第479話 「盗めないもの、託せるもの」
病室。
---
夜風が、
---
白いカーテンを静かに揺らす。
---
# ◆アルト
---
窓辺にもたれ、
---
少年の横顔を見つめる。
---
---
◆静かに
「名前は?」
---
# ◆少年
---
少し間を置いて答える。
---
---
「……湊。」
---
# ◆アルト
---
「湊か。」
---
---
「いい名前だ。」
---
# ◆湊
---
苦笑する。
---
---
「もう、その名前を呼ばれるのも嫌なんだ。」
---
# ◆アルト
---
何も言わない。
---
---
急いで励ますこともしない。
---
# ◆静寂
---
時計の針だけが、
---
静かに時を刻んでいた。
---
# ◆湊
---
ぽつりと口を開く。
---
---
「事故だった。」
---
---
「僕のせいじゃないって。」
---
---
「みんな言う。」
---
---
「先生も。」
---
---
「警察も。」
---
---
「お母さんも。」
---
---
拳を強く握る。
---
---
「でも。」
---
---
◆震える声
「僕があの日、一緒に遊ぼうなんて言わなければ……。」
---
---
「親友は死ななかった。」
---
# ◆アルト
---
静かに聞き続ける。
---
---
口を挟まない。
---
# ◆湊
---
「だから。」
---
---
「笑っちゃいけない。」
---
---
「楽しく生きちゃいけない。」
---
---
「それが僕の罰だから。」
---
# ◆静寂
---
病室が再び静かになる。
---
# ◆アルト
---
帽子を外し、
---
ベッドの脇へ置く。
---
---
◆穏やかに
「一つだけ訂正する。」
---
# ◆湊
---
「……?」
---
# ◆アルト
---
「俺は怪盗だけど。」
---
---
「罪は盗めない。」
---
---
「過去も盗めない。」
---
---
「亡くなった人を返すこともできない。」
---
# ◆湊
---
目を伏せる。
---
---
「やっぱり……。」
---
# ◆アルト
---
小さく笑う。
---
---
「でもな。」
---
---
「お前が一人で背負い込もうとしているものなら。」
---
---
「少しだけ軽くする手伝いはできる。」
---
# ◆アルト
---
ポケットから、
---
最初に渡した予告状を取り出す。
---
---
その裏へ、
---
ペンで一行だけ書き加える。
---
> **盗むもの:一人で抱え込む理由**
---
そのカードを、
---
湊へ手渡す。
---
# ◆湊
---
カードを見つめる。
---
---
「……これで。」
---
---
「何か変わるの?」
---
# ◆アルト
---
静かに首を横へ振る。
---
---
「分からない。」
---
---
「変えるのは俺じゃない。」
---
---
◆一言
「お前だ。」
---
# ◆異変
---
その時、
---
病室のドアがゆっくり開く。
---
中年の女性が立っていた。
---
湊の母親だった。
---
# ◆母親
---
部屋へ入ろうとして、
---
二人の姿を見て立ち止まる。
---
# ◆湊
---
予告状を握りしめたまま、
---
震える声で言う。
---
「……お母さん。」
---
---
長い間、
---
言えなかった言葉が、
---
ようやく唇からこぼれる。
---
「ごめんなさい。」
---
# ◆母親
---
首を横に振る。
---
---
涙を流しながら、
---
湊を強く抱きしめた。
---
「ずっと……。」
---
「その一言を、一人で抱えなくていいって伝えたかった。」
---
# ◆アルト
---
親子の姿を見届けると、
---
静かに帽子をかぶり直す。
---
# ◆ラスト
---
窓から吹き込む夜風が、
---
机の上の予告状をそっと揺らした。
---
怪盗は、
---
誰かの人生を盗まない。
---
ただ、
---
閉ざされた心の扉を開くきっかけだけを残して、
---
夜の街へ姿を消していった。
---
――続く。




