192 ただの冒険者一行です
「申し訳ありません!少々お待ち頂けませんか!」
サルウェルの町の門で門番に声をかけられた。
だが、セラはそのまま進んでいった。
クロも無視して進んでいる。
いや、クロは止まれよ。
理解してるだろ。
「少々!少々お待ちをー!」
呼び止めてくる兵士さんが哀れだ。
「セラ。止まってくれ。」
「はい。マスターソーマ。」
「ブルルルー!フンッ!」
そう言ってセラはクロを止めた。
クロが偉そうにしている。
ソルの実はお預けだな。
俺の呟きに震え上がり、大人しくなった。
現金なやつである。
俺たちの馬車を呼び止めたのは周囲の門兵の中でも身なりのいい兵士というよりも騎士さんだった。
きっと隊長格なのだろう。
「失礼しました!ご所属をお願いします!」
どうやら変態馬車アークの見た目に騙されて、どこぞの貴族様でも乗っているのかと思って声をかけて来たのだろう。
周りが素通りしている中で、冒険者相手にわざわざ声をかけるなんて普通はない。
「大層な所属はないですよ。ただの
「ただの冒険者の一行ですわ!」
俺の声にかぶせてミリアが隊長さんに言った。
馬車でお留守番を頼んだ見返りに暫らくは俺にくっ付いて過ごすらしい。
嫌ではないんだけど、かなり恥ずかしい。
馬車に乗っている間はミリアはドレスアーマーを展開していない。
つまりは普段着と変わらないのだが、そうなるとミリアのマシュマロのような柔らかな感触が否が応にも直撃するのだ。
嫌ではないんだけどね。
嫌なんて言ったらこの世の終わりみたいな顔をするから嫌とは言えない。
俺が必死にマシュマロのことを頭から追い出している間に騎士さんの顔がみるみる内に驚きの顔に変わった。
「み、み、ミリアンヌ様!?」
「?そうですが、私をご存じですの?」
「はっ!以前、エルドウェルにてブライトン伯爵様にはお世話になっておりました!」
「あらそうですのね。」
「はっ!ブライトン伯爵様もご一緒でしょうか?」
「いいえ。違いますわ。私は今、こちらのソーマさんと冒険者として旅をしていますの。だからブライトン伯爵家とは関係ありませんわ。」
「はっ!・・・は?冒険者、ですか?」
「はい。ですから、特に何もないのでしたら、もう行ってもよろしいですか?」
「えっあ、はっ!大丈夫です。あ!宿の手配などさせて頂きましょうか?」
「いえ結構ですわ。自分たちでできますから。」
「で、ですが、ブライトン伯爵様ゆかりの方々をそのままお通しするのはこちらとしても誠意が疑われてしまいますので!すぐに領館に確認を取りますので!では!」
「あ!ちょっと!」
「行ってしまったな。」
「はい。申し訳ありませんわ。失敗してしまいました。はぁ。」
「失敗っていう程のことではないよ。宿を紹介してくれるのは有難いだろ。探す手間が省けたと思えばさ。」
「はあ。ですが、余計な手間をかけてしまいますわ。この町はサルウェル領の領都ですから、ヘイゼルロンド卿のお膝下ですし。」
「伯爵令嬢と言っても冒険者としてって伝えたんだし、領主様が態々対応することはないでしょ。」
「だといいのですが・・・。」
「まあ、なるようになるさ。」
少しして先ほどの騎士さんが戻ってきた。
この短い時間で町の中心に見える領館を往復したとは思えないのだが、馬を引いて戻ってきた。
「ご案内いたしますので後に続いてお越しください!」
ここで無視するのもあれだし、ついていってみようか。
「セラ、あの人ついて進んでくれ。あ、人や物に車をぶつけない様にね!」
「はい、マスターソーマ。」
クロの引く馬車アークはゆっくりと隊長さんの馬に続いてサルウェルの町に入っていった。
「へー。かなり賑わってるな。」
「やはり中心的な都市というだけあって人が多いですね。ソーマ様!」
イチのいう通り、大通りには多くの人や馬車が行き交っていた。
そんな中を町の騎士に先導されて進む、見た目がロイヤルな馬車アーク。
つまりめっちゃ目立つ。
めっちゃ見られている。
しかも中から顔を出しているのはお子様たちだ。
大通りを行き交う人々はひそひそとあれは何だと言っている。
高レベルになってきた影響でひそひそ声でも注意していたら聞き取れてしまう。
聞くまい聞くまいと思えば思う程に聞こえてしまう。
無我の境地にはほど遠い精神状態だ。
瞑想でもしようかな。
ゾーン!
俺が半ば投げやりに現実逃避をしている内に本日のお宿に到着したらしい。
どこぞの宮殿かと思うような宿に通されて、あっという間に部屋に案内された。
え、あれ?
チェックインとかしてませんけど?
というかフロントみたいな所が無かったですけど?
というかここどこ?
「おおー!すげー!金ピカだ!」
「すごい絵ですー!」
「なんやこの細工!細かっ!」
「ソーマ様。お茶が入りましたよ。」
「ソーマさん、立っていないで一緒に座りましょう。」
「・・・。」
「にゃあ。」
いつものように騒いでいるお子様たち。
いつものように寛いでいる二人。
いつも通りの二人。
立ち尽くす俺。
俺の心情を一言で表すなら、
「なんじゃこりゃーーーーー!!」




