昔みたいに
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「ごちそうさま。ありがとう安奈、おいしかったよ」
「おそまつさま」
安奈が作ってくれたのはミートソースパスタだった。
そこにカット野菜とインスタントのポタージュも一緒に食べて、満腹だ。
「じゃ、さっそくいろいろ教えてくれる? 私、なんにも知らないし」
「あ、うん。けど大体のことはチュートリアルで教えてくれるし、僕はあんまり口を挟まないようにするよ」
「そうなの? ならいいけど」
部屋に戻ってさっそく、僕はアクスレを起動する。
複数セーブデータが作れるから、僕のは残して「はじめから」を選択。
クッションにちょこんと座る安奈にコントローラーを渡して、僕は隣で見守ることにする。
坂本くんや久瀬さんとはよくマルチプレイでゲームをやるけど、安奈と一緒にゲームをやるのは小学生の頃ぶりだ。
「これ、名前とか付けない感じ?」
「あ、うん。主人公は固定だから」
「ふーん。……あ、なんか始まった」
「昔やってたCMのまんまなんだけど、懐かしくない?」
「んー……別に。そもそもどんなCMだったかあんまり覚えてないし」
ま、それはそうか。
小学生の頃に発売したゲームだし。
しばらく無言で安奈はゲームを進め、僕も余計なことは言わずに見守る。
……なんかもどかしいな。
ゲーム配信とかで指示コメとかする人の気持ちがちょっとだけわかったかも。
そこにあれがあるよ、とかそっちは今行っても行き止まりだよ、とか。
助言したくなっちゃう。
──ダメダメ、僕がアドバイスするのは安奈から聞かれたときだけ。
手探りの状態でいろいろなことをする時間が、ゲーム体験として楽しいんだから。
「ふーん……。大陸の3分の1くらいがモンスターに支配されてる? なにそれ、世界にはこの大陸しかない感じなの?」
「そういう設定周りも僕は喋らないからね、ネタバレダメ!」
「あっそ。やってればわかるわけね」
安奈の言った通り、アクスレの世界は1つの大陸が舞台で、その3分の1が正体不明のモンスターに支配されている。
そしてアクスレの世界において、大地はもう主人公たちの住む大陸しか残っていない。
機械文明と魔法文明の入り混じった大陸で、主人公たちは大切なものを守り、あるいは奪還するために戦う──そんなお話。
「ねぇ、これ本当に面白いの? ポチポチ技選んで倒して……なんか地味じゃない?」
「前にゲームセンターでやった格ゲーと比べると、全然ジャンルが違うゲームだからね。格ゲーみたいに自分で直接操作して戦うのとはちょっと違うけど、RPGにはRPGなりの面白さがあるから」
「ふーん……。あ、ムービー」
主人公たちが村の外に届け物をしてから帰ってきて、ここからだ。
この物語が動き出すのは。
「は? なんか村燃えてない?」
そう。
主人公たちがいない間に村が襲われ、燃やされ。
しかもモンスターの仕業かと思えば──。
「は? え、これ人間じゃないの? 翼とか生えてるし変なマークがおでこにあるけど」
「んー……まぁ、なんていうか」
「これあれ? アクマ因子的な?」
「違うから」
前やった格ゲーのキャラだからそれは。
……っていうか。
「安奈、よく知ってたね」
「なにが?」
「アクマ因子。もしかして、あの後も格ゲー続けてるの?」
「……いや、別に。そんなことないけど」
「いやいや、絶対嘘でしょ。だって前やったときにそんな設定とか教えなかったし」
「……たまに、たまにね。ちょっとだけ」
おぉ……まさか安奈が格ゲーを自発的にやるようになっていたなんて。
嬉しいけど、驚いたな。
「なんか感動した風の表情やめて? キモいから」
舌打ちに交じりに言いながらも、安奈はムービーから目を離していない。
場面は主人公たちが襲撃者の威圧的なものに吹き飛ばされそうになっているところだ。
踏ん張って耐える主人公たちの衣服の裾が、風に揺らぐその瞬間。
「ん? え、今ヒロインの太ももらへんにもマークなかった? 絶対あったでしょ」
「あ、ほらムービー終わるよ」
「は? え、これ戦うの? なんか見た目無理そうなんだけど……」
襲撃者たちとの戦いに突入した画面を見て、安奈は嫌そうな顔をする。
そしてその予想は正しい。
「え、ダメージ少なっ!? ゲージ全然減らないじゃん!」
「まぁまぁ。相手は動かないみたいだよ」
「えぇ……? いやこれ、何時間かかるわけ」
ぶつくさ言いながらも攻撃を続けるけど、やがて相手も動き出す。
「はぁ? ちょっと待って千尋。これなに、一発殴られただけで全員死んだけど。これ勝たないと先進めないの? なら私もうやめるけどこれ」
「ちょっっと待って! 大丈夫、ほら見て、ムービー入ったでしょ!?」
「え? ……あー、ホントだ」
あ、危ない。
危うくセーブする間もなくゲームの電源を切られるところだった。
「これ、いわゆる負けイベってやつなんだ」
「なにそれ。わざわざ戦闘させる意味あるの? それ」
「んー……没入感が上がるとか? アイテムや時間の無駄って言う人もいるけど」
「だよね? ムービーで流していいでしょ……って、なんか強そうなの出てきた。味方?」
「どうでしょ」
「……こいつが追い返してくれる感じね」
ムービーシーンが終わるや否や、安奈はなぜか先には進めず装備画面を開いた。
「これ、キャラクターもっと近くで見れない?」
「キャラクター図鑑から見れるよ」
「どれ? ……あぁ、これ」
安奈はヒロインのページを開くと、キャラクターモデルを拡大し始める。
さっき言ってたマークを見ようとしてるんだろうけど、ヒロインのスカートを下から覗こうとしてるみたいで非常によくない。絵面が。
「マークないんだけど」
「見間違いじゃない?」
「いや絶対あったから。チラッと、一瞬だけだったけど、絶対マークついてた。普通じゃないよね? 敵とヒロインに同じマークがついてるとか」
「まぁ普通に考えたら意味があるよね、本当についてるなら」
「……アンタこれクリアしてるんでしょ?」
「してるけど」
「チッ。すっとぼけてる? まぁいいけど、やればわかるんでしょ、やれば」
僕をひと睨みしてから、安奈はストーリーを再開する。
──気づくのはっっや……!
安奈の言う通り、ヒロインの太もも、普段はスカートで見えない位置には敵の額にあるのと同じ紋章がある。
そしてそれがストーリー中盤から大きな意味を持ってくるんだけど……僕はプレイしたとき見落として、クリア後に気が付いたんだよな。
そんな些細な伏線に気がつくくらいには、真剣に取り組んでくれてるってことなのかな。
なら、思い切って誘ってみてよかった。




