20話 新たなる旅立ち生活
ついに俺たちも16歳になり成人の儀が受けられるようになった。
同い年にはレードのほかにリリアーナという女の子がいる。
村に子供がいないわけではないが、子供も立派な労働力とあって一緒に遊ぶことは少ない。
教会は、畑地を持っていないため家の手伝いも少なく、その分、勉強や剣の鍛錬に当てさせてもらっている。
「私たちが成人すると、キンド一人になっちゃうね。」
「大丈夫だよ。僕らの世代は子供多いし。それに神父様が新しく子供を引き取る話をしていたよ。」
「そうか、そうなるとキンドも『お兄ちゃん』だな」
「うん。新しい子にシルド兄やレード兄から教えてもらった事、教えてあげるんだ。だから大丈夫だよ。」
キンドは立派に成長してるなぁ。
「キ、ン、ド、く、ん」
「レ、レード兄…な、なに?」
「シルドの真似しちゃダメ!絶対!」
「ひどいなぁ。僕、いたって普通だよ」
「何が普通なもんですか。森に魔法練習場を作って、Bランク相当の盾を作って、空や山の中に転移する者のどこが普通ですか」
酷い言い草だが、事実なので反論できない。
「それはそうだけど、シルド兄のすること面白いし、いろんなこと一杯教えてもらったんだ。ね、シルド兄。」
キンドはいい子だなぁ
「あのねe…」
「三人とも、聖堂に入りなさい。もうすぐ始まりますよ。」
神父様の言葉でレードの小言は止められた。(助かったぁ)
当初の予定通り、今朝方、巡回司祭様が到着なされて、これから成人の儀が始まる。
祝詞等が終わり、いよいよ職を賜る時間となった。
最初はリリアーナちゃんだ。
「リリアーナ=シュゲイナーよ。私と一緒に手を置きなさい。」
リリアーナちゃんと司祭が聖玉に手を置くと聖玉は輝き…
「リリアーナ=シュゲイナーが賜った職は『サイフォウ』」
司祭が告げると助手が辞書をめくる…
[司祭様こちらになります]
「改めて告げる。リリアーナ=ボウセキが賜った職は『裁縫』です。」
なんか発音が違ったが日本語の音を外人が発音すればこうなるのも無理はない。
次は俺だ。
「シルド=グロップよ。私と一緒に手を置きなさい。」
聖玉に手を置くと聖玉は輝き…
「ヤッホー!また会えたね。」
周りは白く塗りつぶされ、目の前には軽いノリの女神様がいた。
「魔法訓練、がんばっているかな?」
「はい、女神様のおかげで、レードと楽しくやっています。それにレードだけでなく兄や弟の助けになりました。ありがとうございます。」
「それはよかった。」
「ところであの時、俺の何に封印が移ったのですか?」
「……ごめんなさい…シルド君が気が付かない以上、それは言えない決まりなのよ。」
『気が付かない』部分……今の生活に不都合はない。もし『怒り』等の感情の一部なら逆に好都合だ。どんな場合でも冷静に判断できる。
逆に封印が解けて『怒り』爆発すると……バーサーカーモード?
「あっ!封印解けたとしても、そんな物騒なことにはならないから。」
口に出さなくても心が読めてるようだな。
「言ってしまうと『怒り』に封印はかかっていません。」
「じゃあ悲s…」「ストップ!」
「そんな問答してたら最後には解っちゃうでしょ。ともかく25歳になったら解けるからね。その時には盛大にお祝いしてあげるわ。」
「でも判んなかったら夜も寝れないよ。」
「解決しないことは後回しにしてグースカ寝てる人間が何言ってますか! さっさと本題に入るわよ。」
えっと…成人の儀…だっけ?
