3話 新人冒険者の初依頼生活
さながら、ギルド前は『福男選び』会場だ。
いい依頼を受けるため今か今かと門が開くのを待っている状態に、俺たちは割り込めずに後ろに並んでいた。
そりゃ、『転移扉』使えば、いい依頼は取り放題だが、ギルド内は魔法禁止。その上レニーア姉さんの様子だと闇魔法は禁忌らしい。
と、門が開く。各者一斉にスタート。おっトップは犬の獣人か?
と言ってるうちに依頼掲示板の前は大混雑。
続いて依頼受付カウンターも大混雑してきた。
ニャルムさんの姿が見えたが、あいさつする余裕なさそうだな。
とりあえず俺たちは昨日の件の相談だ。
総合受付カウンターのレニーア姉さんの元に向かうとしよう。
「「おはよ…」」
「おうおう!新人がなぜギルドのマドンナに話しかけようとしてるんだよう。え?!」
テンプレだなぁ。
まあ一応挨拶はしておこう
「あっ先輩。おはようございます。」
「おっ、おう…おはよう」
出鼻くじき成功。
「俺たちはギルドの事で相談があるので職員に話を聞いてもらおうとしているところですがなにか?」
「なに生言ってやがる!新人はおとなしく低依頼受けてりゃいいんだよ。」
「はて?そんな決まりありましたっけ?」
「なにぃ!」
依頼受付も喧噪が一時止まり、こちらに注目している。
「あっそうか。先輩は女の子と話がしたかったんですね。わかります。受付嬢のお姉さん。皆さん美人ですしね。」
受付嬢さんみんな頬をポっ。
「な、な、な…馬鹿にすんじゃねぇ!」
先輩は剣を抜いて振りかぶる。が、
「何をしている(怒)!」
そこには神父様くらいの年だが筋骨隆々の御仁がおられた。
結構前から殺気出して近づいて来てたんだけど、気が付かないって先輩って鈍感?
「ギ…ギルマス」
「ギルド内での抜剣はご法度としていたはずだが儂の記憶違いだったかな?」
「えっ…あの…」
「連れてけ!」
「「ハイ!」」
先輩は他のギルド職員に引きずられていった。
「お前たちがシルドとレードか」
「「はい」」
「オーサンから聞いていたが大した胆力だな。」
そんなに怖くなかったですよ。シスターの静かな笑顔に比べたら。
「お前たちの話は儂が聞こう。後をついてきなさい。」
さて、幕を閉めるとしますか。
「シルド。『役者』の職、炸裂だね。」
レード、フォローをありがとう。
「みな様、ご清聴ありがとうございました。」
役者のようにお辞儀をすると。
<…<パチパチパチパチ>…>
拍手の中、俺たちはギルドの階段を上るのであった。
ギルマス室に入ると
「まあ、座りなさい。」
と促される。
ギルマスが座るのを待って俺たちも座る。これがマナーだ。
ふと、ギルマスの威圧的雰囲気が消え
「すまんかった。」
と謝られた。
「ああいった手合いには釘を刺していたんだが、釘が足らなかったようだ。ほんとにすまない。」
頑としたギルマスが今では気のいいおっちゃんだ。
この変わり具合。レニーア姉さんの父親だなぁ
「大丈夫ですよ。オーサ兄から聞いてましたし」「全然怖くなかったですしね。」
「そういってくれると助かる。オーサンもすごく気にしていたからね。昨日はよく眠れたか?」
「そのことで相談が…昨日、宿屋『冒険者の集い』では宿泊予約がキャンセルされてたんです。」「子供がキャンセルを伝えに来たと」
「なに?じゃあ君たちは野宿…」
「いえ、幸いにも『止まり木亭』のテナーさんに拾えてもらい宿の手伝いを対価に泊めてもらうことができました。」
「それはよかった。『冒険者の集い』にはペナルティを課さねばならんな。」
「いえ、そこまでは。」「お使いに頼んでキャンセルすることは普通にあることでしょ。」
「いや、個人としてはそれもありだが、今回はギルドを介しての予約だ。その場合キャンセルもギルドが行うものなんだよ。」
「「そうですか…。」」
「まずは調査だ。これから『冒険者の集い』に人を向かわせる。結果が出るとは限らないが経過は君たちに教えるとしよう。」
「「よろしくお願いします。」」
「今日が初依頼だろ。頑張り給え」
「「はい。失礼します」」
俺たちが1階に戻ると『E~G級依頼』の掲示板にはほとんど依頼書はなく受付カウンターも静かになっていた。
どれどれ、常設の薬草採取意外だと…
『うちの猫、探してください。』
『どぶさらい』
『家の掃除』
『草むしり』
…
いずれも作業時間と報酬の釣り合わないものばかりだ
「シルド君、レード君。昨日は大変だったみたいね。ごめんなさいギルドの落ち度で」
レニーア姉さんが声をかけてきた。
「いいえギルドは悪くありません。それにすごくいい宿に泊まれましたし。」
宿の人が暖かければその宿は暖かい宿だ。
「気にしてませんし、私はシルドと一緒ならどこでもOKです。」
こらこら、恥ずかしい事を言うんじゃない。ま、まあたしかに俺もそうだが。
「二人とも、仲がいいのね。そうなのよねぇこの猫の飼い主さんって小さい女の子なのよ。仲の良かったネコさんがいなくなってしょぼくれてたわね。今日、誰も依頼受けてくれなければもう取り下げなきゃいけないし。」
それは暗に俺たちにこれを受けろとの圧力では?
