熱莉安奈Ⅱ
本作品はカクヨムにも投稿しています。
「じゃあね安奈、また明日~」
放課後、これからバイトに向かう花那に手を振り返して、私は下駄箱ではなく図書室へ。
こういうときいつもは途中まで一緒に帰るけど、今日はちょっと図書室に用事がある。
テスト期間中は貸し出しが停止してて、気になってた本を借りられなかった。
普通に書店か通販で買うこともできたけど、少し待てばタダで読めるわけで、さすがにそうはしなかった。
面白かったら、そのときは買ってもいいけど。
最初は千尋から借りればいいと思ってたけど、千尋も持ってなかったみたいで、図書室で借りて読んだらしい。
面白いって言ってたけど、千尋はなんでも面白いって言うからあんまり信憑性がない。
実際、アニメや漫画を見るようになった後に千尋が勧めてきた作品も少し見てるけど、そんなに面白くなかったのもある。
世間的には評価されてる作品もあったから、私の趣味に合わなかっただけっていうのもあるんだろうけど。
なんて考えながら、図書室の扉を開けた。
「うわっ、お前マジ!? いいなぁ~、俺まだ引けてねぇよ」
「いくら課金したんだ~?」
「してねぇって! ガチャ履歴見てみろよ、ほれ」
……うるさっ。
図書室とは思えない声量に顔をしかめながら、声のした方を見る。
貸し出し受付のカウンターに、3人ほど男子生徒が集まって騒いでいた。
「……あれっ」
その男子生徒のすぐ近く、カウンターでおどおどしてる女子生徒が目に付いた。
亜麻色のショートボブに、ちまっとした背丈。
千尋の家で会った例の後輩……たしか、久瀬とかって。
図書委員会なんだ。
騒いでるアイツらは、多分1年生。
図書委員会の当番の1人なんだろう。
ていうかあの後輩、ホントに千尋の家で会った子なの?
全然雰囲気が違うっていうか、私に嚙みついてきたときの威勢はどこにいった?
……まぁいいか。
とっとと目当ての本借りて帰ろ。
「10連でとかズルすぎな~!」
「あ、あの」
男子生徒たちの会話に割って入るように、久瀬って子は声をあげた。
「他の人の迷惑になるから、その……」
「え? あぁいいじゃん別に、先生いないし」
「それな? てか怠いよな~委員会」
「え、じゃあこの真面目ちゃんに任せて帰ればよくね? な、誰だっけ。久瀬?」
「えっ、それは……」
久瀬って子は、言い返せずおどおどしっぱなしだ。
あの男子生徒たち、見た目的に陽キャって感じじゃないし、多分ゲームの話してるからどっちかっていうと千尋たちと同類なんだろうけど。
図書室っていうちょっと閉鎖的な環境で、他に目立つ生徒や上級生もいないからって勢いであんなこと言ってるんだろうな。
「……はぁ~」
面倒くさいけど、正直ちょっとイラっとした。
「あのさぁ」
声をかけると、久瀬と男子生徒が揃ってこっちを見た。
その直後、目を見開く。
「えっ……!」
「あっ!? に、2年の、えっと……」
どうやら男子生徒の方も、私のことを知っているらしい。
目立つことはしてないんだけど。
「うるさいから静かにしてくんない? それかサボるつもりならとっとと帰ってよ。別にアンタみたいなのがいなくても大丈夫でしょ。実際、図書委員とか仕事ほとんどないし」
はっきり言うと、男子生徒たちは揃って目を泳がせる。
「……じゃ、じゃあ俺先帰るから。ちゃんと仕事しろよ」
「サボんなよ~」
騒いでいた連中は、びくびくしながら去っていった。
残された男子はというと。
「……やることないならアンタも帰れば?」
「あ、いや、怒られちゃうから……」
「さっき帰ろうとしてたじゃん。この子に押し付けて」
黙りこくってしまったところをもうひと睨みすると、男子は居心地悪そうに本棚の方へ向かった。
整理が必要なほど散らかってもないだろうけど、ここにいられても目障りだし別にいいか。
「これでいい?」
「えっ?」
一連の流れを黙ってみていた久瀬は、ビクッと肩を揺らしてから私を見上げる。
「あっ……その、ありがとう……ござい、ます」
「アンタ、前会ったときと違いすぎない?」
「あ、あれは! ……その、先輩には関係ないですよね」
「まぁたしかに、アンタの素がどっちでも、私には関係ないけど」
もっとこう、騒がしいタイプかと思ってたけど。
意外と大人しいっていうか、まぁ言っちゃ悪いけど典型的な陰キャっていうか。
その辺りは千尋もそうだし、相手によって態度が変わる人間の方が世の中大多数だろうし、構わないんだけど。
私は本棚から一冊の本を取り出して、カウンターに戻る。
相変わらずビクビクした感じの久瀬に渡すと、なぜか手を止めた。
「……熱莉先輩、ラノベ読むんですか?」
「え? あぁ……。ち……アイツに勧められて、いくつか。その本はアイツも持ってないから、借りにきたの」
ちょうど周りに人がいないタイミングだった。
私はカウンターに手をつき、顔を近づけて声を潜める。
「アイツとは話したの?」
「い、いえ……。その、なんていうか……いろいろ気持ちに整理がつけられなくて、逃げちゃって、ます」
「整理? なんの」
「……先輩の、2人の関係です」
「ふーん……それ、多分アンタ勘違いしてるよ」
「え?」
「ちょっと待ってて」
私はカウンターから離れて、本棚の隅に隠れるように作業をしていた男子生徒に声をかけた。
さっきの、騒いでいた彼だ。
「あのさ、久瀬と話があるから、ちょっとカウンターいてよ。先生に聞かれたら、私が連れてったって話していいから」
「え? あ、は、はい」
彼をカウンターに連れてくると、今度は久瀬に向けて声をかける。
「じゃ、ちょっと来て」
「へ? あ、ちょっと……! あの、えっと、よろしくね……?」
困惑した様子のまま、男子生徒に頭を下げて、久瀬は後ろをついてくる。
さっきあんな話をしていた奴相手に、律儀なことだと思う。
そういう真面目ちゃんが素なら、まぁそういう勘違いもするか。
妙な納得感を抱きながら、私は階段を上がった。




