第483話 「裁きなき法廷」
静寂。
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地下施設の最深部。
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アルトと怪盗狩りは、
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十メートルほどの距離を挟み、向かい合っていた。
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どちらも武器を抜かない。
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# ◆怪盗狩り
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ゆっくりと銀色のバッジを外し、
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机の上へ置く。
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◆静かに
「今日は戦いに来たのではありません。」
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# ◆アルト
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帽子のつばに触れる。
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「なら、何しに来た。」
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# ◆怪盗狩り
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真っすぐアルトを見つめる。
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「あなたを裁きに来ました。」
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# ◆クロ
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『裁く……?』
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# ◆怪盗狩り
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部屋の中央へ歩き出る。
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床に白い線が浮かび上がる。
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円形の紋様。
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その中心には、一脚の椅子。
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# ◆怪盗狩り
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「ここは法廷です。」
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「裁判官はいません。」
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「検察官も弁護士もいません。」
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◆一言
「あるのは事実だけです。」
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# ◆アルト
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迷うことなく椅子へ腰掛ける。
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# ◆レイン
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「アルト!」
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# ◆アルト
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振り返らない。
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「いい。」
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「逃げる理由はない。」
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# ◆怪盗狩り
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小さくうなずく。
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指を鳴らすと、
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空中に一枚の映像が映し出された。
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# ◆映像
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十年前。
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宝石店強盗事件。
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アルトが宝石を盗み出した夜。
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その混乱に乗じて、
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一人の子どもが誘拐されていた。
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# ◆怪盗狩り
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「あなたは知りませんでした。」
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「ですが。」
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「結果として。」
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「救えなかった。」
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# ◆アルト
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目を閉じる。
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「……ああ。」
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# ◆怪盗狩り
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次の映像。
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七年前。
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アルトが盗み出した企業の機密データ。
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その暴露で不正は明らかになった。
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しかし、
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倒産によって職を失った社員もいた。
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# ◆怪盗狩り
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「悪は暴かれました。」
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「ですが。」
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「生活を失った人もいました。」
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# ◆静寂
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部屋が静まり返る。
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# ◆怪盗狩り
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アルトを見据える。
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◆核心
「あなたは。」
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「人を救ってきた。」
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「同時に。」
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「人を傷つけてもきた。」
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「違いますか。」
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# ◆アルト
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しばらく沈黙する。
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やがて、
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ゆっくりとうなずいた。
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「違わない。」
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# ◆クロ
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『アルト……。』
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# ◆怪盗狩り
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少しだけ驚く。
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「否定しないのですか。」
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# ◆アルト
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静かに立ち上がる。
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「否定したら。」
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「傷ついた奴らまで嘘になる。」
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「俺は英雄じゃない。」
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「失敗もする。」
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「間違えることもある。」
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# ◆怪盗狩り
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「ならば。」
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「怪盗を辞めるべきです。」
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# ◆アルト
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首を横に振る。
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◆静かに
「辞めれば。」
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「俺が救えたはずの誰かも。」
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「今度は救われなくなる。」
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# ◆怪盗狩り
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初めて言葉を失う。
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# ◆アルト
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「だから。」
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「裁かれるなら受ける。」
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「責任も背負う。」
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「でも。」
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帽子をかぶり直し、
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怪盗狩りを真っ直ぐ見据える。
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◆力強く
「誰かを救うことだけは、やめない。」
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# ◆ラスト
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長い沈黙が流れる。
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やがて怪盗狩りは、
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静かに目を閉じた。
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「……その答えを。」
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「私は二十年間、待っていました。」
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その一言で、
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この裁きが単なる復讐ではないことを、
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アルトは悟るのだった。
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――続く。




