177 そろそろ出発
そんな生活を続けていたある日。
「なあ兄貴。」
「どうした?ゼン。」
「いつまでここにいるんだ?」
「ん?」
「サーシャの翼を治すために旅に出たんだろ?」
「そうだけど。」
「なら早く行こうよ!南の方の迷宮なんだろ?よく分かんないけど、最近何もしてないしさ。」
「確かに。」
ゼンのいう通り、初めの頃は町の探索とか、城壁の探索とか、魔術書の写本とか、地下隠し通路の発見とか、カルポの町に戻ったりとか、魔術師部隊と勉強会したりとか、猫村に様子を見に戻ってみたりとかしたが、最近は書庫の本を読むくらいしかやることが無い。
というか、サヴァスの件が片付くまで居なければならないと思っていたが、特にそういった要請があった訳でもない。
もしかしてタダ飯を食らってたニートさんでしたか?
ヤバい。
それはヤバい。
なんかヤバい。
「と言うことで、そろそろここを出ようと思います。」
「そうですね。いつ発たれる予定ですの?」
「そうだなあ。まだ紹介状を貰ってないから、それをお願いしてからになるかな。」
「それならここにありますわよ。はいどうぞ。」
「え?」
伯爵様の都合が悪く挨拶することが出来なかったので、ミリアに出発することを伝えたら、既に紹介状を預かってくれていたようだ。
「書状に魔法印がされておりますので、ブライトン伯爵家が正式発行したものだと証明されますわ。」
「へえ。魔法印なんてあるんだ。」
「契約魔術の一種だそうですが、詳しい事は存じておりませんの。申し訳ないですわ。」
「あ、いや、感心しただけだから。気にしなくていいよ。」
「はい!」
「長いことお世話になってしまったね。」
「いいえ。私のことを救ってくださった英雄様ですもの。これくらい当然のことですわ。」
「それでも有り難かったからね。ありがとう。」
「いいえ。こちらこそですわ。ふふ。」
「じゃあそろそろ行くよ。」
「はい。」
別れを惜しむのも大概にしないといつまでも出発出来ない。
ここは心を鬼にするところだ。
変形しなければロイヤルな感じの馬車アークに乗り込み城塞都市エルドウェルを出発する。
「行くぞー!」
「おー!」
俺の掛け声にゼンが元気な声を上げる。
目指すは王国南部の大迷宮獣魔の窟だ。
「まずはどこに向かうんや?」
「南の街道に沿って行けば良いのでしょうか?」
「です?」
「ええ。エルドウェルから伸びる南街道は魔の森の外周に沿って敷かれていますので、道なりに進めば良いですわよ。」
「そうなんだ。」
「はい。そうですわ。」
「・・・。ミリア!?」
「はい?何でしょうか?」
「何でしょうかじゃ無いよ!何でいるの!?」
「はい?」
「兄ちゃん何言うとるん?」
「え?俺がおかしいの!?だってミリアは伯爵令嬢だよ!?冒険者にでもなる気なの!?」
「ソーマさんがなれと言うのであればなりますけど。」
「なるの!?じゃなくて!」
「ソーマ様?どうかしたのですか?そんな大きな声を出して。」
「ええ!?というか何でみんなはそんな普通なの!?」
「え?別にいつも通りやし。なあ?」
「うん。いつもミリアさんも一緒でしたよね?」
「いや、ここ最近はそうだけどさ!旅だよ?旅立ちだよ?もう暫くエルドウェルには戻れないかもしれないんだよ!?」
「私のことを置いて行かれるのですか?妻なのに!」
「妻じゃ無いよね!?」
「第三夫人(内定)ですわ。」
「(内定)って何!?」
「兄ちゃん。諦めなや。こうなったらミリアんはテコでも動かんで。」
「いやでもこれ俺が誘拐したみたいになってない!?何も言わずに出てきたよね!?」
「大丈夫ですわ。ちゃんと書置きしてきましたから。『ソーマさんと一緒に行きますわね。ミリア』と。」
「簡素すぎるでしょ!せめて直接伝えないと、」
「良いのです。泣き言を言われるだけですので。」
「えー。」
「もしソーマさんが私のことを置いて行かれるのでしたら私、死ぬ覚悟ですわ。」
「・・・!」
「ソーマさん。お願いします。私をお側に置いて下さい。」
「・・・!!」
「私の身も心も全てはソーマさんのものですわ。」
「・・・!!!身も心も?」
「好きにして頂いて構いませんわ。」
「・・・!!!!好きに?」
「ええ。お好きに///」
「・・・!!!!」
「これでも自信がありますのよ///」
「・・・!!!!!」
「でも初めてですので、優しくして頂けると嬉しいですわ///」
「・・・!!!!!!はじっ!?」
「うふふ///」
「!!!!!!!!!!」
「きっと戦力になれますわ!」
「!!!!!!!!!!!・・・戦力?」
「はい、そうですわ。これでも槍術を習っておりましたので、それなりには動けるはずですわ。でも、実際に魔物と戦ったりしたことはありませんので、フォローはお願いできないでしょうか。」
「あ、ああ。そういうことね。それはいいよ。うんうん。そうだよね。」
「ありがとうございます。」
「う、うん。」
「・・・。何を想像されたのですか?」
「!!!!!いや、。、!」
「うふふ。」
「・・・参ったなぁ。はぁ。」
「(ソーマさんならそちらも構いませんわよ?)」
「え・・・!?」
「うふふ///」
ミリアに押し切られ、根負けした。
決してあんなことは想像していない。
いないったらいない。
熱意に負けたのだ。
色気には負けていない、はずだ。たぶん。少しは。
年は同じはずなのに、からかわれる俺。
かっこわる。
◇
ドタドタドタドタッ!!
