昔話
今回、ちょっと長くなりました。
また、今回少し実験的な書き方を試しています。ちょっとだけ柔軟な気持ちで読んでいただけると幸いです。
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俺とタリアが出会ったのは、俺がまだ十代の頃だったな。その頃の俺は、前に言ったかもしれんが、俗に言う冒険者ってやつだ。
「……どうして、冒険者に?」
どうしてってもな。そもそも、俺は親の顔も知らねえ生まれでな。物心ついた頃には、この辺より大分粗末な街で、親に捨てられたガキ同士で集まって暮らしてた。
そんな環境が嫌になって、腕っ節を頼りに戦うことを選んだってだけだ。
冒険者なんて気取っちゃいるが、結局ただの流れ者さ。国の中を練り歩いては、街や村の厄介事を解決して金を貰う。そんで仕事がなくなりゃまた違う街に、それだけだ。
国のほうで依頼の斡旋なんかもしてるが、小さな村なんかじゃ、そもそもそんなところに依頼なんてだせねえしな。小僧の時分の俺だって、それなりに喜ばれたもんさ。
んで、そんとき俺は、小さな村で、森の魔物をなんとかしてくれって言われた。報酬は大したことなかったが、一宿一飯の恩ってことで引き受けたんだ。
そしたら、思ったよりも遥かにでけえ熊が相手でな。『魔獣』っていう厄介な奴だった。
ああ。『魔獣』ってのは、生まれつき身体に魔石を取り込んだとかいう、魔物の強化版みてえな奴さ。普通より一回りでかくて、強くて、おまけに魔法が効きにくいってんだ。
「『龍草』の動物版、的な奴か?」
ん? 良く『龍草』なんて知ってるな。まぁ、そういうことだ。
で、俺は死力を尽くしてなんとか『魔獣』を倒したんだが、深い森の中で俺は一歩も動けなくなっちまった。体中傷だらけで、手足なんてもうボッキボキさ。
俺はそこで死ぬんだと思った。
諦めちまったとたん、ヤケに心がすぅっとしたのを覚えてるぜ。遠くの方で鳴いてる鳥の声は綺麗だし、風が葉っぱを揺らす風景が穏やかに見えた。
で、ゆっくり意識が落ちて行って、死んだと思ったが、目覚めたときには知らねえ家の天井が見えた。
「……つまり、オヤジさんは、そのタリアさんに命を助けられたってわけだ」
先読みすんなよ……ま、そういうことだけどよ。
──おい、手が止まってるぞ、もっと飲め飲め。
キブシ。うんと苦いのくれ、二杯な。
っと。まぁ、続きだが、森の奥でぶっ倒れていた俺を見つけたのが、タリアだった。依頼を受けた村ってのが、たまたま、エルフの隠れ里のご近所さんだったわけだ。
目が覚めたときのことは、今でも夢に見るぜ。
絶対に死んだと思って朦朧としてるとき、綺麗な声が話しかけてくるんだ。俺は女神様が迎えに来たのかと思ったけど、どうにも違うらしい。
で、恐る恐る眼を開けてみたら、ものすげえ美人が俺のことを覗き込んでるんだよ。しかも、第一声が『おはよう? 生きてる?』とか聞いてきてな。
ん? なに変な顔してんだお前? あ? なんでもない?
……まあいい。俺も確かに、亡くなった妻をものすげえ美人とかな……なんでもねえ。
そんで、死にかけだった俺は、そっから何ヶ月かベッドの上でその女、タリアの世話になった。
はじめの頃は、身動きひとつ出来ないどころか、寝てるだけでも痛くて満足に眠れなかった。体なんてなくなれば良いと何度も思ったさ。このまま死にたいともな。
だが、タリアは見ず知らずの俺なんかの世話を、せっせと焼いてくれた。
良いって言ってるのに身体を拭いてくれたり、暇なときは話し相手になってくれたり、熱でうなされている晩には寝ないで看病してくれたり。
献身的って言葉がピッタリだった。
話してみりゃ、ちょっとずれてるけど良い子でな。俺のくっだらねえ冒険話を、目ぇキラキラさせて聞いてくれた。
それでだ。最初はどうしてこんなに、って訝しんでた俺だが、体を起こせるくらいの頃にはまぁ、なんだ。
惚れるなってのが、無理な話だ。
だが、同時に不思議にも思っていたさ。そこがエルフの隠れ里ってのはタリアと話して分かっていたが。
ほかのエルフってのの姿が、ひとっつも見えなかった。
ま、結論から言うと、俺は隠れ里の厄介事だったわけだ。
森を荒らしていた魔物ってのは、エルフ共にとっても脅威だった。そして俺がその魔物と戦ったその日、実はエルフ側も人員を出していた。
それが、タリアだった。
エルフってのは、どうにも攻撃的な魔法ってのが種族的に苦手みたいでな。普段は結界だの魔物除けだので生活圏を確保してるが、魔獣には効かなかった。
しかも魔獣ってのは、生まれつき高い魔法耐性を持ってるもんで、攻撃的な魔法を使えないエルフには分が悪かったんだな。
