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勉強会Ⅲ

本作品はカクヨムにも投稿しています

「ん~……! 勉強、終わり!」

「こんなに真面目にテスト勉強したの久々だな~」

「お疲れ様、2人とも」


 勉強会開始から3時間半くらい。

 しっかり何時までって決めてたわけじゃないけど、なんとなく「もういいんじゃね?」的な雰囲気が僕らの間に流れ出して、今に至る。


 最初はだべったりもしたけど、なんだかんだでみんな集中して取り組めたんじゃないかと思う。

 久瀬くぜさんが早々に音を上げるんじゃないかと思ってたけど、意外にも真面目にワークに取り組んでいるみたいだった。


 夢野ゆめのさんから「きっとすぐに飽きちゃうと思いますけど、なんとかなだめてくださいね」ってこっそり忠告されてたけど、全然必要なかったな。

 なんだかんだ、しっかりやるべきことはやるタイプなんじゃ──。


なばり先輩! 例の写真見せてください!」

「──忘れてくれてなかったんだ、それ」


 うん、やるべきことはしっかりとやるタイプだ。


「当たり前じゃないですか! 先輩の幼馴染って気になりますし! それにその人と仲良かったのって小学生の頃なんですよね? なら小学生の頃の先輩も一緒に写ってるかもしれないじゃないですか!」

「えぇ? 別に僕の小学生の頃の写真なんて見てもなんにも面白くないと思うけど」

「そんなことないです!」

 

 妙に力の入った否定だ。

 別に普通の小学生だったけどなぁ。


 スマホの画面をチラッと見ると、数時間前にお母さんからメッセージが届いていた。

 アルバムをリビングに出しておく、とのこと。


 幼馴染の少女が熱莉ほとぼり安奈あんなであると悟られないものにしてくれ、と伝えてあるから、危ない写真は弾いていると思うけど。

 正直心配だなぁ。


「はぁ。まぁいいや、アルバム取ってくるから、ちょっと待ってて」

「やったー!」


 久瀬さんはトレードマークの亜麻色髪を揺らし、可愛らしくガッツポーズを取る。

 そんな久瀬さんを横目に部屋を出て、1階へ降りる。


 どうやらお母さんは買い物に出かけているみたいで、リビングのテーブルの上にぽつんとアルバムが置かれているだけだった。

 一通り目を通して、熱莉の苗字やその他関係性の特定に繋がりそうなものがないことを確認して部屋に戻る。


「はい、お待たせ」

「きたー!」

「さ~て、隠の幼馴染の女の子、どんなのか見せてもらおうか」

「はいはい。ほら、この子だよ」


 アルバムのページをめくり、僕は1枚の写真を見せる。

 多分、小学3年生の頃の写真。


「へー、結構可愛いじゃん」

「ホントですね。綺麗な金髪で目もくりっとしてて、すっごい笑顔」


 写真は隠家と熱莉家でキャンプに行ったときのものだ。

 ちょうど川辺で水遊びをしているところで、安奈が僕に向かって盛大に水を浴びせているところを横からとらえている。


「っていうか先輩、ちっちゃくて可愛い~……!」

「そっち?」


 写真の中の僕は、安奈にかけられる水を少しでも防ごうと腕で身を隠そうとしていた。

 懐かしいなぁ。


「あ、こっちはお肉食べてるとこですね」


 隣の写真は、カメラに気づいた僕と安奈がお肉を食べながらピースをしているところだ。

 他にも2人で薪をいっぱいに抱えて歩いているところとか、テント内ではしゃいでいるところとか、たくさん写真が撮ってある。


 ぺらぺらとページをめくったところで、坂本くんが手を止めた。


「おっ、なんかすげぇ凝った構図のやつあるぞ」

「すごーい……! なんか本格的ですねこれ!」

「あー。これ、安奈のお父さんが撮ったやつだね」


 そのページにあったのは、キャンプ場にかかる橋を僕と安奈が手を繋いで歩いている写真だった。

 長い橋の真ん中を歩く僕らを、橋の手前の低い位置から撮っている。


 他にも木々の隙間から夕焼けの差し込む様子を綺麗にとらえたものや、星空を見上げる僕らを、僕らごと星空を見上げて写すような構図で後ろからとらえたものなど。


 それまでの人物主体の写真とは違った、景色も込みで写したものが何枚もあった。


「安奈のお父さん、写真家なんだ。いろんなところで写真撮っててさ」

「へぇ~……」

「この子が引っ越したっていうのも、もしかしてそれ絡みか?」

「え? あ、うん。そうそう」


 坂本くんの言葉に、僕はつっかえながらも頷いた。

 怪しまれるかと思ったけど、幸いにも2人は特に不自然に思った様子はない。


 よかった、なんとかなったかな。

 なんて思っていると、坂本くんが写真を眺めながらボソッとつぶやいた。


「にしてもこの子、熱莉と同じ金髪なんだな。名前も一緒だし」

「っ!? あ、あぁうん。だね。言われてみれば」

「最初安奈って聞いたときもしかして~なんて思ったし、写真見て金髪だったからびっくりしたけど、まぁそんなわけないよな」

「う、うん。さすがにね」

「だよな。席替えしてからは話してるとこ見かけるけど、それ以前はお前と熱莉が話してるところなんて見たことないし。そもそもこの子と熱莉じゃ雰囲気違いすぎるしな」


 ──あっぶな!

 普通にバレかけてるじゃん……!


 けどギリギリのところで結びつかなかったみたいで、2人とも写真を眺めながらあーだこーだ言っている。

 

 この頃の安奈は今と比較にならないくらいに明るく活発で、表情も今より眩しかった。

 それに髪型も動きやすさ重視でショートボブだし、体つきも小学生のそれだ。


「先輩、今はこの子とはもう関りないんですよね?」

「う、うん。引っ越してからは一度も会ってないよ」

「そうですか。なら安心です。テスト頑張りましょうね、先輩方」

「んん……? う、うん」

「はぁ。隠、お前ってやつはつくづく鈍感なんだか自己肯定感が低いんだか」

 

 なぜか機嫌が良さそうな久瀬さんと、一方で呆れた様子の坂本くんに困惑を隠せない僕だけど、テストを頑張らなきゃいけないのは本当のことだ。

 ひとまず頷くことで、僕は困惑を思考の外に追い出すことにしたのだった。

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