「あなたの賜る職は『影の立役者』よ。」
完全な裏方ってことか。一応聞いておこう。
「どんな加護なんです?」
「『表に出なければ、あなたの行動は他人に対し最大の効果を発揮する』というものよ。まぁこの『表』っていうのが結構曖昧なのよね。」
「わかっt、わかりました。よろしくお願いします。」
「後、今回は特別に神器を授けます。上手に使ってね。」
「えっ!…」
「シルド=グロップが賜った職は『カゲノタテヤクシャ』」
元の聖玉の前に戻ってきた。
「おぉっ! さらに神器を賜りましたぞ!」
いつの間にか俺は細長い中型の盾を持っていた。
形状的にはカイトシールドというものだろうか。
先端が鋭いので剣盾術が使えそうだな。
その間にも助手が辞書をめくる…
めくる…手が止まる。
さらにめくる……そして
[司祭様こちらとこちらになります]
「改めて告げる。シルド=グロップが賜った職は『盾職』と『役者』です。神器からしますと『盾職』がメインでサブ職が『役者』と考えられます。二つも職を賜り、さらには神器まで賜るとはめでたき事。皆さま拍手でお祝い差し上げて下さい。」
<…<パチパチパチパチパチパチ>…>
なんか恥ずかしいんですけど…
『カゲノ』がはしょられて『タテ』と『ヤクシャ』に分解されたらしい。
とはいえ実際に『影の立役者』なんて職業はないから今後は『盾職』としてやっていこう。それと神器については後で司祭か神父様に聞いてみよう。
次はレードの番だ
「レード=グロップよ。私と一緒に手を置きなさい。」
レードと司祭が聖玉に手を置くと聖玉は輝き…
「レード=グロップが賜った職は『シロキケンキ』」
ん?『白き剣鬼』?
確かにレードは光属性だから『白き』は解るが『剣鬼』? レードは優しい顔付きだから『鬼』は似合わないと思うのだが。
「おぉっ! 神器だ!再び神器を賜りましたぞ!」
レードの手には立派な白銀の剣が。
助手が辞書をめくる…
めくる…
めくる…
[司祭様こちらになります]
「改めて告げる。レード=グロップが賜った職は『剣士』です。」
『ケンキ』=『剣士』として載っていたのか『ケン』だけで識別されたのか?
あの辞書、見せてもらえないだろうか。(多分無理だと思うが)
「なんとシルド=グロップに続きレード=グロップも神器を賜るとは。皆さま再び盛大な拍手をお願いします。」
<…<パチパチパチパチパチパチ>…>
「これにて成人の儀を終了するものとする。」
司祭様(および助手)と神父様は控室へ移動した。
そしてシスターに促されて僕ら3人も控室に入った。
「「失礼します。」」
「しつれいします。」
「3人とも掛けなさい」
控室には3人分席があった。
キンドの分も用意されていた。
「まずはシルド、レード。神器の下賜おめでとう。その神器について司祭様から説明があるのでよく聞くように。」
「「はい。」」
「では司祭様。ご説明よろしくお願いします。」
<ゴホン>
「まず神器についてですが賜ることは珍しい事ではありますが奇跡というほどのことではありません。特にレード君は洗礼で英雄級の光属性を賜ったのです。可能性は大いにあったのです。」
英雄、勇者には光の剣と相場は決まっているのだ。女神様はよくわかってるな。
「ただそこにシルド君まで神器を賜るとはそれも2職持ちとは、巡回司祭人生では初めてのこと。このことは教会記録に『奇跡』として載せる案件となります。」
それは構わないんだが、
「司祭様。『神器』って何ですか?」
「神から賜る『職』に関係した道具のことです。『職』に関係していますので種類や形状なども様々ですが。賜った者には唯一無二の道具、となります。『唯一無二』なので譲渡等はできませんし、無理やり奪ったりすることは重罪となります。
道具として、共通して言えるのは『不壊』ということですね。多少傷つくことはあっても1日たてば元通りになるという報告もあります。」
なんだそのぶっ壊れ性能は。もしかして聖衣みたいにオリハルコンでも混ざっているのか?
