不審な出来事
本作品はカクヨムにも投稿しています。
「ただいまー」
「……ん、おかえり」
月曜日の夜、買い物を終えて帰ると、いつも通り安奈がリビングでくつろいでいた。
「今日は鮭だよ。あと作り置きしといたおかずいくつか」
「ん」
ソファにうつぶせになったまま、安奈は短い返事をする。
前までとまるで変わらない態度だけど、最近は僕の勧めた漫画をアプリで読んでることもあるらしい。
最新話が無料で公開されるタイプの作品だ。
オタクに優しいギャル育成計画の進捗に満足しながら、僕は手洗いうがいを済ませて夕飯の支度にとりかかる。
と言っても、さっきも言った通り今日のメインは鮭。
簡単な下ごしらえをして、あとはグリルで焼くだけだ。
他のおかずは作り置きしてあるし、今日はそこまで手間はかからない。
まぁ、別にいつも手間のかかるものを作ってるわけでもないんだけど。
「そういえばさ」
「んー?」
米を研ぎ始めようとしたタイミングで、安奈が声をかけてきた。
「アンタ、昼休みに小堀に呼び出されてたけど、なに話してたの?」
「あー……まぁ、いろいろと」
「は? なにそれ。説明になってないんだけど」
「いやまぁ、別に大した話はしてないんだよ。ほんと」
安奈はむくりと起き上がって、ソファから鋭い視線を向けてくる。
「大した話もなしに、小堀がアンタを呼び出すわけなくない? そんな気やすい仲じゃないでしょ、アンタら」
「えっとー……まぁ、その、はい。いやでも、ちょっと安奈には話せない内容なんだ」
「なにそれ」
安奈との関係を詮索された、まではまぁ話してもいいかもしれない。
けどそのあとの、小堀くんが安奈を好きというのは当然話せない。
いや、安奈との関係を詮索されたことも話すべきじゃないのかもしれない。
詮索してきた理由を聞かれてもなにも言えないし、安奈が小堀くんにそれを聞くのもよくない展開だろうし。
となれば当然、黙るしかない。
「……いじめられてるとかじゃないわけ?」
「いじめ!? いや、ないない!」
呼び出されたときは正直怖かったけど。
「まぁ……アイツがいじめやってるとことか嫌がらせしてるとこ見たことないし、それはないか」
「う、うん。ないない。全然そういうのじゃないから」
「じゃあなんなわけ? アンタと小堀、席が近い意外に接点ないでしょ」
じとーっと追及のまなざしを向けてくる安奈は、なかなか引き下がってくれなそうだ。
普段僕の行動なんてほとんど気にしてなさそうなのに、今日はどうしたんだろう。
それだけ小堀くんと僕の話が気になる、というか、その状況が異常ってことか。
「なーんか、怪しくない? 私に話せないってのも意味わかんないし」
ま、まずい。
あんまり適当な誤魔化し方をすると裏目にでるやつだ。
こうなったら、うまいこと共通の話題かなにかを見つけて──。
「あっ……えっと、実はゲームの話なんだ」
「ゲーム?」
「そう。アクスレってゲームがあってさ、新作発表記念で過去作のセールやってて、今プレイしてるんだ。で、小堀くんのお兄さんが昔そのゲームやってたみたいで」
「その話で盛り上がったってこと?」
「盛り上がったってほどじゃないけど、いくつか聞かれたっていうか、ゲーム関係で」
どうだ。これはまったくの嘘ってわけじゃない。
「ふーん、ま、そういうことならいいけど」
納得してくれたみたいで、安奈は再びソファに寝転がった。
とりあえずセーフ、か。
「はぁ……」
思わず安堵の息をこぼして、夕飯の支度を再開する。
なんだか今日は疲れたな、いろいろ。
寝不足気味だったのもよくない。
とはいえアクスレは面白すぎてやめられそうにないし、今日も深夜コースまったなしかなぁ……。
明日の授業への憂鬱さを抱えながらも、僕はアクスレへの期待につい笑みを浮かべてしまう。
「……きもっ」
「うわっ!?」
いつの間にか、安奈が起き上がって僕を見ていた。
それもなんだか白い目で。
「ため息ついたかと思えばニヤニヤと、やっぱなんか隠してるわけ?」
「いや、隠してないよ! っていうかさっきのはため息じゃないから別に!」
「ホントに? なぁんかさっきからアンタ、嘘くさいんだけど」
「そんなことないから! ほら、僕は夕飯の支度で忙しいから、あとにしてあとに!」
「ふーん、まぁいいけど」
言うと、今度こそ安奈は寝転がってスマホをいじりだしたらしい。
僕は本当に出そうになったため息を飲み込んで、支度を進める。
安奈相手に隠し事は分が悪いっていうか、幼馴染の付き合いっていうか、いつかボロが出そうで怖い。
そのときはごめん、小堀くん。
今のうちに謝っておくことにした。
心の中で、だけど。