…
…
「…はい」「これを受けます。」
「ありがとう!受けてくれるのね。ニャルムちゃん手続きお願い。あっそうそう、この手の依頼は失敗してもペナルティないからねその代わりしっかりした活動報告書がいるけどね。」
なるほど、人探し、ペット探しは対象が見つからない場合もある、そのような場合も考慮しているのか。
そうだ、一つ提案してみよう。
「今回の依頼手伝いにギルド職員を一名借りれますか?」
「できなくはないけど…誰にしようかしら?」
「ニャルムさんでお願いします。」
猫には猫(獣人)作戦だ。
「あのう獣人族に獣扱いはひどい侮辱にゃんですけど…」
それは知らなかった。
「えーでもニャルムさんてすごくネコネコしてて可愛いじゃないですか。」
「えへへ、そうかニャー」
よいしょ作戦成功か。レードもそこ、不機嫌にならない。
「猫好きの依頼主さんなら可愛いニャルムさんにならいろいろと話してくれると思って頼んだんですよ。」
「わかりました。ここはニャルムおねーさんに任せなさい。」
俺たちより年下だけど…
依頼主住所はここだったな
「ごめん下さい。」「冒険者ギルドから参りました。」
今回はレードに応対をお願いした。
小さい女の子なら、いかついにーちゃんより優しいお兄さんの方がいいだろう。
「わーキレイな…お兄ちゃん? とネコのおねーさん。タマちゃん見つかったの?」
「ごめんね、まだなんだけど、もう少し詳しく探したいからタマちゃんが使ってた寝床かおもちゃ、貸してもらえないかな」
「ん。」<トテトテトテ><トテトテトテ>「これ」
と渡してきたのはクッションの敷かれたバスケット。
[シルド、いける?]
[OK、十分魔力痕跡が残っている。]
レードとアイコンタクトを交わす。
「コティちゃん。タマちゃんがいニャくなった時の様子教えてくれニャいかニャ」
「…んーとね、この前、広場でタマちゃん連れて遊んでたのそしたらそばに大きなばしゃが止まって広場追い出されたの。そのときからタマちゃんいなくなったの」
「わかったニャ。探してくるからこのバスケット借りてゆくニャ」
「ネコのおねーさん、よろしくおねがいします。」
さて、ここからの行動だが、
「シルドさん、ニャたしは猫獣人ですからニオイで追えないですニャよ。」
確かネコも嗅覚は鋭いはずだが。
「ニオイで追うんじゃないよ。魔力を追うのさ。ひとまずギルドへ帰るぞ」
場所は変わって冒険者ギルド
「「「ただいま戻りました」」」
「お帰りなさい、ずいぶん早いわね。」
「新情報入手です。都の地図見せてもらえますか。できれば富裕層の住んでる区域が解るもの。」
「…簡単に見せるわけにはいかないんですけどね…わかりました。ギルマス室で待ってて。」
<トントン>
「シルドです。」
「ん?入れ。」
「「「失礼します」」」
「呼んだ覚えはないんだが。」
「レニーアさんに地図を借りようとしたらこっちで待っててと言われたので」
「あっお父さんそこどけて。シルド君に機密情報見せてって頼まれて。一番安全なこの部屋借りるわよ。シルド君レード君ニャルムちゃん。見るのはいいけどメモは禁止よ。覚えるだけよ。そして今回の依頼が終わったら忘れる事。いい?」
「「「はい」」」
…
…
…
「「覚えました。」」
[えっニャたしまだ…]
「速いわね…じゃあ地図はしまうわね。まだこれからネコ探し?」
「「「ハイ、行ってきます。」」」
さて、ここからはスピード勝負だ。
おそらくタマちゃんはその時の馬車に紛れ込んだか、気に入られて連れ帰られたかしたんだろう。
自分の魔力マーカーを探すマーカーサーチは今のところ距離制限がない。
が、他人の魔力だと2テリシャックン〈360m〉が限界だし解析に多少時間がかかる。
ここは場所確定よりも「反応がある」かどうかを富裕層区域を走って確認しようと思う。
そうなるとニャルムさんはついてこれないだろうから抱き上げようと思ったら。レードがニャルムさんを担いでいた。
「シルドは魔力を探すのに集中して」
もっともな意見だ。
ただ…
[抱き上げるならせめてお姫様だっこでぇ~]
とニャルムさんに叫びが聞こえた気がした。
1時間ほど走ったがいまだ反応がない。
ちょうど昼だし、休憩しよう。しかし弁当は2個…
「ニャルムさん。私の弁当を食べればいいよ。」
「そんな。悪いですニャ。」
「私はシルドと半分こするから。ね、シルド」
レードはやさしいな。俺がしようと思ってたことを率先してやってくれるとは。
「ニャルムさんは俺たちの都合で連れまわしてるのだから遠慮は無用だよ。」