だが、例外が居た。ハーフエルフだ。
「お待ちどお。うんと苦いの、三杯だ」
三杯? って、ああ。
……良いよ、お前も飲めよキブシ。
さて、ハーフエルフの話だな。ハーフエルフってのは、エルフに比べて寿命が短い。エルフが三百年なら、ハーフは百五十年くらい。
しかし、人間の血が混ざってるせいか、エルフと違って攻撃的な魔法にも親しみやすくなるらしい。事実、タリアは魔法なら、だいたい何でも使えてた。
エルフの連中は、そういうのもあってハーフを、疎ましく思うのさ。野蛮だってな。
だが、そのとき連中はハーフエルフのタリアに頼るしかなかった。その隠れ里には、他にはエルフしか居なかった。戦う手段が無かったんだ。
とは言っても、タリアにだって魔獣をどうにかできる保証はねえ。それなのにアイツは討伐を引き受けた。それで皆の為になるなら、なんて馬鹿みたいな気持ちだったらしい。
それこそ決死の覚悟だ。反対する親を振り切ってまで魔獣の元に向かった。
で、蓋を開けてみりゃ、魔獣と刺し違えた俺が倒れていたわけで、図らずして俺はタリアを命懸けで救ったみてえになってた。
「……おいおい、フレンの馴れ初めにしちゃ、かっこ良すぎじゃないか?」
黙れキブシ、金払わねえぞ。
……だからってわけじゃねえが、俺とタリアが思い合うようになるのに、大した時間は掛からなかった。
ちょっとずつ打ち解けて行って、安静にしない俺に、少し小言を言うようになったときは変に嬉しかったな。俺を特別視してくれたって感じで。
しかしだ、タリアの母親は、猛反対だったよ。
母親の名前は──ノイネって言った。ノイネは純粋なエルフ。つまりノイネの相手が人間だった。
もともとノイネは人間に興味があるタイプのエルフでな、若い頃には人間と交流があって、そして人間と恋に落ちた。それで、タリアが生まれたらしい。
だが、タリアは父親の顔も、名前も知らないと言っていた。
その人間がどうしたって言ったら、逃げたんだ。ノイネが妊娠したと知って、あっさりとな。
「……そんな、酷いことを」
確かに酷いが、相手にしちゃどうなんだろうな。恋に浮かされてるときは良いが、子供が出来たと知って急に怖くなったんだろう。
相手が三百年生きるって知ってて、それでもずっと一緒に居るだなんて、考えられなかったのかもしれねえ。
「……でも、そんな裏切り、ないって」
……ふっ。だよな。俺だって、もしそいつが目の前に現れたら、ぶん殴ってるさ。
まぁ、そんなんだから、ノイネの俺に対する印象は最悪だ。
まともに口を聞いてくれねえのは当たり前。娘の命を救ったことには礼を言うが、近づくんじゃねえって面と向かって言われたくらいだ。
「娘に近づく男に対するお前と変わらないじゃないか」
「あっ、キブシさん! 思っても言わないことを!」
……てめえら、後で覚えてろよ。
まぁ、そういうわけでノイネには嫌われていたが、他はそうでもなかった。
俺がある程度自由に動けるようになってから、隠れ里のエルフともいくらか話をした。
連中はまぁ、話してみればわりと分かるやつらだ。タリアにだって陰湿ないじめをしてたわけでもない、ただ避けてただけで。
で、俺といえば曲がりなりにも、魔獣を倒したヒーローだ。エルフ共の恩人でもあるわけだから、悪い印象はなかったんだな。
俺としても、タリアを一人で差し向けたことに怒りはあるが、それで救われた訳だから、あんまり言えなかった。
俺とタリアが、恋仲になったのを知っても、特に何も言われなかった。
「……じゃあ、オヤジさんとタリアさんの仲に反対してたのは、そのノイネさんだけってことか?」
で、俺らしくもねえが、そのノイネには、特に弱かった。
「どうして?」
俺の傷をぐんぐん治してくれた薬ってのは、全部ノイネが作ったものだったんだよ。
こうまで言えば分かるかも知れねえが、ノイネはいわゆる薬師だ。お前が知りたいって言ってる『エルフの薬酒』だのの、専門家さ。
人間と知り合った経緯も、きっとその辺りだろうと踏んでる。
……変な顔すんなよ。わりいが、繋がりが無いってのも、嘘じゃないんだ。
「……つまり、駆け落ちした?」
……そうなるな。
俺とタリアの気持ちが通じてからも、看病は続く。半年も経つころには、全快も間近だったよ。
そんなある夜、俺はノイネと差し向かいで話した。こっ恥ずかしい話だが、娘さんをください、みてえなやつだ。
ノイネは、そんな俺に一切の譲歩をしなかった。『人間なんかに娘はやらない』の一点張りさ。しかし俺もそんときばかりは食い下がったね。若かったってのもある。
そりゃもう、青くせえことを、延々と……。
──だぁ! キブシ! もう三杯もってこい! 大至急だ!
