↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
バニーガール神に選ばれたので、学校がダンジョンになった  作者: 浦賀やまみち
第二章 学校国家

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
7/12

第07話 クラスと役職




「私の場合……。『王様』です」



 校長の声は弱々しかった。

 いつものような事なかれ主義の曖昧さではない。

 追い詰められた者特有の諦めが滲んでいた。



「私が殺されたら、そこで終わりらしいです」



 教員室の空気が凍りついた。



「……お、終わり?」



 一呼吸の間を置いて、英語教師が乾いた声を漏らす。


 たぶん、『殺されたら』の部分は、意識的に聞き流している。

 それでも、不穏さだけが引っかかったのだろう。



「何が終わるのかは、私も分かりません」



 だが、校長自身も答えを持っているわけではなかった。

 深く俯いたまま、小さく首を振る。


 

「ですが、自分が今どうするべきかを考えたとき、それが『私の中の認識』になっていたんです」



 その言葉を聞いた瞬間、違和感が胸の奥に引っかかった。

 まるで、自分の中に勝手に知識を書き込まれているような感覚だった。



「ああっ……。私は『ギルド長』のようです」



 突然、事務長が声を上げた。

 脂汗を浮かべながら、自分の胸元を押さえている。



「……学校の治安を守る『騎士団長』が、俺の役目か」



 今度は体育教師だった。


 腕を組み、目を伏せる。

 眉間には深い皺が刻まれていた。



「そうか……。進路相談を担当していたから、可能なクラスチェンジが見えるのか」



 俺もまた、自分の役割を理解してしまった。


 俺は『クラスマスター』だ。

 生徒をじっと観察すると、能力値のようなものが見える。

 そこから、その者が戦士や魔法使いといった『クラス』に向いているかが分かる。



「嘘! 嘘よ! こんなの夢に決まってる!」



 数学教師が顔を覆い、そのまま机に突っ伏した。

 小さく、嗚咽が混じる。


 教員室がざわめき始める。

 教師たちが、次々と自分に与えられた『役割』を自覚し始めていた。


 それは希望ではない。

 逃げ場のない、役割分担だ。



「いずれにせよ、神が求めていることは明白です」



 ざわめきを断ち切るように、俺は口を開いた。



「先ほど話題に挙がったゴールド。

 これは、化物を倒して得られる対価で間違いない」



 言葉にした瞬間、改めて実感する。


 ゲームだ。

 人間の命を使った、悪趣味なゲーム。

 自分たちの役割は、RPGに登場するNPCそのものだった。



「そして、我々がここから出られない以上、それを生徒たちに稼いでもらう必要がある。

 我々の役目は、生徒たちの支援です」

「しかし……。生徒たちを、矢面に立たせるということになります」



 音楽教師の声は震えていた。


 当然だ。

 本来、倫理的に見ても、教師は生徒を守る側なのだから。



「この際、綺麗事は止しましょう」



 自分でも驚くほど、冷たい声が出た。



「我々には時間がない」



 教員室の視線が、一斉にこちらへ向く。



「先ほど電気・ガス・水道は二十日は保つと報告がありましたが、そこに食料は含まれていない」

「あっ!?」



 誰かが短く悲鳴を上げた。



「二百人分の、今夜の食事すらないんですよ?」


「今すぐにでも、生徒たちに内情を明かし、やる気のある者たちから戦ってもらわなければなりません」



 そう、食料が尽きれば終わりだ。


 いや、不足が始まった時点で、終わる。

 空腹への不満は、そのまま治安の悪化に繋がり、内部崩壊の引き金になる。


 逆に言えば、満腹を維持できれば、ある程度の治安は保たれる。



「それに、あの数字。何だと思います?」



 俺は教員室のテレビを指さす。

 画面の中には、『29:22:41:15』と表示されている。


 誰も答えない。


 いや、答えたくないのだろう。

 時計を見れば、末尾の数字が一秒ごとに減っているのが分かるから。


 つまり、この一秒が惜しい。


 俺は畳み掛ける。

 脳裏に、赤い空が蘇る。



「校長が王様という役割」


「神がチュートリアルと言っていたとき、空に表示されていた『攻城戦』の文字」


「あのカウントダウンがゼロになったら、敵が攻めてくるのではないでしょうか」



 誰も反論しない。

 重苦しい沈黙の中、数学教師のすすり泣きだけが響いていた。



「……藤井先生は、どうするべきだと?」



 校長が疲れ切った顔でこちらを見る。



「さしあたって、校長室の場所を変えましょう」



 俺は即答した。



「校長が倒れたら終わるのに、校長室が一階では話になりません」



 重くなりすぎた場を軽くしようと、わざと肩をすくめてみるが、駄目だった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。