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喧嘩でもした?

本作品はカクヨムにも投稿しています。

「──なぁお前さぁ……久瀬《くぜ》ちゃんと喧嘩でもした?」

「いやぁ……」


 テスト明け月曜日、昼休み。

 僕は坂本《さかもと》くんからの質問に、曖昧な答えしか返せずにいた。


「だってお前、今日露骨に避けられてんじゃん。絶対なにかしたろ」

「そのー……まぁ、うん。僕が悪いんだけど……」

「歯切れ悪いな~。なにやったんだか」


 呆れ切った坂本くんの言葉に、僕は肩を落とすことしかできない。

 一昨日、一緒に遊ぶ約束を忘れていた僕は久瀬さんを怒らせてしまった。


 その後送ったメッセージは既読スルーで、登校するときには会えず、校内で顔を合わせても無視されるか、あるいはそっけなく流される。

 

 傍目に見れば喧嘩してるようにしか見えないだろう。

 実際には、僕が一方的に怒られて嫌われてしまっただけなんだけど。


「実は土曜日に会う約束をしてたんだけど、忘れてて」

「う~わっ、終わってる」

「たまたまその……ほら、前に話した幼馴染が家に来ててさ」

「疎遠になってっていう?」

「そう。こっちに来る用事があったみたいで、そのついでに。で、ちょうど一緒に家にいるところに久瀬さんも遭遇して……」


 僕を見る坂本くんの目がどんどん侮蔑的なものになっていく。


「で、まぁ……その、怒らせちゃったっていうか。謝らなきゃって思ってるんだけど、避けられちゃって」

「そりゃそうなるわ。お前、久瀬ちゃんがどんだけ……あー、まぁそこはいいや。俺が口挟んで拗れても嫌だし」


 坂本くんはビシッと、突きつけるように僕を指さした。


「とにかくお前、ちゃんと謝れよ? 今は避けられてっかもしれないけど、その内ちゃんとタイミング来るって」

「だといいけど……」


 タイミングか。

 僕だって朝からずっとそれを待ってるけど、一向に訪れない。


 結局そんな機会はないまま放課後になってしまって、帰り際に教室をのぞいてみることにした。

 1年生たちの「誰?」や「何の用だろう」みたいな視線にむずかゆくなりながら、僕は教室内を見回す。


「……いない、か」

「隠《なばり》先輩」

「うわっ!?」


 急に真後ろから話しかけられてびっくりした。

 振り向くと、久瀬さんと仲の良い夢野《ゆめの》さんが立っていた。


「すみません、驚かせるつもりはなかったんですけど」

「あ、いや。大丈夫だよ。夢野さんは、これから部活?」

「えぇ。教室に忘れ物を取りに。……ところで隠先輩」


 夢野さんは微笑んだまま、こてんと首を傾げる。


「美黎《みくろ》ちゃんと喧嘩でもしました?」

「うっ……いや、喧嘩っていうか、僕が一方的に悪いんだけどー……」

「ふーん、そうなんですね。美黎ちゃんに聞いても、知らないの一点張りで、なんにも教えてくれなくて」

「へ、へぇ……」


 僕と安奈《あんな》のことを秘密にしておくって言ってたけど、本当に秘密にしてくれているらしい。

 ……こんなときまで保身のようなことを考えてしまった自分が情けなくて、僕はため息を吐く。


「謝ろうと思ってるんだけど、避けられてて。メッセージでも謝ったんだけど。……どうしたらいいかな?」

「んー……メッセージの方で謝られたんですよね? だったら、少し時間を置くしかないんじゃないですか?」

「やっぱりそうなのかな。けどこういう状態って落ち着かなくてさ……。久瀬さんの機嫌を取る……って言うと言い方がよくないけど、なにかないかな?」

「どうでしょう。それこそ、隠先輩の方が付き合いが長いんですから、私より美黎ちゃんのことは知ってるんじゃ?」

「えっ?」


 僕の方が付き合いが長い?

 久瀬さんと?


 びっくりしていると、夢野さんはバッグのキーホルダーを見せてくれた。


「これ、知ってます?」

「吹奏楽が題材になってるアニメのキャラだよね?」

「はい。入試のとき、駅でこのキーホルダーが外れちゃって。踏まれる前に、美黎ちゃんが拾ってくれたんです。そのとき、作品名を呟いてて」


 夢野さんはキーホルダーを撫でながら続ける。


「それで私が知ってるの? って聞いて、一緒の高校受験するんだって知って、連絡先交換して……って感じです」

「へぇ……そうだったんだ」

「……って、ごめんなさい。そんなこと言われてもって感じですよね」

「いや、そんなことは。意外だったかも。僕はてっきり、同じ中学校に通ってたのかなってずっと思ってたから」


 僕の言葉に、夢野さんはどこか呆れたような笑みを浮かべる。


「先輩、もう少し美黎ちゃんと向き合ってあげてくださいね。美黎ちゃん、不安そうにしてましたよ」

「えっ……?」

「怒ってもいましたけどね。なんで不安そうにしてたのかは、自分で考えるか、直接美黎ちゃんに聞いてください」


 そう言って微笑むと、夢野さんは自分の机から楽譜を取り出して、「失礼しますね」と去って行った。

 ……不安そう、か。


 怒っているとも言っていたし、その理由はわかるけど。

 なんで不安そうに思っているんだろう。


 むしろ許してもらえるのかなって、僕が不安に思ってるくらいなんだけど。

 考えてもわからなそうだし、直接聞くしかないか。


 タイミングも、待ってるだけじゃずっと来ないかもしれない。

 こうなったら少し、強硬手段ってのに出てみるしかないのかも。


 けど何度もしつこく声をかけたら、怖がらせちゃうのかな。

 こういう人との関係が拗れてしまった今の状況が落ち着かないから、早く直接謝りたいっていうのは、酷く自己中心的な考えなんじゃないか。


「はぁ~……どうしたらいいんだろう」


 夢野さんの言う通り、今は待つべきなのかな。

 ひとまず今日は帰って、ちゃんと考え直そう。

 

 僕はため息を飲み込んで、帰路に就くことにした。

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