「ええ? そりゃ、私は良いけど、だな」
「大丈夫かよ? 遅れるとまたスイに……」
大丈夫だっての。心配すんなよ! おら、さっさとグラス開けろ。お前ら。
んでだよ。そんな話を延々と続けてたら、先に寝た筈のタリアが起きてきちまった。
俺はあれよ? もう、そこでプロポーズでもしてやっかってくらいの勢いよ。だけどノイネの奴は、もう寝るってんで話を切りやがった。
だが、そんときにボソって言ったひと言を、俺は聞き逃さなかった。
『こんなに夜更かししたら、明日寝坊しちまうよ』って、言ったんだ。
それが、ノイネの──おう、洗い物なんか嫁に任せろ。な、ソソマ、な──そう、それがノイネのメッセージだった。
翌朝、俺は太陽より早く起きて、そんでタリアを、攫った。言い方悪いな、タリアと駆け落ちしたんだ。
ノイネには、置き手紙だけを残した。俺の全財産も、医療費として置いてった。だけど、タリアだけは諦められなかった。
タリアは戸惑っていたが、最後には俺に付いてきてくれた。
それからは、まぁ大した話もねえ。
一匹狼だった俺は前衛になって、魔法をこなせるタリアが後衛に付いた。
それまでよりもずっと戦いは安定したし、実力以上の相手ともやり合えた。
……欠点を上げるとすれば、酒を飲み過ぎると怒られるのと、酒場で女冒険者と交流できなくなったことくれえだな。
……変な目で見んなよ。遊んでねえよ。ただの情報交換だ。
で、それなりに有名になってきたところで、ふと思ったんだ。
二人で居るのは楽しいが、いつまで続けるつもりだ、ってな。
引退にはちと早いが、俺は三十になる前に冒険者を止めることにした。
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「それからは、まぁ、居心地が良いこの街を見つけて、二人で安定した暮らしを夢見たってわけだわな」
それまで饒舌に話していたオヤジさんは、そこで一息をつけるように、口を止めた。
思い出話をしている彼は、とても楽しそうに見えた。タリアさんとどんな話をしたとか、彼女はこうだったとか、こんな楽しそうなオヤジさんは珍しいと思った。
だが、この先の話を俺は端的に知っている。
ここからは、オヤジさんの、傷に触れる話だ。
「……わりい。キブシ。もう一杯だけくれねえか」
俯いたまま、オヤジさんは途中から隣に座っていたキブシに言った。
キブシは少し困った顔をして、それから言いにくそうに答える。
「フレン。飲み過ぎだぞ、もう──」
「頼む。もう、一杯だけで、良いからよ」
そこに込められた感情が、じっとりと伝わってきた。
言いたいが、言いたくない。
吐き出してしまいたいが、それが辛くて仕方ない。
そういうお客さんにバーで出会うことはそう多くない。基本的に、バーは楽しみに来る場所だから。普通は、笑う場所だから。
バーで辛い顔をする人は、そんなに多くはない。
だけど、やっぱり楽しいだけじゃない。
心を自由にして、重しを下ろすためにお酒を飲む人だって、居る。それがバーテンダーと二人きりだと、ふと、辛さが出てくるときがある。
そういう人に、どんなお酒を出して良いのか、悪いのか、いつだって迷う。
でも、今は俺が踏み込んでいる、ところだから。
「キブシさん。すみません。少しだけカウンターをお借りすることはできませんか?」
「え?」
俺は、キブシさんに凄く失礼なお願いをしていた。
店に飲みにきて、その店に無い酒を作らせてくれなんて、ぶん殴られて出禁にされたっておかしくない無礼だと思う。
その覚悟で、俺は頼んだ。
キブシさんは最初面食らったようにしていたが、すぐその表情を笑みに変えてくれた。
「……ふふ。構わないよ。今はもう営業時間外だしね」
言ってキブシさんは、カウンターで洗い物をしていたソソマさんに目配せをする。
ソソマさんもまた、嫌な顔一つせずに俺に頷いてくれた。
「気にしないで。そう、私も一回見てみたかったしね」
彼女の微笑みに少し救われつつ、俺は最後にオヤジさんに目を移した。
「……小僧?」
「俺のカクテルじゃ、だめかな?」
オヤジさんの、問いかけるような視線に、俺は自信なさげに問い返した。
やや、沈黙があって。
オヤジさんは、曖昧な笑みを浮かべ、言った。
「頼む」
「かしこまりました」
俺は深くお辞儀をして、カウンターへと足を踏み入れる。
ここまで読んでくださってありがとうございます。
少し遅くなってすみません。
今回、前書きでも触れましたが少し実験的な書き方をしています(砕けた二人称? 的な書き方)
あまりに読み辛いとしたら、いつもの一人称で書き直すことも検討いたします。
その場合には、言って頂けると幸いです。
※0623 表現を少し修正しました。




