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後悔先に立たず

本作品はカクヨムにも投稿しています


「んん……」


 最近よく聞いてたBGMに、主人公たちのセリフ。

 ムービーシーンが流れてるな……。


「んん!? やばっ……!」

「あ、起きた。おはよ、千尋《ちひろ》」


 目を見開いた直後、横合いから安奈《あんな》の声が聞こえた。

 目の前のテレビに映るムービーシーンから視線を移すと、オーバーサイズのTシャツにジャージのズボンというラフな格好の安奈がいた。


「……おはよう」


 どうやらいつの間にか寝てたらしい。

 大きく伸びをして窓を見ると、既に朝日が昇っているみたいだった。


「あれっ、僕のスマホどこだ?」

「目覚ましがうるさかったから止めて、充電少なくなってたから繋いどいた」

「あぁ……ありがと」


 目覚ましが鳴ってたのか、まったく気付かなかった。

 ……目覚ましが鳴ってた?


「今何時?」

「11時だけど」

「……11時ぃ!?」

「うるさっ。急に大声出さないでよ」

「いや……いやいやいや!」


 そりゃ大声の1つも出したくなる。

 なにが朝日が昇っているみたい、だ。


 朝日どころかもうとっくにお昼じゃないか。

 最後に意識があったのが夜中の2時前後くらいだったと思うから、たっぷり9時間も寝てたのか僕は。


「っていうか安奈、いつの間に着替えたの」

「8時くらいに起きて、一度戻ってシャワー浴びて、そのとき」

「起きてってことは、安奈も一度寝てるんだよね?」

「当たり前でしょ。アンタが寝落ちしたすぐあとくらいじゃない? アンタがすーすー寝息たててたせいで、釣られて眠くなっちゃって」


 せいでって。


「安奈が起きたときに、声かけてくれればよかったのに」

「いやまぁ、結構ぐっすりだったし。テスト明けだし、寝かしといてあげようかなって私の配慮。ありがたく思ってよね?」

「テスト明けの人間が何度言ってもゲームやめようとしなかったのに配慮ありがとう」


 僕の皮肉はスルーして、安奈はアクスレを進めていく。

 目を離した数時間の間に結構進んでるみたいだ。


「……ま、いいけどね」


 ぼそっと呟いて、僕は顔を洗うべく1階へ。

 お母さんはもう仕事に出ているらしい。

 

 土日も部活だなんだと仕事に行かなきゃいけないんだから、教師っていうのも大変だ。

 生徒としては疎ましいこともあるけど。


 それにしても、まさかあそこまで安奈ががっつりアクスレにハマるとは。

 さすが大人気ゲームタイトル、と一言で片づけることもできるけど、実際どんなところが気に入ったんだろう。


 アクスレはRPGだ。

 格ゲーやFPSみたいな、直感的な操作で楽しめたり、コンボやキルが楽しさに繋がるゲームジャンルとは少し違う。


 安奈自身、レベリングを面倒くさがってたし。

 もしかして好みのキャラがいるとか?


 ありえそうだ。

 1人だけレベルが突出してるとか、あるいは装備が充実してるとか、そういうキャラがいたらワンチャンありえる。


「んー……ん?」


 さてどうだろうと考えていると、インターホンが鳴った。

 洗面所を出ると、階段から安奈が降りてきたところだった。

 僕が顔を洗ってて、すぐに出れないかもって出てきてくれたのかな。


「いいよ、僕が出るから」

「は? 当たり前でしょ、私が出てどうすんの」


 全然違った。

 飲み物取りに来ただけかな、じゃあ。


 やり取りの間にもう1回インターホンが鳴った。


「はーい、今出まーす」


 言いながら、僕はドアノブを押す。


「あ、隠《なばり》先輩! おはようございます!」


 亜麻色の髪のショートボブに、大きな翡翠色の瞳。

 見慣れた制服姿ではなく、ガーリーな私服姿。


 玄関を開けると、そこには笑みを浮かべる久瀬《くぜ》さんがいた。

 ──なんで?


「先輩、やっぱり寝てました?」

「えっ?」

「何度もメッセージ送ったのに、一向に既読がつかなかったから、ちょっと早くに家を出たんです!」

「あっ……!?」


 すっかり忘れてた……!

 久瀬さんの忘れ物を渡すついでに、一緒にお昼ご飯を食べに行こうって約束してたんだ……!


 時間まで決めて、そのあと安奈とアクスレを始めて、しかも寝落ちまでしちゃったせいですっかり記憶から抜け落ちてた。

 

 しかも今日、起きてからまだスマホを1度も見てないのがマズかった。


「先輩?」

「あっ、いやその……っ!?」


 背後で扉の開く音がした。

 リビングの扉だ。


 お母さんは仕事に行ってて、お父さんは単身赴任でしばらく帰ってきてなくて。

 僕でもないならじゃあ誰がって、そんなの決まってる。


「……あ」

「……えっ、えぇぇぇ!?」

「……あっちゃぁー……」


 長く伸びた金髪に琥珀色の瞳。

 久瀬さんには見慣れないだろう、というか僕も実はそんなに見慣れてはない部屋着姿。


 当然安奈がそこにはいて、久瀬さんを見て苦虫を嚙み潰したような表情を浮かべていて。


 テスト明け早々、とんでもない修羅場が幕を開けることが確定してしまい、僕は頭を抱えずにはいられなかった。


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