「また本人の意思で性能が上がる、という報告も受けています。」
ますます聖衣じみてきたな。小宇宙ってどうやって燃やすんだっけ?
そうだ、俺の職業のことを考えると。
「司祭様。『奇跡として載せる』ことは構いませんが、神器を賜った事などは対外的には秘密にできますでしょうか。」
「できますよ。起こった『奇跡』は記録に残す必要がありますが、ご本人の意思が伴わない発表をしたとなれば、聖フィロルウェイン様に申し訳がありません。」
聖フィロルウェイン様って確か初代コウフィン公のことだよね。
「聖フィロルウェイン様は個人の意見を尊重する方でした。あなたが『発表したくない』と言えばそれに従うのが彼の方の教義でございます。」
「あの、私の剣についても発表は控えてもらえますか。」
「わかりました。そのように取り計らいましょう。」
「「ありがとうございます。」」
「シルド君もレード君も他に聞きたいことはないですか」
「いまは特には…」「…」
「明日からは州都まで、一緒の馬車旅だ。もし聞きたいことがあればその時に遠慮なく言いなさい。」
「「はい。」」
「では司祭様、もう少しすれば宴が始まります。どうぞごゆっくりお楽しみください。シルド、レード、キンド。手伝いに行ってきなさい。」
「「「はい!」」」
さて成人祝いの宴だが。
俺は最初だけ顔を出して、レードから剣を借りて作業所へ引っ込んだ
どうせみんなどんちゃん騒ぎしたいだけなのだから主役がいなくても気にせんだろう。
粗方作業が終わり後は固まるのを待つだけの状態で、ふと人の気配に気づいた。
「シルド。私の剣の鞘を作ってくれてるんでしょう?」
「ああ。女神様も鞘もくれたらよかったのにな。もうじきできるよ。」
「ありがとう。シルド。」
「…シルド…私、いろいろしてもらってるけど、シルドに何も返せてない。」
「……俺の職は『影の立役者』だそうだ。」
「えっ『盾職』と『役者』じゃなくって?」
「女神様から直接聞いた。『盾職』『役者』は神の言葉の誤変換だ。」
「でも…そうなるとシルドはどうするの?」
「どうって…何も変わりはしない。僕…俺の今の力はレードを守るために女神様に願った力だ。」
「私は…守られるだけは嫌だ。私も戦える。」
「わかってる。だから…裏の仕事は俺が全部やる。お前は表の仕事を全部しろ。」
「『全部しろ』なんて強引だな。」
「こうでも言わないとお前は納得しないだろ。」
「はいはい、わかりました。」
「納得してくれたようで何よりだ。納得ついでに表の面倒ごともレードに丸投げだ。」
「それってひどーい。」
…
…
「「フッ」」…「「フフフッ!」」…「「アハハハハハハハハハハハ!」」
夜の作業所に笑い声が響く。
朝、出立の時
「キンド、後のことはよろしくな」
「神父様、シスターのこと頼んだよ」
「「わかってるよ。シルド兄もレード兄も頑張ってね。」」
「神父様、シスター、行ってきます。」
「神父様、シスター、元気でな。」
「二人とも、けんかはするなよ。」
「体に気を付けるんだよ。」
俺たちはドゥーブル州の中心であるドゥーブル伯爵領の州都へ向かうのだった。
「育てた子の中で、シルドが一番あなたに似てますね。」
「そうかな?そうなるとレードはおまえ似か?」
「『おまえ』だなんて『母さん』と呼んでくれてもいいんですよ」
「そんな遥か昔の話を持ち出さなくても…」
「確かに遥か昔ですね。」
「しかし、俺、『皆を愛していきたい』と自分の意見は言ったけど、個人の意見を尊重するような事言ったっけ?」
「時が経てば、伝えられる事柄は変わるものです。」




