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影の盗賊(シャドウ・シーフ)  作者: A-LIGHT(I lie)


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第250話 結末の盗難

白。


 ただ、白だけの空間。


 上下も、奥行きもない。


 それでも――


 確かに“何かが存在している”。


 アルトはゆっくりと目を開いた。


「……ここは」


「“余白”ね」


 隣で、ファントムが答える。


 彼女の声も、どこか輪郭が曖昧だった。


「物語と物語の間。書かれていない領域」


 アルトは周囲を見渡す。


 何もない。


 だが――


「……いや、あるな」


 指先で空をなぞる。


 すると、そこに“浮かび上がる”。


 文字。


 断片。


 途切れた文章。


「これは……」


「結末の候補よ」


 ファントムが手を伸ばす。


 一つの文章に触れた瞬間、それは鮮明になる。


 《アルトは選択を誤り、すべてを失う》


 空気が、わずかに重くなる。


「……趣味が悪いな」


 アルトは鼻で笑う。


「まだあるわ」


 ファントムは次々と触れていく。


 《ファントムは裏切る》


 《二人は互いに刃を向ける》


 《“ルナの涙”は破壊される》


 《物語はここで終わる》


「……ずいぶんと“都合のいい終わり方”ね」


 ファントムの声に、わずかな苛立ちが混じる。


「誰かが、誘導してるな」


「ええ。“収束させる力”が働いている」


 沈黙。


 白の中に、無数の終わりが浮かぶ。


 そのどれもが、“可能性”でありながら――


 どこか、完成されている。


「選ばせる気はない、か」


 アルトが呟く。


「選ばせるように見せて、“決めている”」


 ファントムは小さく息を吐く。


「でも、関係ないわ」


 その目が、鋭くなる。


「盗めばいい」


 アルトは口角を上げた。


「話が早い」


 彼は一つの“結末”に手を伸ばす。


 《アルトは消えることで、すべてを救う》


「……自己犠牲型か」


「ありがちなやつね」


「嫌いじゃないが――」


 アルトは、その文章を“掴む”。


「“用意されたもの”は、もっと嫌いだ」


 握る。


 すると――


 文字が、抵抗する。


 空間が軋む。


「簡単には取らせないってことか」


「当然ね。これは“固定された結末”」


 ファントムも別の文章に手をかける。


 《ファントムは一人で生き残る》


「……これも、却下」


 そのまま、力を込める。


 バキッ――


 見えない何かが“割れる音”。


 次の瞬間。


 空間に亀裂が走る。


「壊したのか?」


「ええ、一つ」


 ファントムの手の中で、文章が崩れ、消える。


「“確定していた未来”を、ね」


 アルトが笑う。


「いいな、それ」


 彼もまた、力を込める。


 ――破壊。


 一つ、また一つと。


 結末が、消えていく。


 だが――


 突然。


 空間全体が震えた。


「……来るわ」


 ファントムが低く言う。


 白が、黒に染まる。


 そして――


 “声”。


「無駄だよ」


 どこからともなく響く。


「それらは、すべて“記録済み”だ」


 アルトは顔を上げる。


「……またお前か。“記録する者”」


「違う」


 即座に否定。


「私は、その“上”」


 空間に、形が現れる。


 本。


 巨大な、一冊の本。


 ページが勝手にめくれていく。


「私は、“編纂する者”」


 ファントムの表情が変わる。


「……編集者、ってわけ」


「そうとも言う」


 ページが止まる。


 そこには――


 二人の姿。


 そして、“結末”。


「お前たちが壊したものも、すでに再配置されている」


 アルトが舌打ちする。


「キリがないな」


「ええ。だから――」


 ファントムは静かに言う。


「壊す対象を変える」


 アルトが視線を向ける。


「……結末じゃないのか?」


「違う」


 彼女は、その“本”を見上げる。


「“結末を決めているもの”を盗む」


 沈黙。


 次の瞬間。


 アルトが笑った。


「最高だな」


 一歩、踏み出す。


「つまり――」


 視線を上げる。


「お前のその“本”を、いただく」


 空気が凍る。


 “編纂する者”は、初めて沈黙した。


 そして――


 ゆっくりと、ページが閉じる。


「……不可能だ」


「どうだかな」


 アルトの姿が、消える。


 次の瞬間。


 本のすぐ“前”。


「怪盗を、舐めるな」


 手が伸びる。


 だが――


 空間が歪む。


 距離が、無限に引き延ばされる。


「届かないわ」


 ファントムが冷静に言う。


「物理的な距離じゃない。“層の差”」


「なら」


 アルトは笑う。


「上がればいい」


「簡単に言うわね」


「簡単じゃないことをやるのが仕事だ」


 ファントムは一瞬だけ目を閉じる。


 そして――


「……乗るわ」


 “ルナの涙”が、強く輝く。


「階層を越える」


 光が、空間を貫く。


 本へと、一直線に。


 “編纂する者”が初めて動揺する。


「なにを――」


「盗むのよ」


 ファントムの声が響く。


「“物語の主導権”を」


 光が、本に触れる。


 その瞬間。


 世界が、崩壊する。

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