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異世界転移バーテンダーの『カクテルポーション』  作者: score
第五章 幕間

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在庫危機(1)

 普段よりも真面目な顔をした銀髪の少女は、言葉を締めくくる。


「以上です」

「了解。じゃ、今日も一日頑張ろう」


 時刻は昼を過ぎて、午後三時過ぎ。

 開店までおよそ二時間を切ったところで、俺とサリーの二人はミーティングを終えた。

 ミーティングなどと言っても、昨日は何があったかを軽く聞いただけだ。それで質問があるなら聞くし、連絡事項があれば報告してもらう。

 買い出しのメモは営業後すぐに取るものだし、発注もそう。生ゴミなどの処理も営業後に済ませるので、実は営業前に確認することはそう多くない。

 開店までは余裕を持って、余った時間は練習などに当てるのが常だった。



「でも、珍しいですね。昨日、お店に顔を出さなかったの」


 カウンターの内側でコールドテーブル上に器具を展開しつつ、サリーは俺の方を見ずに言った。どことなく、素っ気ない気がしないでもない。

 俺はカウンターの椅子に座り、レジスター内のお金のチェックをしていたところだ。

 作業の手を止めて彼女に向き直る。


「そうか?」

「はい。周期的に、そろそろ顔出すだろうなと思っていたんです」

「まぁ、行っても良かったんだが」


 昨日はスイを家まで送り、寝かしつけてから自由になった。道中持ち直したようにも思えたが、途中からまた気持ち悪いのがぶり返したようで、結構大変だった。

 スイの世話から解放された時点でまだ店は開いていたので、確かに顔を出すこともできた。

 が、その時点で俺は日本酒をたらふく飲んでいたし、特に約束があるというわけでもなかった。何より疲れていた。

 大人しく寮に帰り、コルシカにお茶を入れてもらってのんびりすることにしたのだ。

 ……腕も痛かったし。


「ま、何も無かったなら大丈夫だろ」


 変に突っ込まれても面倒だな、と俺はぶっきらぼうに言う。

 が、サリーはそんな俺に白けた目を向けている。


「関係ないですけれど、スイさん二日酔いでダウンしているんですってね」


 それは昼時、ここでオヤジさんの作ったまかないを食べていたときの話だ。

 いつもは良くスイも昼食に顔を出しているのだが、今日は姿が見えなかった。それについてそれとなく尋ねれば、オヤジさんは少し俺を睨むようにして教えてくれた。

 今日は体調不良で寝込んでいるのだと。


「……そうだな」

「あの人に、一体どれだけお酒を飲ませたんですか?」

「……俺じゃない」


 飲ませたのは決して俺じゃないし、そもそも昨日何があったわけでもない。

 ただ、おんぶして家に送ってやっただけだ。彼女が今日になっても回復しないほど酔っていたのは驚きだったが。

 どうやら、スイは日本酒が残る体質だったようだ。


「ふーん」


 しかし、サリーの目は俺に対してやけに冷たい。


「ああもう。何もないから気にするな。昨日は仕事の付き合いだ。作業に集中しなさい」

「……ふーん」

「…………」


 俺は意図して、その話題を切った。サリーはまだ何か言いたそうだったが、俺から言えることなど何もない。

 そのまま俺はレジ金のチェックに戻り、暫くは二人無言で作業をした。

 ややあって、確認を終える。前日の締めと差異がないことを記載し、スタートの記録を取ってから俺は背筋を伸ばす。

 サリーはアイスピックを片手に氷を割る作業に入っていた。


「そういえば、フィルは今日どうしてるんだ?」


 サリーに尋ねるが、彼女はむーんと唸る。


「聞いていませんわ」

「そうか。そんなこともあるんだな」

「どういう意味です? 私達だって、別に四六時中一緒なわけじゃないですが」

「そうなんだがな」


 それでも、なんとなく二人は互いのことは、何でも知っているような気がしていた。

 冷静に考えれば、そんなわけはないのだが。

 なんてことを思いつつ、俺は次の仕事と在庫をチェックすることにした。


 店の規模にも寄るが、ウチで言えば冷蔵庫と冷凍庫は予備も含めて複数ある。


 まず、メインで扱うのが、コールドテーブル。冷蔵庫と冷凍庫が一緒になった冷凍冷蔵庫を横にし、上のスペースを作業に使えるようにしたもの。


 冷蔵庫側には、ソーダ、トニック、コーラ、ジンジャーエール等の炭酸飲料と、各種フレッシュのジュース。冷やしておくべきリキュールや、ベルモットなどが入っている。

 あくまでウチ基準だが、ソーダとトニックは瓶で十本ずつ、コーラとジンジャーは六本ずつ中で冷やしてある。

 他にも、マラスキーノチェリーやミントチェリー。オリーブの実やミント。後は当日買ってきた果物などもここに入る。


