険者ギルドから来ましたシルドと言います。こっちは相棒のレード。」
「レードと言います。おばあちゃん、大丈夫?」
「何とか…ね。少し前に腰をやっちまってねぇ。ギルドというと花壇の草むしりかい?」
「そうだけど…」
「すまないねぇ。昨日までは娘が来てくれてたんだけどねぇ。こんな体じゃ花壇の確認に行けそうにないよ。あんたらの『できた』って思う範囲でいいからやっといてくれないかい。」
「…わかりました。精一杯頑張ります。」
「シルド。依頼以外の事しちゃいけないのは解ってるけど…ほっとけないよ。」
「俺も、同じ気持ちだけど…」
「私が草むしり全部やるから。家事は私よりシルドの方が上手でしょ。シルドはおばあちゃんの世話をしてあげて。」
…
「お願い。」
「!よし引き受けた!」
そうと決まれば行動開始だ。
「おばあちゃん。今日は俺がおばあちゃんの世話をします。」
「そんな他人様の世話になるなんて。それにギルドの規約から外れるんじゃ…」
「自分の父は神父です。父はいつも言ってます。みんな神の子だと。それならばおばあちゃんは遠い親戚。他人じゃありません。」
「うふふ。強引な神もいたもんですね。では今日はお任せしようかしら。」
====
…グロップ孤児院にて
「クシュン」
「あなた、風邪ですか?」
「いや。大方シルドあたりが私を出汁に大きい事を言ったのだろう。まったく誰に似たのやら」
「あなたの息子ですからね」
「………」
====
昨日まで娘さんが来てたと聞いたが、最低限のことしかできなかったようだ。よし、一気にやっちまうか。
掃除には魔法は使えないが、洗濯なら樽が洗濯機の代わりになる。
水と洗剤を入れ『ヒート』
温水に衣類を入れ『ウォータートルネード』
洗い終われば少し絞って酢水で『ウォータートルネード』
後は水を変えすすいで、しっかり絞る。
少しヒートをかけて干しとけば2,3時間で乾くだろう。
ちょうど昼時か。
「レード。お昼にしよう。」
「うん。」
おばあちゃんの寝室で3人で昼ごはんだ
「シルド、これって」
「そう、シスターのスープだ。」
非常用に鍋ごと『収納』していたシスターのスープ
レードがホームシックにでもなった時用にストックしていたものだ。
「おいしいねぇ。お母さまもあなたたちに似て優しいかたなのね。」
固形物も大丈夫そうだったのでサンドイッチも食べてもらった。
「あなた、いいお嫁さんになれるねぇ」
いや、俺、男なんだが。
昼からは掃除。
ここは地道にやっていった。
さて最後の仕上げだ。
「ちょっとおばあちゃん、診させてね。」
腰回りの筋肉がこわばっている。幸いにもおばあちゃんは火属性だ。これなら……
「少しずつ魔力を流すよ。『ヒートヒール』」
このこわばりをほぐせば、かなり改善するはずだ。
状態を見ながらゆっくり、ゆっくり…
なお、これはレードにはマネができない。魔視力を持つ俺だけの特技だ(ただし火属性相手に限るが)
「あれまぁ、痛みが軽くなったよ。」
「痛みがなくなっても無理しちゃだめだよ」
「庭の様子見させてもらえないかい。」
「まあ、それぐらいなら。」
庭へ出ると、
「おばあちゃん。歩けるようになったんだね。」
レードは草むしりだけでなく庭の掃除もしてくれていた。
「ほんとにあなたたちはいい子だねえ。そんなあなたたちを御育てになった父親のお名前は?」
「「ヒロフミ=グロップ神父です。」」
「よく覚えておきましょう。」
そのあとおばあちゃんを寝かせた際に、作業終了証明書をもらった。
晩御飯用にシスターのスープ鍋を置いてギルドに帰ったのだった。
ギルドにて
「「ただいま戻りました」」
「レード様、シルド様。お帰りなさいませ。今度は時間をかけて依頼を完遂なされたようですね。」[それでも見積もり時間より早いですが]
「はい、作業終了証明書です。」
…
…
…
「えーーーーーー! 今度は★10個? 横じゃなく2段? あんたたち何してきたの?」
ギルド規約に抵触する事項なので俺たちは黙るのだった。
…帰り道
「レードにばかり働かしてごめんな」
「何言ってるの、私が頑張れるのはシルドがおぜん立てしてくれたからでしょ。村を出るとき言ったでしょ。私が表、シルドが裏。シルドがいるから私がいる。私がいるからシルドがいる。それに私のお願い聞いてくれたんだから、私ががんばるのは当然!」
「しかしなぁ」
「私の相棒はつべこべ言わない!あんまりダダこねてると神父様に言いつけるよ。」
「それだと神父様は笑ってみてると思うぞ」
「じゃあシスター」
「げっ、それは勘弁だ!」
…
「…シルドと一緒の仕事は楽しいんだ。」
「それは俺もだ。」
「だから明日も頑張ろう。」
「そうだな」