「ヘレーネっ!!ヘレーネっ!!」
「あなた。騒々しいですわよ。」
「ヘレーネっ!!ミリアがっ!ミリアがぁ!!」
「あら?」
書き置きをチラリと見る。
「あらあら。流石は私の子ねぇ。行動力があるわぁ。」
「ヘレーネっ!そっそんな感心している場合か!」
「娘が家を出ただけではありませんか。そのように慌てるほどのことでも無いでしょう。誘拐された訳でもありませんし。」
「いやしかしな!私は認めてはおらんぞ!書き置き一つで出ていくなど!」
「面と向かったらあなたが泣き出すからでしょうに。これでもあの子なりに気を使ったのでしょう。」
「お、お前はそれでいいのか?かわいいミリアが危険な目に合うかもしれないのだぞ!?」
「それがあの子の選んだ道でしょう。ミリアちゃんは強くて賢い子よ。それにソーマさんも付いているのでしょうし。彼ならよくしてくれるわ。」
「いやだが。」
「しかしもかかしもありません。あの子の人生です。あの子の好きなようにさせてあげましょうよ。それを見守るのが親の努めというものです。」
「う、ウム・・・。」
「お姉様、出ていってしまわれたの?」
「あらアネッサちゃん。まだ起きていたの?」
「ドタドタと騒がしかったので起きてしまいましたの。」
「あら。あなた。」
「う、ウム。すまん。」
「もう。アネッサちゃん。ミリアちゃんはね、恋に生きることにしたのよ。」
「恋・・・?お姉様が?」
「そうよ。」
「男なんて、って言ってたお姉様が・・・。どんな方でしたの?」
「そうね。面白い子だったわね。あまり強そうではないのだけれど、サヴァスにも手加減をしていたようでしたわね。」
「ウム。出来るだけ傷つけないように一撃で仕留めておったしな。」
「冒険者として強さは必要なものなのでしょうけれど、それだけではなくてお仲間のことも一人一人しっかりと見ているのが印象的だったわね。」
「ふーん。」
「でも自分の価値がよく分かっていない感じだったわね。そこが少し心配なところね。」
「価値?」
「ええ。あの子、魔法文字が読めるそうよ。」
「え?うそ。魔法文字の解読は中央でも長年続けられてきたけれど、下級魔術すらまだ未解読なのよ?」
「あら。アネッサちゃん。よく勉強しているわね。えらいわぁ。」
「も、もう。やめてよ。」
「うふふ。でも本当みたいよ。治療部の魔術師さんがソーマさんの作ったという魔術を教えてもらって狂喜乱舞していたわ。」
「でもそれって・・・。」
「そうね。中央の魔術師協会が知ったら、誘拐されちゃうかもしれないわね。あそこの方々は少し周りを顧みないところがあるから。」
「お姉様。大丈夫かしら。」
「ミリアちゃんなら上手くやるわよ。だってミリアちゃんだもの。」
「確かにね。」
「いやいやミリアはまだ子供だぞ。」
「はいはい。あなたはもう少し娘離れをしましょうね。」
「いやだがな。」
「はいはい。」
「・・・ライナス様にもお伝えしておこうかしら。」




