第06話 門の向こう側
「では、報告をお願いします」
あのバニーガールの騒動から、一時間後。
教師と生徒会役員による調査が行われ、その結果が教員室へ持ち寄られていた。
二年生が修学旅行中のため、教師および職員は二十五人。
集められた全員が押し黙る中、沈黙を破ったのは校長だった。
「では、私から」
体育教師が手を挙げた。
「校門、裏門、グラウンド、駐車場。
東西南北に、それぞれ一つ。
『門』とでも言いましょうか、外と繋がる場所を確認しました」
彼は剣道部の顧問をしている。
異常事態に不安を抱えながらも、竹刀を片手に、率先して調査の陣頭に立った。
「ですが、門を通れるのは生徒だけです。
我々には通れず、その先を確認することすらできません」
俺は、今まで彼にあまり良い印象を持っていなかった。
何をするにも、お手本のような体育会系だったからだ。
だが、バニーガールのチュートリアルで、教師陣の中で真っ先にグラウンドへ現れたのは彼だった。
正直、見直した。
「そして、門の先を生徒にスマホで撮影してもらいました」
「それが、これです」
持ち上げられたタブレットの画面に、地下鉄構内のような光景が映し出される。
意外と広い、というのが第一印象だった。
天井も高く、明るさもある。
その奥では、ゴブリンらしきモンスターが徘徊していた。
「進むと、怪物がいて、まるでゲームの『ダンジョン』だと」
俺は、右手で口元を押さえる。
苦笑が漏れそうになるのを堪えた。
まるで、ではない。
神にとって、まさにゲームなのだ。
あのバニーガールのふざけた態度は、それ以外の何ものでもない。
目的はまだ見当もつかないが、確実に面白がっている。
第一、本気で俺たちを追い詰めるなら、もっと強敵を配置する。
わざわざ雑魚のゴブリンが近くを徘徊しているのは、こちらに『戦える』と思わせるためだろう。
「はい、私からも。電気、ガス、水道は問題ありません」
「ただし、維持には『ゴールド』と呼ばれる通貨を消費するようです」
「また、そのゴールドはすでにプールされた額がありますが、このままだと二十日で枯渇する見込みです」
続いて、発言した用務員の報告に、俺は少し胸を撫で下ろした。
生徒たちには秘密だが、教員用のトイレはウォシュレット付きだ。
かつてはボットン便所を受け入れる環境にいたが、今さら戻れる気はしない。
中世レベルのトイレは マジでクソ。
シャレじゃない。
「私も報告します。
皆さんもご承知の通り、携帯電話およびインターネットは使用できません」
「しかし、事務局のパソコンのみ、『アマゾーン』に接続できます」
「やはり、ここでもゴールドを使うようで……。」
「試しに医薬品を購入したところ、問題なく処理されました」
「購入ボタンを押した直後、購買に現物が置かれました」
事務長の報告は、ある意味では朗報だった。
少なくとも、補給が途絶えていないことは確認できた。
この学校に、武器らしい武器はない。
アマゾーンが使えるのなら、武器の調達は可能だ。
だったら、こんな会議を続けている時間すら惜しい。
今すぐ、できることから備えるべきだ。
「もう認めたくなくても、話を進めるために認めましょう。
今、我々が置かれている不可解な現象に、神が関わっていると」
俺は挙手し、そのまま席を立ち上がった。
「馬鹿な! あのバニーガールが神とでも!」
少し失敗した。
即座に反論を叫んだ英語教師は、特殊な宗教観を持つ人物だった。
「便宜上、神と呼んでるだけです」
小さく舌打ちする。
宗教論なんて交わしている暇はない。
しかし、彼は日頃から熱心な布教が問題視されている。
どう宥めようかと悩んでいると、校長が挙手した。
「私も、藤井先生に同意します」
「校長っ!?」
意外だった。
それは俺以外も同じだったようで、皆が目を見開いた。
校長の印象は、なあなあのことなかれ主義だった。
それが、英語教師の熱心な布教が問題視されながらも、黙認されていた理由でもある。
「皆さんの中にもいませんか?
いつの間にか、自分に『役割』を与えられていると気づいた人が」
校長は机に肘をつき、しばらく沈黙したまま視線を落としていた。
やがて、ゆっくりと両手で頭を抱える。
「私の場合……。『王様』です」
大きなため息が、室内に落ちた。




