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影の盗賊(シャドウ・シーフ)  作者: A-LIGHT(I lie)


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621/644

第479話 「盗めないもの、託せるもの」

 病室。


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 夜風が、


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 白いカーテンを静かに揺らす。


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# ◆アルト


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 窓辺にもたれ、


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 少年の横顔を見つめる。


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◆静かに


「名前は?」


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# ◆少年


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 少し間を置いて答える。


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「……湊。」


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# ◆アルト


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「湊か。」


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「いい名前だ。」


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# ◆湊


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 苦笑する。


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「もう、その名前を呼ばれるのも嫌なんだ。」


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# ◆アルト


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 何も言わない。


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 急いで励ますこともしない。


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# ◆静寂


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 時計の針だけが、


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 静かに時を刻んでいた。


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# ◆湊


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 ぽつりと口を開く。


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「事故だった。」


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「僕のせいじゃないって。」


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「みんな言う。」


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「先生も。」


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「警察も。」


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「お母さんも。」


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 拳を強く握る。


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「でも。」


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◆震える声


「僕があの日、一緒に遊ぼうなんて言わなければ……。」


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「親友は死ななかった。」


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# ◆アルト


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 静かに聞き続ける。


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 口を挟まない。


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# ◆湊


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「だから。」


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「笑っちゃいけない。」


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「楽しく生きちゃいけない。」


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「それが僕の罰だから。」


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# ◆静寂


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 病室が再び静かになる。


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# ◆アルト


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 帽子を外し、


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 ベッドの脇へ置く。


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◆穏やかに


「一つだけ訂正する。」


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# ◆湊


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「……?」


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# ◆アルト


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「俺は怪盗だけど。」


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「罪は盗めない。」


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「過去も盗めない。」


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「亡くなった人を返すこともできない。」


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# ◆湊


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 目を伏せる。


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「やっぱり……。」


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# ◆アルト


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 小さく笑う。


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「でもな。」


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「お前が一人で背負い込もうとしているものなら。」


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「少しだけ軽くする手伝いはできる。」


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# ◆アルト


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 ポケットから、


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 最初に渡した予告状を取り出す。


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 その裏へ、


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 ペンで一行だけ書き加える。


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> **盗むもの:一人で抱え込む理由**


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 そのカードを、


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 湊へ手渡す。


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# ◆湊


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 カードを見つめる。


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「……これで。」


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「何か変わるの?」


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# ◆アルト


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 静かに首を横へ振る。


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「分からない。」


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「変えるのは俺じゃない。」


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◆一言


「お前だ。」


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# ◆異変


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 その時、


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 病室のドアがゆっくり開く。


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 中年の女性が立っていた。


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 湊の母親だった。


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# ◆母親


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 部屋へ入ろうとして、


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 二人の姿を見て立ち止まる。


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# ◆湊


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 予告状を握りしめたまま、


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 震える声で言う。


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「……お母さん。」


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 長い間、


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 言えなかった言葉が、


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 ようやく唇からこぼれる。


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「ごめんなさい。」


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# ◆母親


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 首を横に振る。


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 涙を流しながら、


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 湊を強く抱きしめた。


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「ずっと……。」


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「その一言を、一人で抱えなくていいって伝えたかった。」


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# ◆アルト


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 親子の姿を見届けると、


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 静かに帽子をかぶり直す。


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# ◆ラスト


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 窓から吹き込む夜風が、


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 机の上の予告状をそっと揺らした。


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 怪盗は、


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 誰かの人生を盗まない。


---


 ただ、


---


 閉ざされた心の扉を開くきっかけだけを残して、


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 夜の街へ姿を消していった。


---


――続く。


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