156 隠れ家の宝玉
道具の説明を一通り終えて、一息つく。
カレリーナはまだ情報の整理が追いつかないのか、難しい顔をしている。
真剣な表情で俺が出した道具と設計図を睨んでいる。
キリリとした瞳が深い思慮を感じさせ、これらの価値と生み出される利益を猛スピードで計算しているのが分かる。
「ソーマ様。このような物は頂けません。」
カレリーナは、毅然とした態度できっぱりと言った。
まあそうだろうなぁ。
「このような発明を私は見たことがありません。東西の大国に行っても無いでしょう。魔法を使わず、水を得られるこの発明は莫大な利益を生むでしょう。そんなものをおいそれと頂くわけにはまいりません。」
「でも、お金が必要でしょう?」
俺が意地の悪いことを言うと、キッとカレリーナは睨みつけてきた。
「見損なわないで下さい。確かにお金は必要ですが、これでもこの町を束ねる領主の一族です。誇りがあります。こんな大金、黙って受け取れるはずがありません。・・・私がお嫁さんになれば別かも・・・。」
「ん?」
「何でもありませんわ!」
最後が小声でよく聞き取れなかったが、カレリーナらしい強い意志が感じ取れた。
まあ頑固とも言うかもしれないが、凛々しく強い彼女にはちょうどいいのかもしれない。
「それでソーマ様は一体どんなお願いを持って来られたのですか?」
「お見通しかぁ。」
「うふふ。ソーマ様がただ見せびらかす為にこのような物を持ってこられるとは思いませんから。」
「俺って分かりやすい?」
「そうかもしれませんね。」
「むむ。考えものだなぁ。まあいいや。カレリーナの言う通りちょっとしたお願いがあってね。これから少し時間貰えないかな?」
「・・・それはここでは無い何処かへ、と言うことでしょうか?」
「ああそうだよ。」
「私もご一緒しても宜しいでしょうか?」
「ひゃあ!じ、じぃ!突然出て来ないでよ!驚いたじゃない!」
「ホッホッホ。これは誠に申し訳ありません。」
「もう。ごめんなさい。ソーマ様、驚かせてしまって。」
「いや、大丈夫だよ。」
「ホッホッホ。ソーマ殿は私めが居ることにお気づきのようでしたな。」
「ええ!?そうなのですか?」
「ええまあ。キャロさんの影で気配を断ってましたね。見えているのに意識から消えそうになるとかすごい技術ですね。」
「ホッホッホ。これでも昔は狩人でしたからな。狩りの腕には自信がありますぞ。」
「あら?そうだったの?初めて聞いたわ。」
「ホッホッホ。昔の話ですからな。」
ただの狩人の気配遮断技術ではないと思うのだが。
俺の場合、【鑑定眼】と【検索】をスキルレベルアップのために常に使い続けるようにしているから気づけたのだ。
シロやゼンならいざ知らず、俺の索敵では見つけられなかっただろう。
スキル欄にも【気配遮断・極】がある。
"極"ってなんだ?初めて見るぞ。
「同行の話ならいいですよ。」
「よろしいですかな?」
「はい。ただし。」
「ただし?」
「ただし、これからの事は非常にデリケートな内容になるので他言は無用でお願いします。」
「それは旦那様を含めて、でしょうか?」
「いえ、トリアスト様なら大丈夫です。ただあまり多くの方には知らせないで頂きたいというだけです。」
「分かりましたわ。他の者には伝えないでおきますわね。じいもキャロもいいわね?」
「承りました。」
「はい。」
ちょっと変な言い回しになったが、大丈夫だよね?
