2話 新人冒険者の止まり木亭生活
とりあえず人通りの少ない小道のわきに座って
「やられた。兄から聞いていたがこれが新人いじめか。」
「どういうこと?」
「新人への自称『ベテラン』さんからの『洗礼』だよ。」
「『洗礼』って」
「さしずめオーサ兄を気に入らない連中だろう。レニーア姉さんの話とオーサ兄の手紙からレードはどう考えた?」
「かなり親しい?」
「まあそこは後で兄に問い詰めるとして、受付を専属担当しているんだ多少なりとも親しくなるだろう。」
「そうだね。」
「ギルマスの娘で器量良し。そんな娘と親しくしてる男がいたら、面白くない連中もいるだろう。」
「でもなんで私たちまで?」
「そりゃ『憎いオーサンの弟達が(俺の)レニーアちゃんに直接対応してもらってるなんて羨まけしからん!』なんてね」
「ぷっ!なにそれ?」
「まあ、今日の件は明日、レニーア姉さんに話をするとして、問題は今夜の宿だ。場合によっては教会に泊めてもらうっていう手もある」
「そうなると神父様にばれるよね。シスターに心配かけちゃうよ。」
「最悪、野宿かな。野営地ごとに魔力マーカーつけといたからどこにでも転移できるけど…」
「あんたらここで何してるんだい?」
一人のおばちゃんに声をかけられた。
「あんたら新人冒険者かい?宿はどうしたんだい?先輩たちに予約取っておくように言われなかったのかい?」
「いえ、予約は取ってあったんですけど…」
「手違いでキャンセルされてしまって…」
[はは~ん、『ベテラン』さんからの『洗礼』受けちまったんだね]
「わかった。二人ともうちに来な。私の名前はテナーって言ってね、この先の『止まり木亭』っていう宿屋をやってるんだよ。」
「えっ、でもどこも満室って…」
「屋根裏部屋だよ。しかも宿代タダ!」
そんなうまい話…
「ただし、」
やっぱり条件がある?
「手伝ってくれないかい、手が足らなくって困ってたんだよ。」
そういうことなら、
「「よろしくお願いします!」」
ちょうど宿の手伝いを冒険者ギルドに頼みに行った帰りだそうだ。
着いて早々、屋根裏部屋?…
意外ときれい。埃積もってない!
とりあえず装備を外し着替えを持って中庭へ
井戸水は冷たいので『ヒート』で温めて体をふく。
男同士だがレードは肌を見られるのを極端に嫌う。
レードの嫌がることは基本しない。それが俺ルール。
もしかしたら胸に7つの傷があるのかもしれない。いつか打ち明けてくれると嬉しい。
で、俺は厨房での皿洗い。レードはウェイター。
皿洗いはシスターからしっかり仕込まれたし、落ちにくい汚れは『ヒート』で温めながら落としている。
レードのあの足運びは…剣舞だな。
体幹はしっかりしているから料理はこぼさないし、皿は落とさない。
「あんたら一人で二人分働いてるね。いやぁ助かる助かる。いい拾い物したよ。」
俺たちは『物』ではありません『者』です。
賄の味は…ちょっと微妙だった。
早朝、厨房を借りてお弁当を作っているとテナーさんが
「シルド坊、何作ってるんだい。」
一応使う食材などは断わりを入れていたんだが。
(もちろん材料費も払いました)
「僕たちのお弁当のサンドイッチですが。」
「そのレシピ、売ってくれないかい。」
このレシピもコウフィン公爵が広めていたはずなんだけど…
『弁当』という文化も今は廃れ、昼食は『丸パンを持っていくだけ』となってしまっている。
確かに家と職場が近ければ弁当なんぞ持つ必要がないし、冒険者自身、戦闘職がほとんどで、自分で料理する気がない者が多い。
結局『昼は丸パンのみ』となったんではないかな?
「おばちゃんどうしたの?」
「客に『昼が丸パンのみじゃ味気ない』っていうのがいてね。今、お前さんが作ってるの、手軽でおいしそうじゃないかい。」
主に大量消費の宿屋向けだが一応、食パンというものは売っている。
「しかし、それじゃ昼にはパンがパサついちまわないかい。」
食パンは切って食べるため、保存には向かないのだ。
「そこは、このブカ紙(柿渋紙)で包んでおくと昼までは持つよ。でこの竹籠(弁当箱)に入れて…完成!」
「そのブカ紙っていうのと竹籠はいくつかあるのかい。できれば売ってくれないかい。」
ブカ紙も竹籠も農閑期の大事な村の収入源だ。
もちろん村の物なのでちょろまかしてはいない。
材料を分けてもらい自分用に作ったものだ。
「いいよ。あっ水筒もいる?」
こちらも村から竹筒を分けてもらい…(以下略)
「そんなものまで用意してるのかい?」
背嚢から取り出すふりをして『収納』から5セット取り出した。
「おばちゃん、料金は後でいいから、5つほど俺が作ろうか?」
「じゃあ、お願いしようかねぇ。」
2セットも5セットもあんまり手間は変わらない。
水筒にお茶入れだけは時間がかかるが。
手早く作ると、
「はい、おばちゃん5セット。料金はおばちゃんが決めて。作っても売れなきゃ意味がないからね。レード洗い物終わったか?」
「終わったよ。」
「じゃあおばちゃん。行ってきます。」「行ってきます。」
俺たちは『いっけな~い』という女子高生のごとく、食パン加えてギルドへ駆け出すのであった。




