4:少し近づいたと思ったのに
結論から言おう。
晩餐は退屈だった。
料理人が一切手を抜かずに作り上げたフルコースは、たしかに素晴らしかった。だけど、それ以上に、ユーベル伯爵の話が、けっこう鬱陶しかった。
なにせ、わたし自身のことより、アスコット家の資産はどれくらいだの、伯爵家には月にどれだけ支出してくれるかだの、お金の話ばかり。
それが止まったかと思えば、今度は伯爵の自慢話が始まる。
「――というわけで、領地を荒らした灰狼の巣窟に、僕自らが火を放ち、害獣を一掃したのさ!」
従騎士から正騎士になったばかりの男子が、初の手柄として語るならば、可愛いものだろう。だけどそれを二十五の男性が、しかも伯爵ともあろうひとが、肉料理を食べている最中に、何年も前のそういう話をするものだろうか。
「まあ、それは素晴らしいですわね!」
「そうだろう!? 侍従のレイモンドには、『もっと自慢できるお手柄を得てからになさいませ』なんて言われるけれど、シンシア嬢はわかってくれるんだね!」
色々と物申したいところをぐっと呑み込んで、ぱん、と手を打ち合わせて賞賛の言葉を送れば、彼はぱっと、子どもみたいに笑みをひらめかせ、身を乗り出す。牛フィレ肉のグレイビーソースがナプキンに浸りそうになって、見ているわたしがひやひやした。もっとも、その前に、伯爵の背後に控えていた、話題のレイモンドが、わざとらしく咳をひとつしたものだから、伯爵は不満げにしながらも身を引いたけれど。
「ところで、シンシア嬢。いや、シンシア」
デザートのマスカットを食べ終わったところで、ユーベル伯爵がナプキンで口元を拭いながら、目をきらきらさせて提案をしてきた。
「なんでしょうか、ユーベル伯爵」
せめて好印象を与えるよう、かわいらしく小首を傾げて問いかけると、「ほら、それ」と、思いっきり指を差された。
「僕たちは夫婦になる間柄だ。他人行儀な呼び方でいるのもよそよそしいだろう」
言うことはわかる。わたしたちは婚約者だ。親しさを増す交流をするのは当然だろう。
「僕は君をシアと呼ぶ。だから君も、僕の名前を呼んでくれないかな?」
「ええと……ジェラルディン様?」
初日からなかなかに踏み込んでくるかただ。少々引き気味になりながら名を呼ぶと、彼はふるふると首を横に振り、胸に手を当てた。
「ジェラルド、と。親しい相手はそう呼ぶ。家族もそうだった」
家族、のところで、伯爵の表情が少し寂しさを帯びて沈み込む。そうだ、彼がこの年齢で伯爵位を継いでいるということは、家督を継げる男子は、ユーベル家に残っていない。少なくとも、父親は亡くなっているのだ。
すこし子どもっぽいところも、彼の孤独感を思うと、同情すべき点なのかもしれないという思いが出てくる。
(意地悪く解釈しすぎたかな、わたし)
背を伸ばし、すうっと息を吸い込んで、精一杯、相手を安心させる微笑みで、告げる。
「わかりました、ジェラルド様」
ユーベル伯爵、もとい、ジェラルド様が、心底嬉しそうに目を細める。
ちょっとお金に執着しがちで、幼いところもあるけれど、わたしたちはうまくやっていける。仲の良い夫婦になれる。
そう信じた。