デリケートといえばデリケートだし。
大混乱になるかもって話だし。
アルバートさんがカレリーナと外出することを屋敷の人間に伝えるのを待ってから町に出る。
向かうのは英雄館だ。
「この先ですか?」
「そうだよ。」
「何があったかしら?」
「職人街の方ですな。お店に向かわれるのですかな?」
「違いますよ。」
「違う?では・・・。」
「その他ですと、確か英雄所縁の館が有名でしたな。後は民家があった程度だと記憶しておりますぞ。」
「英雄所縁の館??」
「幽霊屋敷、という方が有名ですかな?」
「ああ!あの得体のしれないボロ屋敷!」
「これ!キャロ!もう少し綺麗な言葉を使いなさい。」
「は、はひっ!」
「うふふ。それでソーマ様。どちらに向かっているのですか?」
「そのボロ屋敷だよ。」
「え?ですが入れないという噂だったはずですが。」
「普通は入れないよ。普通ならね。」
「もしかして・・・。」
「お察しの通り、入れるんだよ。」
「!そ、それはすごい発見ですぞ!あれはこれ迄幾多の挑戦者達を跳ね除けてきた難攻不落の要塞のような場所。それが攻略されたとあれば!」
「じ、じい!?落ち着きなさい!」
「・・・はっ!これは申し訳ありません。取り乱してしまいました。」
「じいが興奮するなんて珍しいわね。」
「ホッホッホ。若いころは何度もあの謎に挑んだものですぞ。毎回気を失って放り出されてしまっておりましたが。」
かなりアクティブでいらっしゃるようで。
「ソーマ様がその謎を解き明かした、という事ですわね。素晴らしいわ!」
カレリーナに褒められてにやにやしてしまうのを何とか抑え込みながら、英雄館に辿り着いた。
英雄館のトラップはグループに入っている者には働かないようになっている。
そのため、この3人をグループに入れておく。
「おや?」
「?じい、どうかしたの?」
「いえ・・・。ソーマ殿、何かされましたかな?」
まだ何も言っていないのに気づいちゃったよこの人。
相当感覚の鋭い人らしい。
「グループに入れました。」
「グループ?どういうことですか?」
「英雄館に付随するスキル、ですかね。」
「はあ。」
よく分かっていない3人にグループ化スキルについて説明する。
ついでにこの英雄館が地下にも続いていることも伝える。
ついでにその地下と猫村(旧避難所)が繋がっていることを伝える。
ついでにこれから職人街の店舗とも繋ぎたいことを伝える。
色々とまとめて伝えたおかげで3人は若干放心状態だ。
キャロさんは完全に放心状態だったが。
いつまでも外にいてもあれなので、中へ案内する。
「3名様ご案内ー!」
「ニャー!」
「猫!?」
「まあまお気になさらず。」
「気になりますよ!?」
「まあまあ。こっちだよ。」
俺はガンガン中へ案内する。
入り口にいたのはもちろん魔猫だ。
全員にお揃いの青いスカーフを贈ったので、身体のどこかしらにスカーフを着けている。
首に巻いたり、足に巻いたり、頭に巻いたり猫それぞれだ。
忍猫には頭に着けるように指示しておいた。
忍者感が増した。
うむうむ。
満足だ。
グループメンバーのみに開く壁に偽装された扉をくぐり、地下室へ。
そこからサクセスルーム<弐>へ移動する。
英雄館の地下にはサクセスルーム<弐>と繋がるトビラがある。
トビラはサクセスルーム弐が張り巡らされている場所の周囲に作ることができる簡易の転移魔法だ。
空間と空間を繋いでワープできる優れ物だ。
ドアの先は他にも複数のドアがある部屋に繋がっている。
転移と違って自分でトビラを通過するため、ワープした感が無いのが残念だ。
ちなみにサクセスルーム<弐>の方のトビラにはレバーが付いていて、接続のオンオフが出来るようになっている。
何かあった時はオフすればただの枠になる、という寸法だ。
このトビラのセットは他に3セット残されていた。
かなり複雑なコードが刻まれた魔法道具で、まだ解析が出来ていないから量産は難しい。
ひとつは既に猫村に設置している。
行ったり来たりが非常に楽になった。
もうひとつを店に設置する予定だ。
あとひとつは予備だな。
「ここが館の地下・・・。広い・・・。」
「猫がいっぱい・・・。」
「ほうほう。この白いのはゴーレムですかな?」
まずはサクセスルーム<弐>を案内している。
かなり広く、試練の部屋の奥にもいくつもの部屋があった。
その中の一つにコントロールルームが存在していた。
このサクセスルーム<弐>の空間魔法を制御発動している大きな宝玉が設置された部屋で、この宝玉を制御するためにはグループリーダーである必要がある。
つまり制御できるのは俺だけ、という事になる。
制御できるのは、サクセスルーム<弐>の中の部屋を増やしたり、形を変えたり、ルーム内限定のトビラを作ったりだ。
外に出せるトビラとは別でサクセスルーム<弐>の中ならいくつでも作ることが出来る。
このサクセスルーム<弐>は限定的な迷宮のような場所で、俺がダンジョンマスターってところだ。
魔物を生んだり、アイテムを生成したり、細かな細工をしたりといったことは出来ない。
試練の間に設置されていた罠は全て後から追加したものらしい。
どれだけ暇だったんだろうか。
そこのところを英雄さんには聞いてみたいね。
乙。
リソースは龍脈からのおこぼれを頂戴しているので、殆ど無限だ。
ただし、あまりに大量に消費してしまうと環境にどんな影響があるか分からないので、大規模な変更は加えない方が賢明だろう。
少し部屋数を増やすぐらいなら問題ないだろうけど。
なので早速作業場を作った。
換気がやばいかと思ったが宝玉の空間魔法でどうとでもなった。
まじで万能である。
名前:隠れ家の宝玉
種類:宝玉
等級:創世級
品質:最極上
属性:空間
説明:空間魔法が秘められた宝玉。
逃げたい、隠れたい、秘密にしたい、そんな思いが込められた引き篭もりの為のルーム作成装置。
人は怖くないよ。がんばれ。




