約束ですよ
本作品はカクヨムにも投稿しています。
ぼちぼちテストの返却も始まったころ、僕はまだ久瀬さんに直接謝れずにいた。
あんまりしつこくすると怖がらせちゃうかもと思って、結局あれからメッセージも送れていない。
返却されるテストの点数よりも、そのことの方がよっぽど僕にとっては気がかりだった。
「隠くん、最近なんか悩んでる? テストの点数、そんなに悪くなかったよね?」
朝のHRが終わったタイミングで、隣の席の高瀬さんが声をかけてきた。
「ちょっと、友達とのことでね」
「ふーん? 喧嘩でもしちゃった?」
「そうじゃなくて、僕が約束を忘れちゃって」
「へぇ~。なんか意外かも。隠くん、しっかりしてるイメージあるのに」
高瀬さんは目を丸くする。
そんな様子を見て、僕は思わず苦笑した。
「買いかぶりだよ」
「買いかぶりって?」
「あー……えっと、過大評価ってことかな」
「隠~!」
突然廊下の方から大声で呼ばれた。
それも、ほとんど話したことない男子からだ。
なんだろうと思いながら見ると、僕のことを手招きしている。
その横には、意外な人が立っていた。
「久瀬さん……?」
そこにいたのは、肩をすぼめて縮こまっている久瀬さんだった。
「1年生の子? 可愛い~! 隠くんの知り合い?」
「えっと……さっき話してた友達」
高瀬さんにそう返しながら、僕は小走りに久瀬さんの元へ向かう。
「なんか話があるんだってさ」
「呼んでくださって、ありがとうございます……」
ぺこりと久瀬さんが頭を下げると、僕を呼んだ男子はひらひらと手を振って席に戻って行った。
「と、突然すみません、隠先輩」
「ううん、大丈夫だよ。……あのさ」
「今お時間ありますか?」
「あ、うん。1時間目は移動教室じゃないから、大丈夫だよ」
「でしたら少し、いいですか? あの、向こうで」
そう言うと、久瀬さんは僕を連れて歩き出した。
廊下の端、あまり使われていない資料室の前で、久瀬さんは足を止める。
「その……すみませんでした、メッセージも返さずに」
「そんな、久瀬さんが謝る必要はないよ。僕の方こそごめん、約束破って」
僕は久瀬さんの目をまっすぐ見て、それから頭を下げた。
「……そのことについては、その、いいですよ。許してあげます」
その言葉に僕が顔を上げると、久瀬さんはどこか不安げな表情を浮かべていた。
「ただ、その……代わりに聞きたいことと、約束してほしいことがあるんですけど」
「それはもちろん、なんでも答えるよ。約束も、僕にできることならなんだって」
「……その、先輩は……えっと、あの」
久瀬さんはうつむいた後、一歩僕に近づいて背伸びした。
「その……熱莉先輩のこと、どう思ってるんですか?」
「えっ?」
予想外の質問に、僕は思わず目を見開いた。
どういう関係、じゃなくてどう思ってるか。
僕は一応周りを見て、少し声を抑える。
「家族みたいな感じかな。小さいころからずっと一緒にいたし。学校じゃ全然だけど」
「……家族、ですか。兄妹みたいな?」
「だね。どっちが上かは、僕にもわからないけど」
苦笑しながら言えば、久瀬さんはどこか安堵したような笑みを浮かべた。
それから、その笑みを見慣れた明るい表情に変化させる。
「じゃあ先輩、約束の方ですけど」
「うん」
「もうすぐ夏休みなわけですけど、私と目いっぱい遊んでください!」
「目いっぱい?」
「今までみたいなゲームだけじゃなくて、一緒にお出かけしませんか? 買い物行ったり……あとは、その……海とか」
「うん、いいよ。……って、一度遊びの約束すっぽかした僕が言っても説得力ないかもしれないけど」
「あー、それ自分で言います?」
久瀬さんは唇をとがらせ、それからまた微笑んだ。
「約束ですよ。今度こそ」




