一緒にやる?
本作品はカクヨムにも投稿しています。
「やっと続きができる~……!」
金曜日、放課後。
ようやく期末テストから解放された僕は、家に帰ってきてすぐにゲーム機を起動した。
プレイするゲームはもちろん、アクスレ2。
待ちに待った、というやつだ。
これをプレイするためにテスト期間を乗り越えたと言っても過言じゃない。
じゃあそのテストがどうだったんだいって話は、テスト返しが始まってみないとなんとも言えないところはあるけど、全教科で赤点回避をしている自信はある。
ちなみにテスト終了後、坂本くんは意外とやれたと言っていた。
久瀬さんの方は『テスト終わりました~! 終わりです終わり! この世の!』とメッセージが送られてきたから相当マズいことになったんだろう。
勉強会したのになぁ……。
「ま、そういうこともあ……ん?」
久瀬さんの無事を祈りながら呟いていると、視界の端になにか見覚えのないものが見えた。
学習机の足の真横、普通に座っていると見えない位置。
今はゲームをやるためにテレビの前、つまり部屋の中央にクッションを置いて座っているから偶然見えた。
「んー……?」
拾ったそれはシャーペンだった。
それも僕のじゃない。
「坂本くんのでもなさそうだし、久瀬さんか」
水色と白のちょっと可愛らしいデザインのそれはどう見ても女子の持っていそうなもので、多分先週末の勉強会のときに落としてそのままになってたんだろう。
部屋の掃除はマメにしてる方だけど、テスト前だったし、次の土日にやればいいやと思って今週は掃除機をまだかけてなかったから気づかなかったんだ。
一応、確認のメッセージだけは飛ばしておこうか。
千尋『部屋で見覚えのないシャーペン拾ったんだけど、心当たりある? 水色と白の』
写真も一緒に送ると、すぐ既読が付いた。
美黎『それ私のです! そういえばないな~って思ってたんですけど、先輩の部屋で落としてたんですね!』
千尋『来週持っていくよ』
美黎『あの、でしたら明日取りに行ってもいいですか?』
美黎『できればその、テストも終わったし一緒にゲームしたりお話したりしたいなって!』
美黎『もちろんお忙しければ断ってもらって大丈夫なんですけど!』
千尋『僕は構わないけど、部屋に来てもあんまり一緒にやれるゲームないんじゃない? ゲームやるだけならオンラインでもいいんじゃ』
美黎『携帯モードでやれるやつ持っていきます! それにせっかくなら直接会ってお話したいなって、ダメですか? お勧めのお店があって、一緒にお昼ご飯とか食べに行きたくて!』
千尋『いや、久瀬さんがそれでいいなら僕は大丈夫だよ』
美黎『やった! ありがとうございます!』
そのあと時間だけ決めて、一旦やり取りは終わった。
今、久瀬さんは夢野さんと寄り道して遊びに行ってるらしい。
それにしても明日か。
どうせ予定はなかったし、構わないけど。
久瀬さんのためにもあんまり遅くに解散するつもりはないけど、安奈に一声かけとこうかな。
「まぁ……夕飯食べるときでいっか」
今はアクスレ2!
思わず持ち上がる口角を抑えることもせず、僕は画面に釘付けになる。
前作との繋がりはなさそうな始まり方だけど、実はそうでもないらしいというのをネットの噂に聞いたことがある。
けど繋がるとして一体どこで繋がるんだろう。
前もってそうらしいって知ってるのはアレだけど、それならそれで楽しみようはある。
さてどんなストーリーが展開されるのか──。
「──あ、え、もしかしてこれ……! 1と同じやつ!? え、ファンサ? いやでも……やっぱりこの人じゃん!」
いや、でも1とは世界観が違うんだよな。
でも1にあったオブジェクトと同じようなオブジェクトがあって、1と同じ歴史の秘密を知るキャラクターが出てくる……。
1と同じオブジェクトはともかく、同じキャラクターはさすがにファンサとかじゃないよな。
同一人物だとして、でも1とは全然違う舞台──。
「あ、違うこれ1の過去回想で消滅反応が起こらなかった世界線!? わっ、じゃあ同じ大陸じゃん! 形が変わる前の大陸ってこうなんだ……!」
なるほど、これがネットの噂に聞いた前作との繋がりってやつか。
へぇ~、なるほどなぁ……。
「ってやばっ、今何時だ……!?」
ちらっと見えた窓の外、もう結構暗かった。
急いでヘッドホンを外しながらスマホの画面を見ると、ロック画面に表示される時刻は20:00……。
「20時!?」
「やーっと気づいたんだ」
「えっ!?」
突然声がして振り返ると、扉に背を預けた安奈がそこにはいた。
スマホを片手に、僕を呆れた様子で見下ろしている。
「花那とステバ行って、それから帰ってきてみればアンタは部屋にこもってるし、降りてくる気配はないし」
「こ、声かけてよそれは……!」
声かけてくれればさすがに気づいたのに!
