第471話 「盗む理由」
予告状。
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古びた紙は、
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アルトの手の中で静かに震えていた。
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# ◆アルト
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ゆっくりと裏返す。
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そこには、
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一文だけ書かれていた。
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> **あなたが最初に盗んだものを思い出せ。**
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# ◆静寂
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その瞬間、
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世界が白く染まる。
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# ◆回想
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幼いアルト。
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まだ怪盗ではない、
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一人の少年。
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雨の降る路地裏。
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少年は、
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膝を抱えて座り込んでいた。
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# ◆少年
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「……。」
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何も言わない。
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ただ、
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泣くことさえできなかった。
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# ◆???
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誰かが、
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少年の前に傘を差し出す。
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# ◆声
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「どうした?」
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# ◆少年
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「……全部。」
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「なくなった。」
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# ◆声
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優しく笑う。
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「違う。」
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◆一言
「まだ残ってる。」
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# ◆少年
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「何が。」
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# ◆声
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少年の胸へ、
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そっと指を当てる。
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◆静かに
「諦めてない心だ。」
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# ◆静寂
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景色が切り替わる。
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少年は立ち上がる。
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落ちていた一枚のカードを拾う。
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そこには、
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手書きでこう記されていた。
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> **『怪盗は、誰かの絶望を盗む。』**
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# ◆現在
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アルトは目を閉じる。
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◆小さく
「そうだったのか……。」
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# ◆男
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静かにうなずく。
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◆一言
「君は宝石から始まった怪盗じゃない。」
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「最初に盗んだものは。」
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◆核心
「誰かの絶望だった。」
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# ◆アルト
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帽子のつばを押し上げる。
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その表情には、
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迷いがなかった。
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# ◆アルト
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◆静かに
「だから俺は。」
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「希望だけを残してきた。」
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# ◆男
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満足そうに笑う。
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◆一言
「それでいい。」
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# ◆異変
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黒い金庫が、
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ゆっくりと音を立てて開く。
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ギィ……
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中には、
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宝石も、
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金貨も、
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武器もなかった。
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ただ一枚、
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真っ白なカードだけが置かれていた。
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# ◆アルト
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カードを手に取る。
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何も書かれていない。
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# ◆男
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静かに告げる。
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◆核心
「そのカードは。」
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「まだ書かれていない予告状だ。」
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「君が最後に盗むものを書き込め。」
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# ◆ラスト
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白紙の予告状。
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それは、
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怪盗アルトだけに許された、
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世界で一枚しか存在しない予告状だった。
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アルトはペンを握る。
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そして、
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最初の一文字を書こうとした、その瞬間――。
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部屋全体が激しく揺れ始める。
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――続く。




