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おニューの包丁で料理を作ってみよう。

「おう、出来たぞぃ」

 と、ドワーフの鍛冶屋がそれを持って来たのは、午後の魔法訓練が終わってすぐの事だ。因みに俺は相変わらずウンともスンとも魔法が使えねえ。

「え?もう出来たのか?まだ数時間しか経ってねえぞ!?」

「何言うとる。コレでも時間が掛かった方じゃ。普通の包丁なら一時間も掛からんわい」

 マジで!?ドワーフ鍛冶師ってのはすげぇな!

「とは言え初めての技術で作った物じゃ。注文通りに出来ているかはワシには分からん。じゃから何か不都合があったら持ってこい。調整してやる」

 そう言って差し出された包丁を有難く頂く。早速包丁を眺めてみると、ほぼイメージした通りの形だ。ただ、気持ち注文した物よりもやや厚みがあり、予想より少し重い。

「うむ……まぁ十分だろ。後は実際に使ってみてからだな」

 俺はドワーフのオッサンに礼を言うと、早速とばかりに厨房へ向かう。

 普段ならもう仕込みが始まっているらしい時間だが、今日の晩飯は最初から俺が作る事になっている。どうやら料理長は昨日の俺の手際を見て、気に入ってくれたようだ。

 と、言うよりも異世界の料理を他にも見てみたい、っていう好奇心の方が大きいだろうが。

 作る物はもう決まっている。昨日パッと見たら材料が揃っていたし、『アレ』なら大人数分を作るのに向いているし、何より日本人でも外国人、と言うか異世界人でも食べやすいだろう。

それに仕込みで大量に野菜を処理するから包丁の慣らしとしては最適だろう。 


 先ずは手始めに大なべに水を入れる。マキティネスに頼み、早速浄水の魔法を掛けてもらう。それを沸騰させている間に野菜の下ごしらえにかかる。

 白菜に似た葉物野菜が大量にあったので、それを使わせてもらう。黄色っぽい芯の部分だけを切り取り、適当な大きさにカットする、勿論この時に使うのは下ろし立てのニュー包丁だ。

「まぁ……持ち手がナイフのグリップみたいになってやがるから少し使いにくいんだけどな」

 しかし、切れ味と使い心地は中々だ。昨日の料理ナイフよりは遥かに使いやすい。

 俺は上機嫌で野菜の仕込みを続ける。人参っぽい野菜と昨日のタマネギモドキ。人参ぽいのはヘタを取り皮を剥く。あ、皮とか言っているが、実はこれは皮では無い。人参の皮は実は大変薄く、泥を落とす時に洗う段階で殆ど皮は向けてしまっている。皮だと思って居るのは実は単に乾燥して硬くなっただけの実の部分だ。

 などと言ううんちくを思い出しつつ、人参ぽいのは乱切りに、タマネギモドキはざく切りにする。この人参ぽいのには葉が付いていたので、それは後で使う事にする。

 他には見た目マッシュルームっぽいキノコ(香りはシメジに近かった)を石突を落として適当な大きさにスライスする。

「うんうん、昨日のナイフとは違って中々の切れ味だぜ。作業が中々はかどるぜ」

 今回は最初から砦の連中全員の分を作っているので、当然一人では追いつかないので、他の料理人やマキティネスも野菜の下ごしらえを手伝っている。

 しかし、包丁が違うせいか、やはり俺の下ごしらえの方が大分スムーズに進んでいる。

「す、すごい手際ですね……もう殆ど野菜が切り終えているじゃないですか……」

「あ?これ位出来ねえぇでプロとか言えるか。この位は普通だ普通」

 俺の動きに目を丸くしているマキティネスに答えながらも手は動かし続ける。まぁ、こういう仕込みは追い回し(仕事覚えたての新人)時代に散々やったからな。なんかもう、意識しなくても殆どオートで体が動くぜ。

「しかし、予想通りと言うか言葉通りというか……マキティネスの手際は酷ぇな……」

「うっ…………」

 俺が仕込んでいる間に、マキティネスがカットした物は数個程度で、切った物がつながっているのは基本で、人参は皮を剥くと言うよりもえぐられているので鉛筆みたいになってるし、タマネギモドキは殆ど四分の一カットサイズだ。しかも外皮を剥いていない。

「つうか何だよその握り方は?お前さん剣とか散々使っている癖によ。それじゃその内にテメエの指とか吹っ飛ばすぞ?」

「し、仕方ないじゃないですか!料理なんてするのは生まれて初めてですし、料理用ナイフなんて持ったのも初めてですから!!」

 憮然とした様子のマキティネスに、俺はため息を吐きながら、彼女がぶった切った野菜の残骸を指差す。

「クラウスがアンタに料理を教えろ、つったのは案外本気だったのかもな。食える所が殆どねえじゃねえか。騎士ってのは野営とかで自炊すんだろ?そんなので料理作られたら、そりゃぁたまった物じゃねえなぁ」

「ぐぬぅ…………」

 流石に自覚があったのか、唸るような声を上げただけで押し黙っている。やれやれ、こりゃぁ俺が剣術と魔法覚えるの以上に手間が掛かりそうだな。

 取り敢えず話しながらも予定していた分の野菜は切り終えたので、次の工程に進むか。

 切り分けた野菜のクズや皮などを集めて篭の様な物に入れる。マキティネスが切った物は正直使い道がないので、先程取っておいた人参みたいな物の葉と白菜モドキの芯と一緒に入れる。