 冷凍庫側には、スピリッツ系と氷。この世界で言えばジーニ、ウォッタ、サラム、テイラなどの凍らないベースと、カクテル用の氷だ。

 他にも、凍らない薬酒──この世界では魔草ポーションのいくつかもこの中。

 通常はそれぞれ一本ずつ。ただ、中身が半分を下回りそうになったら、在庫を補充しておくのが基本。


 で、コールドテーブル以外にも、冷蔵庫や冷凍庫はある。

 ショーケースと呼ばれているのは、ガラス張りで外側からも在庫の様子が確認できる冷蔵庫の亜種のようなもの。

 エール系の瓶とグラス。それに足りなくなったときの為に炭酸飲料の在庫もいくつかはこの中で冷やしてある。

 ウチでは常時取り扱っているわけではないが、ワインやその他発泡酒、スパークリングワインなどを仕入れたときもこの中。

 余談だが、夏場におしぼりを冷やしておくのもこれだ。

 コールドテーブルがカウンター中央にあるとすれば、このショーケースはカウンターの端。あまり他の人間の作業の邪魔にならない場所にある。


 他にも、氷の在庫、及び割る前の氷を入れておくための、大型の冷凍庫。

 営業中に使うのはよほどの緊急時だけなので、基本的には伝票整理などの机代わりに使われている。

 氷屋さんに仕入れを頼むときも、基本はこの中に入れてもらうことになる。


 それに、酒に関するもの以外を入れておく冷蔵庫。

 ライムやレモンなど生鮮食品の在庫に、カウンターでも出せる簡単なつまみ、チャームの類。後はオヤジさんがたまに作る冷製メニューなどを入れておくことが多い。


 また、冷やしているわけでもなく、常温で在庫を保存しておく在庫棚もある。

 場所は酒棚の下。弾薬化している集まりと、ボトルの形で保存しているものがある。

 省スペースを優先すれば全部弾薬化すれば良いのだが、そうすると俺以外に解除できない。

 というわけで、ある程度はそのままの状態でも保管しているわけだ。



 と、最後だけ違うが、今この店──というかカウンターの中だけでも大小合わせて四個の機械が存在している。チェイサー用の製氷機を導入すれば更に増える。

 オヤジさんの厨房の方でも、イベリス製の機械が使われているので総数はもっとだ。


 営業後は基本的に、それらの中身を総合的に見て、買い出しや発注の量を決める。その為、それらのチェック自体は店を出る段階で一通りは済んでいる。

 とはいえ、誰にでもミスはあるもの。営業前のまだ間に合う時間にもチェックはする。

 それが今、俺がやろうとしていることなわけだ。


 で、まずは手始めにコールドテーブルの冷蔵庫側を開ける。

 しっかりと、使った分の炭酸飲料も補充されている。その日使わなかった分を前に持ってきているのも分かるので、このあたりの丁寧さはフィルの仕事だろう。

 続いて冷凍庫側も開けた

 ジーニの減りがやや目立つ。閉店まで持つとは思うが、補充しておいた方が良さそうだ。

 そう考えて、俺は常温保存の在庫棚を開けた。



 不定形の、ぶよぶよとした謎の物体がそこにあった。

 小さな猫くらいのサイズで、半透明で、良く分からない。



 俺はバタンと大きな音を立てて戸を閉めた。



 落ち着こう俺。きっと何かの見間違いに違いない。

 ここは飲食店だ。ネズミが出たりすることもある。

 さっきのは俺が疲れていて、ネズミをうっかり変な物と認識してしまっただけだ。

 まったく、ネズミが出るなんて。もう少し、衛生管理に気を使わないといけないな。さっさと追い払おう。



 意を決し、戸棚を再び開いた。

 こんにちは半透明。

 それが、二つに増えてる。



 バタンともう一度大きな音を立てて戸棚を閉める。

 その俺の行動に、氷を割っていたサリーから苛立った声が上がる。


「さっきからなんなんですの? 普段は店を大切にしろって口を酸っぱくして言っているくせに」


 そんな彼女に、俺はちょいちょいと手招きした。


「ちょっと、来い」

「はい? 今、氷割っているところなのですが」

「良いから」


 サリーは不思議そうにしつつ、俺の手招きに合わせてこちらにくる。

 俺は場所をサリーに譲り、彼女に戸棚を開けるように求めた。


「さっきからいったい何を──」


 ブツブツ言いながらサリーが戸棚を開ける。

 そして、目に飛び込んでくるぶよぶよが、三つ。


 サリーは超速で戸棚を締め、俺に真っ青な顔を向けた。

 二人顔を見合わせ、こくりと頷きあう。



「なにこれ?」

「なんですのこれ?」



 ちょっと俺の知っているバーの知識では、対応できない問題が起きたみたいだった。



ここまで読んでくださってありがとうございます。


更新、遅れてしまい申し訳ありませんでした。


※1006 誤字修正しました。

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