196 夢淫魔との死闘
「うふふふ。そんなことより愉しいことしましょうよ。」
誰もいなかった夢空間のはずが突然色っぽい声が聞こえてきた。
ちょっとぞわってした。
「ふふ。こっちよ。」
振り向くとそこには天使の微笑みを湛えた真っ赤なドレスのカレリーナがいた。
いつ見ても可憐だが、今日の衣装は胸元が大きく開いており、スカートにも大胆にスリットが入っている扇情的なものだった。
魅力的な笑みを浮かべてゆっくりとこちらに近寄ってくる。
潤んだ濃紫色の瞳が妖しく光り、吸い込まれそうな錯覚に陥る。
自然と言葉を紡ぐ。
「愉しいことって?」
「もちろん貴方がしたいこと。何でもしていいの。そうすれば、私は嬉しいわ。」
「したいこと・・・。」
「そう。何がしたい?」
「それは・・・。」
頭がぼーっとする。
カレリーナとしたいこと。
気がつけばカレリーナは手が届く距離にまで近づいていた。
鼻腔を刺激するいい香りがする。
脳髄の奥にまで届く魅力的な声がする。
強く求めてやまないカレリーナが目の前にいる。
蠱惑的な大人の色気を感じさせるカレリーナを見ていると別れの日のことを思い出す。
そう。
感動的な別れをしたあの日を。
必ず帰ると夕日に照らされたルビーのような真っ赤な瞳に約束したあの日を。
あの、日を。
・
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・
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恥っずっっ!!!
思わず顔がカーっと熱くなる。
ちょくちょく店舗には顔を出しているが気まずくてカレリーナには会っていない。
あれだけかっこつけて約束したもののちょくちょく帰っているとかどんな顔をして会えばいいのか分からない。
いや、分かっているんだ。
ケロっとした顔をして会いに行けばいいんだ。
実は・・・と言って会いに行けば。
だが、それを考えただけで顔が熱くなる。
口の中がカラカラに乾燥して口が回らなくなる。
一歩が踏み出せずにいる。
自分でも思う。
なんてヘタレだ。
だがしかし、仕方がないじゃないか。
好きな子の前では格好つけたいのだ。
男の子だもん!
くっ殺せ!
「うふふ。顔を赤くしてどんなことを想像したのかしら?ねえ教えて?何がしたいの?」
綺麗な濃紫色の瞳が妖しく光る。
「そ、それは、えっと・・・。」
「照れなくていいのよ。だってここは夢の中。何でもデキる。何でもシテいい。何にでもナレる。」
「できる・・・。していい・・・。なれる・・・。やればできる!」
「そうよ。言ってごらん。ほら。」
「・・・君が欲しい。」
「ふふっいいわ。だってここは夢の中。なんだって叶うの。ふふっふふふ。」
「君が・・・。」
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
「ふぅ。夢ってすげー。」
「ハァハァハァハァハァハァハァ・・・。」
まあ、察してくれ。
というか息が荒すぎだろ。
もっと鍛えろよ夢淫魔だろ。
「ハァハァハァ、な、何で、ハァハァワタシの方が、ハァハァ、こんなに、ハァ、消耗、してるのよ、ハァハァハァ・・・。」
「レベル差じゃないか?」
「ハァハァ、はあ?たかが人間がワタシより強い訳ハァハァ、ないハァハァ・・・。」
「いやいい加減落ち着けよ。ハァハァ五月蝿いぞ。」
何時までも息を切らせた夢魔をパシっとはたく。
「あんッ!アッ、ま、待ってよっ、まだ敏感なんだからっ!」
「いやここ夢だろう。敏感とかあるかよ。」
「む、ワタシたちにとっては夢も現実も一緒なのよっ!ハァハァ、ンンッ、ハァハァ。」
「そうなのか。」
バッ!
夢淫魔って不思議な生き物だな、と思っていたら突然飛び退いた。
動けるじゃん。
「ハァハァ、よ、よくもやってくれたわね!」
「いや、最初に来たのはそっちだろう。」
「うっ。そ、そんなことより!こうなったらワタシの本気を見せてあげるわ!」
どうなったらなんだろう?
使い古された謳い文句を高々と宣言して夢淫魔は眼に力を込め始めた。
「この程度でワタシを屈服させられると思ったら大間違いよ!夢淫魔はね!名前がバレなきゃ大丈夫なんだから!」
「そうなんだ。」
「ま、まあ、ちょっとだけ気持ち良かったから、ワタシの下僕にしてあげてもいいわ!あ、有り難く思いなさいっ!」
この子大丈夫だろうか。
自分で弱点を教えてるし。
しかも、さっきは夢だと思って妄想全開でやりたい放題していたのだが、アレが気に入ったとか性癖暴露してるし。
どうやらこの夢淫魔はおつむが弱いみたいだ。
「ふふふ、やっと落ち着いてきた。ここからが本番よ!」
「そうか。がんばれよイーリンちゃん。」
「ええ!!・・・・・・・・・え?」
「ところで本当の姿はどんななんだ?」
「・・・き、聞き間違いよね・・・うん。きっとそうよ。だって、そんな、あり得ないわ。ええ、そうよね、あり得るはずがないもの・・・」
「おーい!聞こえてるかー?」
「もう!聞こえてるわよ!ちょっと待ってよ!今整理してるんだから!」
「お、おう・・・。へーそんな姿なんだ。なんか悪魔っぽいな。」
「へ!?なんで解けてるの!?ええっ??!」
俺が声をかけると偽カレリーナの姿が水着姿で背中にコウモリのような羽をつけた痴女に変わった。
いや、嫌いじゃないよ?
むしろ拍手を送りたい。
どうもありがとう。
スリングショットと呼ばれるサイドが大胆に開いたピチピチの水着から、標準的な膨らみがこぼれ出している。
本物のカレリーナよりも大分盛られていた膨らみがするする萎んでいく様は物悲しさが満載だった。
艶のある若紫色の髪の隙間から羊のような巻き角が生えていた。
エロ素晴らしい格好の割りにあどけなさの残る可愛らしい顔立ちがイーリンの残念さと相まってついつい苛めたくなってしまう。
いや、俺の女神の姿を騙ったのだから苛められても仕方が無いはずだ。
「まあまあ落ち着きなよ。紅茶でも飲む?」
「うん!・・・じゃなくて!何でアナタはそんなに余裕なのよ!普通逆でしょ!!?」
「うーん、賢者モード?」
「何よそれ!?」
「まあまあ。はー、おいし。」
「ええっ!?どこから出したのよ!?」
「だってここ夢の中だし。夢見れば出てくるだろ。」
「何で夢魔のワタシよりも夢を使いこなしているのよ!」
「夢見がちだから?」
「何よそれー!もうヤダー!」
「イーリンちゃんは落ち着きが無いなぁ。」
「ああ!!また言ったー!な、何で!?何でよ!?何でワタシの名前を!?ま、まさか伝説の鑑定眼!?いやそんなはず・・・。いくら鑑定眼でもLv Maxでもない限り、偽装を見破れる筈がない。あんな暇人スキルをMaxまで極めるのなんて頭がおかしい人でしか無いもの。」
すごい好き勝手によく喋るなこいつ。
悪かったなLv Maxで。
しかし、鑑定眼って伝説とか言われてるのか?
まあ確かに神級、創世級のアイテムを複数鑑定しないとレベルなんて早々上がらないから、暇人スキルなんて言われても仕方がないけど。
俺は運が良かったな。
死闘ではなかったかな?




