3:わたしにピンクは似合わない
「……なんですか、これ」
バッグの中身を移そうとワードローブを開いたレマリーが、あきれ返った声をあげる。明らかに怒りを含んだ彼女の声の原因を探ろうと、横からのぞきこんで、わたしも言葉を失ってしまった。
ぎゅうぎゅうに詰め込まれたドレスも、夜着も、スポーツウェアも、目に痛いピンクばかり。
「お嬢様には薄い青がお似合いなのに、そんなことも知らないまま、揃えたんですか」
レマリーが不機嫌いっぱいの顔で、伯爵家仕えから選ばれた、ミナというメイドをにらみつける。すると。
「も、申し訳ございません!」
彼女は借りてきた猫のように、本当にすまなそうに萎縮してしまった。
「旦那様が、『十代の女性はピンクが好きだ。それで揃えればシンシア嬢もたいそう喜ぶに違いない』と、頑として譲らず……」
ふと、鏡台に映った自分の姿をあらためる。容姿もスタイルも抜群のロザリアお姉様と違うわたし。何もしなくても頬の血色が良い、まだ幼さの残る顔、凹凸の少ないからだ、ヒールを履いてなお足りないように見える身長。
子どもだと、思われて当然だ。
「ま、まあまあ、レマリー」
劣等感を押し込めて、レマリーの怒りをなだめ、ミナに向き直る。
「ごめんなさいね。レマリーは誰にでもこういう物言いなの。わたしのことを思ってくれているのはたしかだから、これからはふたりでわたしを助けてくれると嬉しいわ」
その言葉に、ミナはほっと息をもらし、
「かしこまりました……!」
と深々と頭を下げる。
「私の態度で、お嬢様の格を下げるわけにはまいりません。私情はこの際捨てて、お嬢様のお望みにかなう振る舞いを心がけます」
レマリーも、まだくちびるを尖らせながらも、一応はわたしの言葉を受け入れてくれたようだ。
「さあ、ふたりとも早速お仕事よ! 晩餐に間に合うように、身支度を手伝って!」
「はい」
「かっ、かしこまりました!」
わたしの鶴の一声で、レマリーとミナはすぐさま仕事モードに入る。
まるでふたりが組むことがあらかじめ決まっていたかのような連携の取り方で、わたしの服を脱がせると、石鹸を泡立てた湯舟で頭から爪先まで、旅の汚れを落とし、晩餐に相応しいドレスを着せてくれた。これもピンクだが。
鏡台に向かって座ると、ふたりがかりでわたしの髪を結い上げてゆく。背中まである私の髪は、ロザリアお姉様のような、お母様譲りのつややかな黒髪ではなく、お父様の金髪を引き継ぎ損ねた、チェダーチーズのような色合い。
『オレンジの猫は賢くないんだぜ!』
いつだったか、お父様の商売相手としてやってきた商人の息子が、親のいない隙に、わたしの髪を指さして嗤った。当然わたしは、
『ぬくぬく育てられたラグドールは、さらに愚かだというわ』
と言い返して、その子だけでなく、ロザリアお姉様も、周りの使用人たちをも、絶句させたものだけど。
そんなことを思い出しているあいだに、ふたりの優秀な世話係は、すっかり身支度を仕上げる。化粧で無理矢理幼さを抑えた感は否めない。けれど、ユーベル伯爵と向かい合って、子どもすぎると嗤われない程度にはなっただろう。
「ありがとう。レマリー、ミナ」
ふたりに礼を述べると、彼女たちは顔を見合わせ、レマリーは得意げにくちびるの端を持ち上げ、ミナは安堵したようにおずおずと微笑む。
まず、もっとも関わる伯爵家の使用人の信用を得たのは、確実だった。