 その篭を沸騰した大鍋に入れる。こんな風にクズ野菜を篭に入れて煮てやると後で取り出す時に楽だ。この大鍋には別の料理人に裁いてもらった鶏のガラが入れられている。

 要するにこれは出汁だ。野菜クズや葉っぱなんかは食べにくいが、味が無い訳じゃない。なのでこんな風に出汁にしてやると結構うま味が出るんだぜ。

 出汁が出るまでに他の仕込みをする。捌いてもらっておいた鶏肉(俺が知っている物よりも大きい)を一口サイズにカットする。

 うむ、野菜の方では問題なく切れていたが、肉の方もまずまずの切れ味だ。向うの世界の俺の包丁には流石に負けるが、初めて作ったにしては上出来と言えるだろう。

やっぱすげえな、ドワーフってのは!ただまぁ、握り手だけは後で付け替えてもらおう、うん。特に万能型の船行包丁は色々な握り方をするから、やっぱグリップ型は使いにくい。

鶏肉を切り終えたら鉄鍋に、切り分けた時に出た鶏の脂肪を入れ、油を出す。油が出たら鶏肉を炒める。味付けに軽く塩と胡椒……をしたかったが、無かった。やっぱ中世ヨーロッパ風の世界観なので高価なものなのだろう。

仕方ないので昨日見たハーブの粉を入れる。俺の知っている鶏よりも肉の色が濃いので、臭みは少し強いだろうから、匂い消しは必須の筈だ。

ある程度鶏に火が入ったら切った野菜を入れて一緒に炒める。ここで完全に火が入っていなくても良い。後で煮込むからな。野菜全体に油が回りかるく焼き目が付く程度に炒めたら、先程から煮込んで置いた鍋の様子を見る。

アクはマキティネスに取っておいてもらった。ただアクを摂るだけなのに悪戦苦闘していてちょっと笑ってしまったのは内緒だ。

いい感じに出汁が出ていたのでクズ野菜を入れた篭とガラを取り出す。そこに先程炒めた鶏と野菜を入れて煮込む。

その間に別の仕込みだ。先程の鉄鍋に今度はバターを溶かし込み、小麦粉を炒める。これも向うの世界の様に綺麗に精白された物では無く、やや褐色かかっている。正直色に直結するのだが、まぁ仕方ない。この世界では贅沢は言えないだろう。

小麦粉を炒めたらそこに動物の乳を投入。味見してみたが、恐らく牛乳で間違いないだろう。

「ち、乳と小麦粉!?テツ様……それは一体!?」

 アク取りが終わり火の番だけになったマキティネスが、鉄鍋の中を見て目を剥く。

「ホワイトソースを作ってんだが……こっちには無いのか?」

「ホワイトソース……?乳でソースを作ると言うのは聞いた事がありません……」

 成る程、聞いた事がない、と言う事はこの世界は大体十六世紀以前の、それもヨーロッパ地域がモデルになっているのだろう。ホワイトソース、フランスで言う所のベシャメルソースが出来るのが一七世紀頃だ。

イギリスの方では紀元前から牛の乳を料理に使っていたと聞くから、見た事が無いと言うなら、俺の予想通りヨーロッパがモデルだろう。

「とは言っても、かなり歴史観はゴチャゴチャだけどな……ナイフとフォークがあるしよ」

 この世界に来てから見た感じ、中世ヨーロッパがモデルになっている事には間違いないだろう。が、実際に文明程度は近世に近い感じがあるし、習慣の中にはどう見ても古代ローマ時代的な物まで見受けられる。

 ナイフとフォークの登場は近世に入ってからの筈だが既にあるし、昨日の様子を見るに、中世の手掴みで食べる風習にも抵抗ない様子だから、結構歴史考証的には曖昧だな。

「最も、本当にガッツリ中世の風習が適応されていたら、俺は生きていく自信はねえけどな」

 正直その頃のヨーロッパはかなり不衛生だ。ウ○コはその辺に垂れ流しだし、匙を使う以外はほぼ手掴みで料理を食うし、風呂に入る習慣も廃れて長い。

 おっと、食い物作っている時に汚い話はやめておこう。萎えちまうからな。

 さて、大鍋が良い感じに煮えているので、ここで味見をしておく。うん、中々良い出汁が出ている。向うの世界風にコンソメから作るのも良いのだが、こういう風に鶏ガラと野菜で出汁を取る方が軽いし、日本人好みの味になるので俺はコッチの方が好きだ。

 出来上がったホワイトソースを大鍋に溶かしいれる。この大鍋に入れる分量なので結構な量があり、一人では持ちきれないので別の料理人に手伝ってもらい入れる。

「うわぁ…………白い……本当に料理に乳を使うとは……匂いも思いっきり乳ですし……」

 見る間に真っ白に染まっていく大鍋に、マキティネスは複雑な顔をする。彼女だけでなく他の料理人達もゲテモノを見る様な目で大鍋を眺めている。この世界の奴ら的にはかなりショッキングな絵面らしい。

「クカカッ、初めて見たらそうなるかもな。だが食ってみたら中々ハマると思うぜ」

 仕上げにチーズを少し、削り入れながらマキティネスに片目を瞑って見せる。

「……テツ様がそう言うのなら……しかし、これは中々見た目的に食べるのには勇気が……」

 昨日の料理で多少の信頼は勝ち得たようだが、それでも不審そうな顔だ。まぁこれ以上は何言っても仕方ないし、後は実際に食ってもらうしかねえな。

「再び加熱してトロミが出るまでかき回して……と。仕上げに塩と胡椒……がねえからこのピリッとするハーブを入れて味を絞めて……完成だ!」

 名付けて「異世界風特製チキンクリームシチュー」だっ!

 ……まんまだな。だがまぁ他に呼びようがねえ程、普通にクリームシチューだ。ただ、日本風に軟水で仕込んだから、出汁が汁に溶け出していてタクト達には馴染みの味に仕上がっているのは間違いねえぜ。


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