「そうですか…では『聖クッタベルタ様今の糧を与えてくださり感謝いたしますニャ』…ん?丸パンじゃにゃい。パンに野菜とお肉が挟まれてる?にゃんて綺麗な。」<はむ>「おいひーーー」
「気に入ってくれて何よりだ。」
「もひかしてふぉれはひるどさんが?」
「ちゃんと食べてからしゃべりなさい。たしかに俺が作ったが。」
<ごっくん>「シルドさん、ぜひ私のお婿に…」
「ダメ、シルドは私の相棒。あげない。」
「むむむ、手強い相手が…」
「まあこの弁当なら『止まり木亭』で売り出すかもしれないから正式販売が決まったら教えるよ。」
「本当ですかニャ。待ってますニャ。」
休憩も終わり再び駆け出そうと思っていると
「にゃ~」
と鳴き声が。
「あっ!あのネコですニャ。毛並みと大きさが聞いてた通りですニャ」
魔力パターン確認。こちらでも確認できた。
バスケットのにおいに魅かれたか、弁当のにおいにつられたか。
結構やせ細っているな。
背嚢を探すふりをしながら…確かこの辺に…あった、皿とパンと豆乳。
「シルドさんそれをどうするニャ?」
「レード、このパンに『プロセッサー』をかけてくれ。」
「いいよ『プロセッサー』」
「でここに豆乳を加えて『ヒート』…そして『ファイス』」
ちょうど人肌くらいか
「シルドさん、なんかおいしそうですニャ。<じゅるり>」
「これはタマ用だよ。タマ、こっちにおいで。」
「にゃ~」
…
「さぁ、ゆっくりお食べ」
<ハム>…<ハムハム>…<ハムハムハムハム…>
「にゃ~」
「もっとくれって?今そんなに食べたらおなかがびっくりするよ。さあコティちゃんところへ帰ろう。」
「にゃ~」
タマちゃんはバスケットに入った。
「さて、タマちゃんが見つかった事だし急いで帰るとしよう。最大戦速で帰るからレードはニャルムさんをお姫様だっこしてあげてくれ。」
「わかった。」
[憧れの御姫様だっこです。しかも相手は美け…]『『空歩!』』[ぎゃーーーーーーー]
コティちゃん宅にて
「タマちゃんお届けに上がりました。」
「にゃ~♡」
「わぁタマちゃんだ、お帰り。おにーさん、おねーさん ありがとう。……おねーさん、大丈夫?」
「一所懸命探したから疲れたんだよ。」
「ありがとうございました。おねーさん。はいこれ。いらいたっせいしょうめいしょです。」
「確かに受け取りました。」
そうだこれを言っておかないと。
「タマちゃんは食べてなかったようだから少しパンがゆを食べさせたよ。いっぺんに食べさせるとおなかがびっくりしちゃうから少しずつ食べさせてあげてね。タマちゃん元気でな。」
「にゃ~♡」
「大きいお兄さんもありがとう。」
この笑顔が何よりの報酬だな。
ギルドにて
ニャルムさんにパンがゆ食べさせてあげたら少し回復したようだ。
「…塩漬け依頼を半日で達成するなんてね。」
「たまたま昼に休んでたところにタマちゃんがやってきただけですよ。」
「オーサンがあなたたちを押すわけだ。」
「だからたまたまですって。」「そう、そう。たまたま。」
「そうたまたまがそこらに転がってるわけないでしょう」
発言的には危なく聞こえるのでこの辺にしておこう。
「それに何?あの薬草の量?いつ森に行ったのよ。」
まだ時間があったので森近くのマーキングに転移して森で取りまくりました。
取りまくったといっても見つけた2個のうち一つしか取っていないので取りつくしてはいません。
「分別されてないからこれから残業よ、ほんとにもう。」
すいません、レードと魔力的に強いものを選びましたので種類までは確認してません。
「今度、薬草辞典貸すからちゃんと勉強しておくように。」
「「はい。」」
「小言はここまでにしておきましょう。今日はお疲れさまでした。」
早めに帰れば、今日も皿洗いとウェイター。
と思いきや
「今日はシルド坊に賄い任せてみようかね。」
テナーさんからの無茶ぶりだ。
まあ、やれと言われればやりますけど。
ちょうど森で採取したハーブがあるので余り肉にまぶして<ジュー>
皆には好評だった。
『御姫様だっこ』ってもっとロマンチックにゃはず…
景色が目にもとまにゃぬ速さで流れていくにゃんて…
ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁ…
でもシルドさんって…
サンドイッチにパンがゆ…<じゅるり>…毎日食べられるレードさんがうらやましいニャ。
…はて、あのパンがゆ、乳を使ってたようだけど乳の味、しにゃかったにゃ。
注:猫に牛乳はNGです。




