155 贈り物
「商談、ですか?」
「そうで「ムッ。」そうだよ。」
店を始めるにあたってカレリーナに相談に来た。
突然の訪問にもかかわらず、アポなしで面会に応じてくれた。
領主としての仕事も一部やっているらしいので、忙しいだろうに時間を割いてもらって嬉しい限りだ。
敬語で話そうとすると途端に機嫌が悪くなってしまうのは、そういうことですか?
違いますか?
どうなんですか?
いいんですか?
でもやっぱりダメなんですか?
どうしたらいいんですか?
俺はヘタレですか?
・
・
・
思考の沼に取り込まれそうになる前に何とか引き返し、目の前にいるカレリーナに目を向ける。
うわ。
めっちゃかわいい。
艶やかな金髪を軽くアップに結い上げて、白い肌がこれでもかと目に飛び込んでくる。
オレンジのドレスを身に纏い、大胆に開いた胸元には美しい細工の施されたブローチが煌めいていた。
全体的に明るい雰囲気にまとめられた衣装は彼女の魅力を何倍にも膨らませていた。
ああ、包まれたい。
何にとは言わない。
はっ!
いかんいかん。
また脱線してしまった。
カレリーナも俺が突然黙り込んだから小首を傾げている。
やばい。
めっちゃかわいい。
「ええっと、あー、そうそう。お店をね、出したいと思っているんだ。」
「お店ですか?それなら場所をご用意しましょうか?」
「あ、いや、場所はもうあるんだよ。職人街なんだけど、ガンツさんの工房を改装して使おうと考えてるんだ。」
「そうなのですね。でしたら、開業の手続きが必要ですね。すぐに用意しますね!」
「いやちょっと待ってちょっと待って。気が早いよ。」
「え、あ、そ、そうですよね。あはは。」
カレリーナは少しせっかちなところがあるな。
それもまたかわいいけど。
「それで、うちで扱おうと考えているものをいくつか買いませんか、っていう商談なんだ。」
「なるほど・・・。」
カレリーナの顔がが少し曇り、言い難そうに二の句をついだ。
「ソーマ様からのお話なので是非とも検討したいのは山々なのですが、先の遠征の影響で町の貯蓄はギリギリで・・・。回せそうなお金がないのです。ですから・・・。」
かなりトリスタの町は切羽詰まった状態のようだ。
陣地に残された物資は返却したけど、失われたものもを多いだろうし、人が動けばお金も動く。
救援に向かった冒険者への報酬もあっただろうし、そもそも町の補修のための資材や資金を集める為に遠征を計画したのだろうし。
それが失敗に終わってしまったら、苦しくなるのは当然と言えば当然だ。
「という訳でこれ贈り物です。」
「え?」
俺はチルダに作って貰ったポンプと蒸留装置の見本と設計図をストレージリングから取り出した。
もう隠してもしようがないし、隠したくなかったから色々オープンにしていく。
驚いた顔をしたカレリーナもかわいく、いつまでも眺めていたくなってしまうが、ここは気を引き締めて説明をする。
持って来た二つは魔石や魔力を必要としない道具だ。
ポンプは昔懐かしの手押しポンプ。
蒸留装置は金属製の容器にガラス管を繋げたものを用意した。
実際には大型のものを作るべきなので、仕組みが分かるだけのシンプルなものにしておいた。
この辺りはあまり水が豊かではない。
この町の地下からは真水が汲めて生活用水としては問題ないが、量はそれほど多くない。
他の地域、特に小国地域も同様だが、地下水といえば真水よりも塩水の方が多いのがこの辺り一帯の常識だ。
少ない真水の地下水と川の水でやり繰りしている。
それが原因で戦争が起きたりしている地域もあったりする。
今回俺が用意した蒸留装置はこれまでの常識を覆す代物だ。
元の世界では水の淡水化といえば、蒸留かろ過の二通りがあり、特に蒸留技術はかなり古くからあったらしい。
一方でこの世界には水を得る手段としては魔術がある。
いや、魔術しかない、が正しい。
科学的な観点はほとんど育たず、大抵のことを魔術視点でしか考えていないのがこの世界の常となっていた。
生活魔法に「ウォータ」という魔法がある。
単純に水を作り出す魔法だ。
あまり知られてはいないが、この魔法は周囲から水分を集めて凝集させる魔法だ。
凝集とは言ったがまあ集めているだけで特別なことはしていない。
コップ1一杯くらいの水を得るには十分な便利魔法だ。
だが、欠点がある。
この魔法は量が得られないのだ。
多くの水を得るのに必要な魔力が指数的に増えていくのだ。
単純な話だが、周囲から水を集めているので周囲に水が無くなればより広範囲から集める必要がある。
ならば水がある近くで使えばいいじゃないかという話になるが、水があるならウォータの魔法を使う意味はない。
もう一つ欠点があるのだが、塩水を用意してその近くでウォータの魔法を使うと作られる水は塩水になってしまうのだ。
周囲から集めるだけで塩分も一緒に集めてしまうのだ。
もちろん水を集める魔法なので塩分濃度は下がるが、飲料水の代わりにするにはちょっと塩っ辛い。
塩分を取り除く魔法も作られているし、たぶん一番効率がいいのは俺が作った清掃魔法の改造版だとは思う。
一応コードは考えてはいるが、そうなると専用の魔法道具になってしまい、非常に高価なものになってしまう。
その点単純な仕組みの蒸留装置なら、必要なのは薪か火を起こす魔法道具だけだ。
燃料は必要だが既にある程度普及している道具だけで作ることができる利点は大きい。
魔法道具はその次だ。




