勉強会
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「おじゃましまーす」
「しまーす」
土曜日の昼下がり、僕の家には珍しく安奈以外の友達が来た。
いや、安奈は友達っていうかほとんど家族みたいなものなんだけど。
「いらっしゃい、2人とも」
玄関で僕が出迎えたのは、久瀬さんと坂本くんだった。
なんでこの2人が家に来たのかというと、そのきっかけは数日前にさかのぼる。
「やべ~。期末テストの勉強なぁんもしてねぇや」
お昼休み、坂本くんと中庭でお昼ご飯を食べている最中だった。
迫る期末テストについて、坂本くんはここ最近こればっかり言ってる。
「わかってるならすればいいのに、勉強」
「うるせぇ~。それができりゃあ苦労はしねぇってやつだよ」
まぁわかるけども。
「お前はどうなんだよ」
「正直言うと、僕も勉強ほとんどしてないよ」
「嘘くせぇ~。あの真面目な隠が勉強してないなんてあるか?」
「本当だって。最近アクスレにハマって勉強どころじゃなくてさ」
自分で言うのもなんだけど、僕自身は比較的真面目な性格だと思ってる。
課題は期限内に必ず提出するし、たまにうとうとしちゃうけど授業はちゃんと受けてる。
テスト勉強についても、今までは2週間前からワークをやったりプリントを見直したりして、どうにか赤点を避けるべく頑張ってきた。
現代文や歴史辺りは特に、ワークを周回すればするほと点数が上がる覚えゲーみたいなものだし。
だけど今回は違う。
テストまであと1週間もないけど、ワークは提出分しかやれてない。
頭の中はテスト範囲じゃなくてアクスレのストーリーの感想や次はなにをしようかという考えでいっぱいいっぱいだ。
「はぁ……なんだかんだテスト前なのに、セールしてるからって2も3も買っちゃったんだよね……」
「ホントですか!? 言ってくださいよ、それは!」
「うわっ!?」
「おわっ!」
びっくりした!
背後から大声が聞こえて振り返ると、渡り廊下に久瀬さんがいた。
その隣には久瀬さんと同じくらいの背丈の、紺色の髪のおさげの女の子がいる。
たしか夢野さんだっけ、久瀬さんのクラスメイトの。
「もう2も3もやったんですか!? 感想聞かせてくださいよ! 誰が推しですか!?」
「ま、まだ2も3もやってないよ! 買っただけ! ほら、テスト前だし」
「なぁーんだ、そうなんですか」
不満そうに唇を尖らせる久瀬さん。
その横で夢野さんが苦笑を浮かべていた。
「美黎ちゃんも隠先輩を見習ったら? 昨日も夜中遅くまでゲームしてたんでしょ?」
「うっ、うるさいなぁ鈴奈は。いいでしょべつに」
「あんまりよくはねーと思うけどな」
「坂本くんも勉強はしてないでしょ」
人のことを言えた義理じゃないのは、今回僕もそうなんだけど。
「だってやる気でねぇんだもん」
「私もです~」
「でも赤点取ったらいろいろ困るでしょ? 補習とかさ」
「うっ……」
久瀬さんが露骨に嫌そうな表情を浮かべた。
……まさか1年の中間テスト時点で補習組だったとか言わないよね?
「うー……あ、じゃあ勉強会しましょうよ! どうせ1人だとやる気出ないし、お互い監視しあってってことで!」
「勉強会?」
「です! どうですか?」
「んー……まぁ、悪くないかも? 僕も今、1人でいるとついアクスレやっちゃうし……」
「やった! じゃあぜひやりましょう! 鈴奈は? 来る?」
「私はやめとく。1人の方がはかどるし、あんまり隠先輩たちと話したことないから、お邪魔しちゃうのも悪いし」
別に邪魔に思うことはないけど、1人の方がはかどるなら無理に誘うのもよくないだろう。
「坂本くんはどうする?」
「んー……よし、行く。さすがの俺も危機感をミリ単位では抱いているからな」
「あれだけやべぇやべぇって言っててまだミリ単位だったんだ」
本格的に危機感を抱いたときにすごいことになりそうだな。
なんて思ったけど、口には出さなかった。
──そして、今に至る。
「あら、いらっしゃい。千尋から聞いてるわよ~。勉強会やるんだって?」
きっかけとなった出来事を思い出していると、後ろからお母さんが声をかけてきた。
平日は朝早く家を出て夜遅くに帰ってくるし、土日も仕事で家にあんまりいないお母さんだけど、今日は珍しく1日休みだった。
「私これでも教員なのよ。なにかあったら頼ってくれていいからね?」
「えっ、隠先輩のお母さんって学校の先生だったんですか!?」
「あー、そういや言ってたな」
「体育教師に出番はないから、勉強会において」
「なーに言ってんの、期末テストなら保健体育もあるんじゃないの?」
「あるけど、別に保健体育は勉強会でやるほど難しくないから」
うちの高校では保健体育、家庭科は中間テストで取り扱わない代わりに期末テストで1学期分まるごと範囲になる。
けどそのせいか、テストの内容はかなりぬるいというか、簡単だ。
授業を受けてたら赤点は絶対ないレベルと、担当教師が豪語するほどなんだから。
「はいはい。にしても珍しいわね、アンタが安奈ちゃん以外を家に呼ぶなんて」
「えっ」
「安奈ちゃん?」
「まっ……!?」
やばっ、そういえば説明してないんだった……!
「お母さん、ちょっと……! 部屋上がってていいよ、階段上がって曲った先、一番奥がそうだから」
2人を半ば強引に2階に追いやって、僕はお母さんをリビングの方へ引っ張る。
「なに、どうしたの?」
「僕と安奈のことは学校では内緒にしてるの……!」
「どうして?」
「それはその……いろいろあって!」
「そうなの? 喧嘩してるとかじゃないでしょうね?」
「ない、それはない。なんならそこは安奈に聞いてもらって構わないから」
「そ、ならいいけど」
──危なかった。
というか、まだ危ないか?
隣の家の標識見られたら、安奈が熱莉安奈のことだなんて容易にたどり着ける。
階段を上がりながら、僕はため息を吐く。
「……ボロを出さないように気をつけないとな……」
この勉強会、思ったより難しくなりそうだ。




