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バニーガール神に選ばれたので、学校がダンジョンになった  作者: 浦賀やまみち
第二章 学校国家

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第08話 現実だ




「おつかれー」



 今は『クラスチェンジ相談室』と名前を変えた歴史科教員室。

 引き戸が開き、ひなたの軽い声が室内に滑り込んだ。



「……本当に疲れた」



 俺は椅子にもたれ、瞼を揉みほぐす。

 目の奥が疲れ切っている。


 急ぐ必要があったとはいえ、二百人を一人三十秒のペースではきつかった。

 時計を見れば、午後四時を回っていた。



「お茶、いれてあげる」

「コーヒーにしてくれ」



 勝手知ったるなんとやら。

 ひなたは、茶棚代わりになっている本棚からカップを二つ取り出した。


 片方は、自分専用だと勝手に用意したものだ。



「砂糖は一つね」

「いや、頭を使ったから、二つにしてくれ」

「はーい」



 窓の外を見れば、夕暮れに染まっている。

 偽物の空なのに、元いた場所とリンクしているっぽい。

 どういう原理なのだろうか。


 ゴブリン討伐後、俺が怒りに任せて放り投げた金属バットが、空に突き刺さっているのが笑える。


 落ちてくる気配はない。

 おそらく、空には天井があるのだろう。

 少なくとも、あのバットはそう主張していた。



「みんなの様子はどうだ?」



 カップが置かれる音が、小さく響いた。


 早速、熱いコーヒーを啜りながら思う。

 今後は、こうしたインスタントコーヒーでさえ、贅沢な嗜好品になり得る。


 寝起きに飲めなくなるのは辛い。



「やっぱり、携帯やネットが使えないのはキツイね」

「……まだ、そのレベルか。帰れないって落ち込んでいるやつは?」

「少しだけ……。」

「まあ、一日も経っていないのに、お通夜ムードになられても困るか」



 肝心の生徒たちの危機感が想定よりも低く、思わず肩を揺らす。

 つまるところ、退屈だということに他ならない。



「……ねえ、先生」



 ひなたは、口を付けないまま両手で持っていたカップをそっと下ろした。

 期待を含んだ上目遣いに、何を求めているのかはすぐに分かった。



「現実だ。疑うより、今は前を見ろ」



 だが、慰めたりはしない。

 現実を短く言い切る。


 ひなたの肩がびくりと震えた。

 何も言わない。


 ギシッ、と椅子を鳴らして回し、俺は茜色に空を眺めた。


 雲がゆっくりと流れている。

 扉を挟み、『クラスチェンジ相談室』の外から、生徒たちの喧騒が聞こえる。


 それは、昼休みや放課後よりも軽かった。

 まるで、修学旅行の自由時間みたいだ。



「もしかして……。経験ある?」



 ひなたが、ぽつりと呟いた。



「どうして、そう思った?」



 俺は空を眺めたまま問い返す。



「なんか、場馴れしてる感じがするし……。

 さっき、あの怪物を倒すときも……。

 ううん、殺すときも、躊躇いがなかったし……。

 お父さんが言ってた『修羅場』って、これなのかなーって……。」



 ひなたはたどたどしく言葉を探しながら続けた。


 その予想は正しい。

 だが、あまり良い記憶ではない。



「……昔のことだ」



 それだけ言って、椅子の向きをひなたへ戻した。



「それより、ダンジョンへ向かったのは何人くらいいる?」



 空気の重さを振り払うように、話題を変える。



「二十人くらいかな」

「男ばかりか?」

「うん、運動部の人とか、あと不良の人たち」

「うーん……。もっと危機感を煽ったほうがいいか」



 コーヒーを一口飲み、眉を寄せる。

 予想していた半分にも満たない人数だった。


 今の状況がゲームというなら、ダンジョンへ行った者たちには、レアドロップでも拾ってきて欲しいところだ。

 誰もが価値があると一目で分かるようなものなら、なお良い。



「……私も、ダンジョンへ行ったほうがいいかな?」

「俺を癒してくれるんじゃなかったのか?」



 おずおずとした問いかけに冗談めかして返すが、ひなたの表情は笑っていない。



「でもさー……。」



 言いたいことは分かる。


 怖いのだ。

 未知の場所へ行くことも。

 化物と戦うことも。


 かつての俺も、似た顔をしていた。



「なら、断言する。

 今日はもう遅いからやめたほうがいいが、明日は行け」



 言い募ろうとするのを遮るように、強い視線を向けた。



「えっ!?」

「友だちがいないのも、作るのが苦手なのも分かっている。

 でも、今となっては、その悩みは贅沢でしかない」

「ううっ……。」



 ひなたは伏せていた顔を上げかけるが、すぐに俯き、唇を噛んだ。



「さっき、経験はあるかと聞いたな。

 なら、これは先輩からの忠告だ。必ず行け」



 言い切ると、黙ったままひなたを見つめた。




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