170 ミリアンヌ・ブライトン
俺はどこまで気が動転していたのか。
あんな巨大な土蜘蛛に接近を許し、一撃を受けてしまうとは。
重傷だ。
マントが。
装備のおかげかレベル差のおかげかは分からないがマントが裂けている以外は無傷だ。
肌触りのいいミンクシープのウールで作られたマントが土蜘蛛に切り裂かれてしまった。
ブラッドタイガーの毛も織り込んでいるから普通のウールよりも防御力は高いはずだが、レベル24の土蜘蛛の爪には耐えられなかったらしい。
マントは見た目と肌触りで選んだから仕方がないのだが、次はもう少し強い素材にしよう。
ミンクシープのウールは高かったのになぁ。
下に着ていた下位地竜の軽鎧と革の服はいい仕事をしたようだ。
チルダに頼んで集めていた下位地竜の鱗と革でバージョンアップした防具は中々いい感じだ。
攻撃を受けることがほとんどなかったから、実戦での性能が分かる機会はあまりない。
痛いのやだし。
もし受けきれなかったらと考えると迂闊には実験できないのだ。
その代わり、人形に着せての試験はやっている。
だが、なまじこちらの攻撃力が高いために、耐えきれる防具が作れないのだ。
未だにイチの一撃を受け止めきれる盾も作れていない。
今のところはシールド魔法を重ね掛けすれば耐えきれることが分かっているが、展開が遅れれば素材の力で耐える必要がある。
素材も大事という事だ。
ちょっと余計なことを考えて頭を冷やす。
しっかりと土蜘蛛が他にはいないことを確認する。
これどうしよう。
放置していくのも問題なので、回収しかないが。
後で口止めすればいいか。
考えるのがそろそろ面倒になってきたので投げやり気味にばらした土蜘蛛をストレージリングに格納する。
土蜘蛛の血で汚れているので土魔法で埋めておく。
放置すると臭いからね。
その後、ストレージリングから出した毛布に包まり、話をしながら夜を明かす。
彼女の名前はミリアンヌ・ブライトン。
愛称はミリア。
これから向かう王国の城塞都市を治めるブライトン伯爵家の三女だった。
なんだか領主の娘との縁があるな、俺。
近隣の村に視察に行った帰りに拐われたようだ。
拐われてからまだ何日も経っていないと言うことだが、よく分からないそうだ。
それも仕方が無いだろう。
いきなり拐われてしっかりと把握している方が難しい。
今これだけ話が出来ているだけでも十分すごいことだ。
自己紹介の後は他愛の無い話をした。
というか俺が話をして、ミリアが質問をするという感じだった。
西の魔の森にいる木の枝に擬態する魔物の話とか、魔猫は日向ぼっこが好きだとか、成長すると名前が変わる蛇がいるとか。
魔物の話ばっかりだとは思ったが、興味深そうに聞かれるので調子に乗ってしまった。
それ以外にもトリスタで話題になった食べ物やファッションなんかの話もした。
最近のトリスタではニセわらび餅が人気だ。
もちろんイチ経由でレシピの提供をしたのは俺だ。
わらび粉なんて無いから、片栗粉に近い素材を使ってわらび餅風の餅を作った。
この辺りは実は砂糖が手に入りやすい地域で、甘味が貴族だけの楽しみでは無かったのだ。
どうやら王国の北の地域では、てんさいが栽培されていて砂糖の産地となっているようなのだ。
安かったら買い溜めしておきたいな。
そんな訳で他にも色々とレシピを流して食事事情の向上を図ってみたりした。
そのうち昆布も売り出そうかな。
俺が話をしているとミリアはうつらうつらと船を漕ぎだし気が付くとすーすーを小さな寝息をたてていた。
今はただ休ませてあげよう。
怖かっただろうしな。
俺はひとり呟いて、焚き火に薪を放り込んで、見張りを続けた。
【検索】でもして時間を潰そう。