いや、そもそも悪いのは僕であって他責的な言い方をするのはよくないな。
それでも声はかけてほしかったけど!
そう思っていると安奈は肩をすくめて、なぜかバツが悪そうに顔をそらした。
「いやまぁ、迷ったんだけどさ。そもそも私、いつも用意してもらってる側だし。アンタに全部丸投げで。そんな私が、アンタが楽しそうにゲームしてるとこ……しかもテスト明けに、さっさと夜ご飯作ってって、何様なん? って感じじゃん。いや、今更言っても遅い感はあるけど」
だから、って安奈は続ける。
「夜ご飯は自分で用意して食べた。アンタの分もあるから、適当につまめば」
「えっ……作ったの? 安奈が?」
「凝ったものは作ってないから。てか、なにそのリアクション。私が別に料理できないわけじゃないって知ってるでしょ?」
「いやまぁ、知ってるけど。だって面倒くさがってやりたがらないでしょ」
今回だって適当な冷凍食品とか、あとは外で食べてくるとか買ってくるとかできただろうに。
わざわざ作ってくれるなんて。
「……別に、ただちょっと、気が向いたっていうか。前々から悪いなぁって、思ってたっていうか」
「……そっか。ありがと、安奈。けど別に悪いなんて思うことはないからね。僕だって夕飯は食べなきゃいけなくて、どうせ用意するなら1人も2人も変わらないし、夏芽さんたちから食費はもらってるしね」
夏芽さんは安奈のお母さんだ。
服飾関係の仕事に就いていて、多忙らしくいつも帰りが遅い。
「……ま、アンタがそういうならこれからも甘えさせてもらうけど」
安奈は言うと、僕の背後のテレビに目を向けた。
「それ、ずいぶん夢中になってたけど。なんのゲーム?」
「これ? アクセラストレイヴってタイトル。前に小堀くんと話すきっかけになったゲームなんだけど、覚えてる?」
「あぁ、そのときの。昔CMやってた?」
「やってた。僕らが小学生の頃」
「ふーん……。面白い?」
「もちろん! めっちゃ面白いよ!」
──もしかして今、チャンスか?
安奈、アクスレに興味を持ってる?
最近は僕の勧めでいくつかアニメや漫画を見たり読んだりしてるし、図書室で借りられるラノベにも手を出してみたらしい。
ゲームの方は安奈がハードを持ってないから勧めたことがなかったけど、そうだよ、僕のを貸せば済む話じゃないか。
「やってみる?」
「え?」
「アクスレ。今やってるのは2なんだけどさ、1から。ゲーム機なら僕のを使えばいいし」
どうだ?
さすがにゲームはちょっとハードルが高いか……?
「んー……ん。やる。つまらなかったらすぐやめるけど」
「ホント!? よし、やろうすぐやろう! 大丈夫、絶対に安奈にとっても面白いから!」
「ちょ、その前にアンタは夜ご飯食べなさいよ!」
「あ、うん。それはそうだよね」
せっかく安奈が用意してくれたんだし、食べないのは勿体ないし申し訳ない。
僕はセーブだけ済ませて、安奈と一緒に部屋を後にする。
まさかまた安奈と一緒にゲームをする機会が訪れるとは。
小学校低学年の頃、お父さんのゲーム機を借りてやってたとき以来だ。
これも計画の成果だなぁ。
まさかこんなとんとん拍子──だったかはまぁ、わからないけど。
けどどう考えても無理ゲー、みたいなところから始まった割にはかなり順調だ。
今の調子なら、安奈にオタクに優しいギャルになってもらうのもいつかは──。
いや、安奈がオタク趣味に理解を持ってくれても、別にオタクに優しくなってくれるかどうかは別の問題か。
「……ま、いいかそこは」
「なに? なんか言った?」
「ううん、なんでもない」
首を傾げる安奈だけど、それ以上追及してくることはなかった。




