第05話 チュートリアル開始
『東の城門が突破されました。
直ちに敵を迎撃してください。繰り返します……。』
自動音声のような声が、校内放送から流れた。
『じゃあ、頑張ってねー』
巨大なバニーガールが、笑顔で両手を振る。
そして、そのまま消えた。
空は、赤く染まったままだ。
「東! グラウンドか!」
俺は舌打ちを一つ。
即座に走り出す。
「や、やだっ……。」
だが、ひなたがすがりつくように、俺の腕を掴んだ。
今更ながら、バニーガールの狡猾さを思い知る。
空に浮かぶ巨大な姿は、現代科学では到底説明できない。
それだけで、異常事態だと分かる。
一瞬だけ迷う。
不安に瞳を揺らすひなたを見捨てられず、抱え上げた。
「キャっ!?」
「変な噂が流れて、あとで恨むなよ!」
お姫様抱っこのまま、グラウンドへと駆け出した。
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「おい、くっつきすぎだぞ?」
「だって、壁を登るなんて非常識だよ!」
日頃、抑えていた力を解放する。
校舎の壁を垂直に上り、屋上へと駆ける。
「真っ直ぐ進んだほうが早いだろ!
次、跳ぶぞ!」
屋上のフェンスを踏み台にする。
その瞬間、鉄が軋むより先に体が跳ねた。
跳躍の頂点。
視界を遮るものが消えた。
赤で照らされたグラウンドを眼下に眺めながら、落下していく。
「キャアアアアアアアアアアっ!?」
グラウンドは混乱の渦だった。
サッカーゴールの近く、十五人ほどの生徒がいる。
「なんだよ! なんだよ、これ!」
「馬鹿! 逃げるんだよ!」
「うわっ!?」
そして、彼らに襲いかかっている緑色の小人。
あのバニーガールは、ゴブリンと呼んでいた。
俺の知っている特徴とも一致している。
なら、ゴブリンは雑魚だ。
数でも勝っている。
落ち着いて対処すれば問題はない。
「お、お前、空手やってんだろ!」
「だ、だから、どうした!」
「ゴブリ!」
「す、鈴木ぃっ!?」
しかし彼らは、平和な日本で暮らしていた学生に過ぎない。
いきなり戦場に放り込まれても、動けるはずがない。
まだ落下は終わらない。
やけに長く感じる。もどかしい。
「うらうらっ! うちの学校で何やってやがる!」
「鉄ちゃん、突っ込め!」
直管マフラーの爆音がグラウンドを裂いた。
土煙を巻き上げながら、二人乗りのバイクが突っ込んでくる。
うちの学校は、バイク通学を認めていない。
あいつら、また部室棟の裏に隠していたらしい。
教師の間では『問題児』とされる彼らだが、俺は花丸をやろう。
同じ学校の生徒の危機に駆けつける時点で、十分だ。
「ドッカーーンっ!」
「ゴブブブブっ!?」
バイクと衝突したゴブリンが、サッカーゴールに叩き込まれる。
ゴブリンたちの足が止まる。
すかさずバイクを運転する彼がエンジンを吹かす。
「うらうらっ! かかってこいよ!」
「ヒュー! 鉄ちゃん、格好いい!」
ゴブリンたちは完全に怯んだ。
百点満点だ。
思わず苦笑が浮かびかけて、目を瞬きさせた。
【周防鉄二:書道三段】
【力:12】
【知恵:3】
【信仰心:8】
【生命力:8】
【素早さ:5】
【運の強さ:2】
【可能クラスチェンジ】
【ファイター】
【ナイト】
バイクを運転する彼の隣に、不思議なウィンドウが浮かんでいた。
「……何だ、これ?」
「キャっ!?」
だが、それを気にする間もなく、着地。
グラウンドの砂を踏みしめ、衝撃を殺すように体勢を立て直す。
すぐさま意識をゴブリンたちに戻す。
しかし、次の踏み込みを考えたところで気づく。
ひなたをお姫様抱っこしたままでは、動きが鈍る。
「よし、踊るとするか!」
「……えっ!?」
腕の中から、ひなたを下ろす。
両手を取り、向かい合う。
そのまま、ステップを踏んでいく。
「安心しろ! リードしてやる!」
「キャーーーーっ!?」
くるくると回る。
回転の勢いを乗せた裏拳が、ゴブリンの顔面にめり込んだ。
「ゴブッブっ!?」
勢いは止めない。
ひなたの足が浮き、その身体が弧を描くように水平へ流れる。
振り回すたび、ゴブリンたちが次々と吹き飛んだ。
「藤井! 助かるぜ!」
「おう、待たせたな!」
「きゅー……。先生、酷いよ」
大勢は決した。
残るゴブリンたちの中には、逃げ出すやつまで現れた。
「ダメだよー?」
あのバニーガールの声が響いた直後だった。
逃げ出したゴブリンは、グラウンドの端で『見えない壁』に弾き返される。
「チュートリアルなんだから、ちゃんとやられ役しないとね!」
思わず、赤い空を見上げる。
だが、そこに姿はなかった。




