第249話 その手には、“本”。
人の形をしている。
だが、人ではない。
輪郭が安定しない。
存在が、定義されていない。
「……あなたたちが、“境界に触れた者”ね」
声は、直接脳に響いた。
アルトは即座に構える。
「今度は、何者だ」
“それ”は、首を傾ける。
その動きすら、何フレームか飛んで見えた。
「私は、“記録する者”」
「観測とは違うのか?」
「違うわ」
即答だった。
「観測は、見るだけ」
「記録は――残す」
その言葉に、ファントムが反応する。
「……最悪ね」
「ええ、最悪よ」
“それ”は微笑んだ。
「あなたたちは、もう“消せない”」
アルトの目が鋭くなる。
「どういう意味だ」
「あなたたちは、上位層に“記録された”」
静かに、告げる。
「物語として」
一拍。
「つまり――」
ファントムが続ける。
「私たちは、“終わりが決まる側”になった」
「その通り」
“それ”は肯定する。
「結末は、いずれ収束する」
「悲劇か、救済か、それとも――」
わずかに間を置き、
「消失か」
沈黙。
風が止まる。
アルトは、ゆっくりと息を吐いた。
「……なら」
顔を上げる。
「書き換えるだけだ」
“それ”が、初めて明確に反応した。
「書き換える?」
「結末が決まってるなら」
アルトは一歩前に出る。
「その“決まってるもの”ごと盗む」
ファントムが小さく笑う。
「らしいわね」
そして、彼女も並ぶ。
「“怪盗”のやることは一つ」
青い光が、強くなる。
「奪うこと」
“それ”は、しばらく二人を見つめていた。
やがて――
「面白い」
空間が、さらに歪む。
「なら、試してみなさい」
無数の“文字”のようなものが、空中に浮かぶ。
それは――
物語の断片。
未来の可能性。
結末の候補。
「この中から、自分たちの“終わり”を盗めるか」
アルトは笑った。
「簡単だ」
「一番気に入らない結末を壊す」
ファントムは続ける。
「そして――」
二人、同時に。
「“存在しない結末”を作る」
その瞬間。
“ルナの涙”が、強烈に輝いた。
世界が、白に染まる。
◆次章フック(さらに先)
白の中で。
誰かが、ページをめくる。
「……へえ」
興味深そうな声。
「ここまで来るとは」
その手には、“本”。
タイトルはまだない。
だが――
確かにそこには、“アルトとファントム”の物語が記されている。
「なら、少し難易度を上げようか」
ページが、書き換わる。
その瞬間。
現実側で、二人の足場が崩れる。
新たな舞台。
新たなルール。




