まだ怖いから
本作品はカクヨムにも投稿しています。
フルートのきれいな音色が聞こえる廊下で、私は窓から空を眺めていた。
そうしているとやがて、フルートの音色が止む。
「相変わらず上手だね、鈴奈」
「ありがと美黎ちゃん」
先輩と仲直りをした放課後、私は廊下でパート練をしてる鈴奈と一緒にいた。
私は吹奏楽部じゃないけど、吹奏楽部の練習中は廊下が通行禁止なわけでもないし。
うちの高校の吹奏楽部にはフルートが3人いるらしいけど、今日は2人とも休みなんだとか。
おかげて気兼ねなく鈴奈とおしゃべりできる。
まぁ、邪魔をするつもりはないから最低限だけど。
「けど……ホントによかったの? せっかく仲直りしたのに、隠先輩と一緒に帰らなくて」
「うん。べつにいつもそうしてたわけじゃないし、それに……なんかちょっと、まだ気まずいっていうか」
「ふーん」
再びフルートの音が廊下に響く。
鈴奈が演奏してる間、私はぼーっと空を眺め続けていた。
「美黎ちゃん」
「んー?」
「気になってたことがあるんだけどさ。美黎ちゃんって、隠先輩に告白しないの?」
「んー……ん!?」
今、なんて言った!?
一瞬で顔が真っ赤になったのが自分でもわかった。
だってすごい熱いから。
「な、あん……なんで……!?」
目を見開いて見つめると、鈴奈は呆れたようにため息を吐いた。
それからジト目を私に向けてくる。
「そんなの言われなくてもわかるって。あんなに好き好きアピールしてて、気づいてないのは隠先輩本人だけだと思うよ」
「うっ……!」
はっきり言われて、私はなにも言い返せなかった。
そんな私を見て、鈴奈は苦笑を浮かべる。
「隠してるつもりだったの?」
「その……まぁ……いちおう、ね」
ボソボソと歯切れの悪い私の答えに、鈴奈はくすくす笑った。
「ちょ、鈴奈……!」
「ごめんね。けどあんまりいじらしいから、つい」
「もー……!」
「ごめんごめん。で、どうしてしないの? 告白」
ストレートな言葉に、少しだけ顔の温度が引いていく気がした。
恥ずかしさを押しのけて、臆病な自分が表に出てくるのがわかる。
「怖いから」
「なんで?」
「……だって、告白して振られて、今の関係がなくなっちゃうのは怖いもん」
「ふーん……。美黎ちゃん可愛いんだから、成功すると思うけど」
「ありがと」
そう言ってくれるのはシンプルに嬉しい。
けど私はそんな誉め言葉1つで自信を持てるほど自信過剰じゃないし、自分自身を可愛いとも思えない。
「隠先輩に気になってる人がいるとかだと、一筋縄じゃいかないかもしれないけど」
「そこよ」
「知ってるの?」
「……まぁ、一応。先輩はその人のこと、そういう目で見てなさそうだけど」
「ならよかったんじゃないの?」
鈴奈の言葉に、私はすぐに言葉を返せなかった。
流れていく雲を見つめながら、今朝と、ついこの前の記憶を思い出す。
「本人たちはそういう関係じゃない、家族みたいなものって言ってたんだけどさ」
「お前は妹みたいなもんだからー、みたいな?」
「違うから」
そういう不健全な関係じゃないとは思う。
最初は疑ってたけど、2人の話を聞いてそれはないってわかった。
けど。
「あんなところ見ちゃったらさ……私は。私も、そういう目で見られてないんだなってわかっちゃったから」
「だから告白しないの?」
「まだね。……夏休み、一緒にたくさんお出かけしましょうって約束したんだ。だから、まだ」
「ふーん、夏休みね。いいんじゃない?」
「……なによ、そのにやけ顔。なにか企んでる?」
「べっつにー?」
鈴奈はわざとらしくふいって顔をそらすと、またフルートを吹き始めた。
絶対なにか考えてる……。
問い詰めてやろうかと思ったけど、鈴奈の横顔が音楽と向き合うそれになったのを感じて、私は口をつぐんだ。




