第264話「存在しない一瞬」
アルトの身体が、
一瞬だけ“消えた”。
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そこにいたはずの存在が、
“なかったことになる”。
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◆静止
世界が、ほんの一瞬だけ止まったように感じる。
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◆ファントム
「……アルト?」
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声をかける。
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返事はない。
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◆違和感
そこに“誰かがいた気がする”。
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だが、
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思い出せない。
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◆侵食
記憶が、削れている。
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◆次の瞬間
「……っぶねえな」
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声がする。
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◆復帰
アルトが、そこに立っていた。
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何事もなかったかのように。
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◆ファントム
「アルト!!」
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思わず叫ぶ。
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◆アルト
「なんだよ、そんな顔して」
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軽く笑う。
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だが――
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◆異常
「……今、俺……」
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一拍。
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「消えてなかったか?」
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◆沈黙
ファントムは、すぐに答えられない。
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なぜなら――
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「……分からない」
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◆核心
「いた気はする」
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「でも、“いなかった”とも思える」
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◆理解
アルトの表情が、わずかに変わる。
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「……最悪だな」
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◆ファントム
「“終端削除”」
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一拍。
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「“終わり”そのものを消してる」
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◆アルト
「つまり?」
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◆結論
「“終わる前に消す”んじゃない」
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「“終わるという事実を無かったことにする”」
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◆意味
それは、
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攻撃でも、防御でもない。
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“存在の前提の破壊”。
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◆アルト
「じゃあ俺は――」
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一拍。
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「さっき、“存在してなかった”のか」
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◆ファントム
「ええ」
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はっきりと言う。
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「少なくとも、一瞬は」
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◆依頼人
「……そんな……」
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膝が震えている。
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◆恐怖の正体
終わらない世界。
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だが、
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それと同時に――
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“存在が成立しない世界”。
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◆敵
『終端削除、継続』
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“それ”が、再び動く。
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◆アルト
「チッ……」
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◆次の瞬間
再び、
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“結果”が先に来る。
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◆異常
アルトの腕が、
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一瞬、消える。
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「……は?」
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◆復元
次の瞬間、戻る。
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◆痛み
「ぐっ……!」
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遅れて、痛みだけが来る。
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◆ファントム
「アルト、下がって!」
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◆分析
思考が加速する。
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「“終わり”を消されてる」
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◆理解
「だから、“過程”も“結果”も成立しない」
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◆核心
「存在が、確定しない」
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◆アルト
「じゃあどうすんだよ!」
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◆一拍
ファントムが、静かに言う。
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「……固定する」
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◆アルト
「は?」
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◆説明
「“終わりを消される前に”」
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一歩、踏み出す。
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「“終わりを確定させる”」
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◆矛盾
終わらない世界で、
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終わりを確定させる。
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◆アルト
「できんのかよ、そんなこと」
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◆ファントム
「普通は無理」
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一拍。
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「でも、私たちは違う」
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◆記録者
「“記録する”」
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◆能力
「記録されたものは、消せない」
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◆アルト
少しだけ笑う。
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「なるほどな」
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◆理解
「“終わりを記録して固定する”ってわけか」
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◆ファントム
「ええ」
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◆だが
「ただし――」
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一拍。
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「一回きりよ」
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◆理由
「記録は、“一つの結末”しか持てない」
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◆アルト
「ミスったら終わりってか」
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◆ファントム
「そういうこと」
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◆決断
アルトが、前に出る。
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「いいじゃねえか」
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◆宣言
「その一回、当てりゃいい」
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◆最終構え
“それ”が、再び動く。
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『終端削除』
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◆アルト
「来いよ」
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◆ファントム
静かに目を閉じる。
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◆準備
「……この瞬間を」
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◆記録開始
「“終わり”として記録する」
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成功すれば、
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“終わり”は固定される。
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だが失敗すれば――
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アルトの存在は、
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完全に消える。
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◆ラスト
“それ”の攻撃と、
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ファントムの記録が、
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同時に発動する。
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世界が、白く弾けた。
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