なんかモヤッとする
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階段を上がった先、締め切られてる屋上への扉の前で私は足を止めた。
「ここならいいかな」
「あの、先輩。なんのつもりですか? ……ハッ、まさかカツアゲ……!?」
「違うから。私のことなんだと思ってるわけ?」
じりじりと下がっていく久瀬をひと睨みして、私は壁に背を預ける。
「私はアンタの勘違いを正したいだけ。前に千尋の部屋でも話したけど、私とアイツはただの幼馴染。アンタが邪推してるような関係じゃないから」
「邪推って……。普通幼馴染でも、夜通し一緒にゲームとかします? オンラインならともかく、同じ部屋で」
「さぁ? する幼馴染もしない幼馴染もいるでしょ。他のパターンなんて知らないし、私は」
高校生にもなって、っていうのはわからないでもないけど。
けど別に、姉弟みたないものって考えたらない話じゃないと思う。
「ま、とにかく。私と千尋はそういう関係じゃないの。アンタが邪魔しちゃったとか、そんなこと気にする必要ないから」
「……じゃあ熱莉先輩は、隠先輩のことなんとも思ってないんですね?」
「んー……まぁ、そうだけど」
「……本当ですか? 今、ちょっと間がありましたけど」
たしかに今、ちょっと答えに詰まった。
なんでだろう、自分でもわからない。
別に千尋は幼馴染ってだけ。
今まで恋愛対象として見たことはない、はず。
幼稚園児の頃とか、小学校低学年の頃とかはまぁ、明確に好きだった。
けどそれは仲の良い幼馴染としての好きでしかないし、恋愛対象とか、そういう年齢じゃないし。
今まで何度か、先輩後輩問わずに告白されたことはあるけど、断ってきた。
それだって別に、千尋が好きだったからじゃない。
単に寄ってくる男が体目的っぽいとか、軽薄そうとか、シンプルに顔がタイプじゃないとか、そんな理由だし。
だから別に、千尋のことを異性としては見てないはずなのに。
──なのに、なんでだろう。
他人に「なんとも思ってないですよね」って改めて確認されるとこう、なんかモヤッとする。
「熱莉先輩?」
「え? あぁ……えっと、まぁほら、当たり前のことすぎてさ。そんなの。逆に理解が遅れただけ。別に千尋のことは何とも思ってないよ。男として好きなわけないし、別に嫌いでもないけど」
「そう、ですか……」
ずっと怯えていた久瀬だけど、ホッと息を吐くと安心したように微笑んだ。
「話は終わり。今回の件、千尋も本気で反省してるみたいだから、話くらいは聞いてやりなよ」
「わ、わかってますよ! その……えっと……ありがとう、ございます」
「は?」
なにについてのお礼?
そう思っていると、久瀬は恥ずかしそうに顔をそらす。
「だから……! その、いろいろ気を使ってくださったみたいで、ありがとうございました! 私、戻りますから!」
久瀬は一方的に言い切ると、足早に階段を下りて行った。
1人残った私は、天井を見上げてため息を吐く。
「千尋のやつ、鈍感すぎるでしょ……」
あの子、絶対千尋のこと好きじゃん。
なのに私なんかのために時間を使ってさ、約束すっぽかして。
正直ない、男として最低すぎる。
私と千尋が本当に付き合ってないってわかったときの笑顔。
約束すっぽかして他の女と遊んでたって知ってなお、あんな風に安心してくれるようないい子、そうそういない。
そんないい子が千尋のことを好きって知って、別に異性として千尋のことが好きなわけじゃない私がなんでモヤッとしたんだろう。
今まで彼女どころか女友達なんていなかった千尋に、急にそういう相手が現れたのが嫌だった?
「……恋愛対象じゃない相手にそんなこと思う?」
そんなわけない。
じゃあ別の理由がある。
千尋が女友達と仲良いのが気に入らない?
けど席替えしてからは花那がよく千尋に話しかけてるけど、別にそれでモヤッとしたことはないし。
やっぱり重要なのは、千尋のことが好きかどうかってこと?
……ないない、そんなの。
「私が千尋のこと好きみたいじゃん」
うん、ない。
それはない。
夜ご飯のこととか、最近はゲームのこととか、いろいろ世話にはなってる。
私が千尋の立場だったら、「夜ご飯くらい買ってくるか食べてくるかしなよ、用意するの面倒臭いから」って言うと思う。
けど千尋は、「1人分用意するのも2人分用意するのもそこまで変わらないから」って、私の分も用意してくれる。
そういう家庭的な面はまぁ、評価点だと思う。
気恥ずかしいから日常的には言わないけど、感謝してる。
「……私、千尋のことどう思ってるんだろ」
千尋は私のこと、どう思ってるんだろう。
ただの、手のかかる幼馴染?
それとも。




