作ったら食べてみよう。
例によって長すぎたので分割掲載しましたm(_ _)m
配膳は他の料理人達に任せて、俺とマキティネスは食堂の方へ移動する。ここ一週間で指定席になった感じがする何時もの場所に行くと、既にタクト達と四騎士――今は三騎士――が席に着いていた。
「今日も晩御飯もテツが作ったの?」
俺が席に着くと、ライムがそう聞いてくる。
「ああ。何か料理長に気にいられてな。この砦に居る間は晩飯のメニューは俺が決めて作って良いと言われたから、作る事にした」
「ふーん……でももう向うのお金ないわよ?」
「要らねえよ。今回は依頼受けてねえからな。自分が食いたい物を作るだけだから、賄いみたいなモンだと思えばいい」
「そ。じゃあ有難くご馳走になるわ。昨日のも美味しかったから今日も期待していいんでしょ?」
「おう、期待していてくれ」
味見した限りでは割といい出来だったからな。しかし、俺に付いてきて席に座ったマキティネスの方は心持ちドンヨリとした雰囲気だった。
「何かあったのかい、マキティネス?」
「……いえ、別に……ただ少し見てはいけない物を見ただけです……」
クラウスに答えるマキティネスの目が死んでいる。てか、クリームシチューはそこまでの物なのか!?オートミールのポリッジ(燕麦粥)はこの時代にもあったからそこまで拒絶する程じゃ……あ、ミルクで煮る様になるのは近代からか……
虚ろな様子のマキティネスに三人が不審そうな顔をしている間に、料理人達がシチューを運んでくる。……うわ、奴等の目も死んでいるな……
「こ、これは……」
「何と…………」
「…………やはりこういう反応しますよね……」
「……マジっスか?」
目の前に並べられた皿の中にある白い料理を見て、一様に絶句するクラウス達。周りの兵士達も同じように絶句している。
セットでパンも付けられているが、皆一様にシチューに釘付けとなり、騒めいていた食堂が一気にシーンとなる。
ハッハッハ!まるでお通夜にでもなった見てぇだな!!って昨日の料理でお前等俺の腕信頼したんじゃなかったの?
しかし、そんなお通夜状態を他所に、はしゃぐ子供が三人。
「うわっ!タックン!これクリームシチューだよ!凄い凄い!しかもかなり本格的だよ!」
流石クリームシチューが好物のミントの食いつきが良い。
「ほ、本当だね……しかも具沢山だ……この匂いがたまらないね……」
タクトもミントに頷いている。
「おっほ!昨日に続いて向うの料理だわ!こういうのが食べたかったのよ!」
ライムは今にも飛びつかんばかりに料理を眺めている。
「それじゃ早速……っと!い、いただきます!!」
速攻で手を伸ばしかけたライムが、俺の手がユラリと動いたのを見て、慌て手を合わせて言う。続けてタクトとライムも、
「「いただきます!」」
と同じく手を合わせて言う。うむうむ。忘れずに言ったな。大分教育出来てきたようだな。
三人とも匙を片手にシチューを一掬いし、パクリ。暫く固まり――
「「「ん~~~~~~っ!」」」
蕩ける様な笑顔で匙を加えたまま唸る。よしよし、気に入って貰えた様だな。しかし、匙を咥えたままと言うのは少々行儀が悪いな。後で躾けるか……
「凄いわ、これ!向うで食べてたのと比べてもかなり美味しいんじゃない!?」
「そうだね。シチューの味が凄い。野菜の旨味が利いてるし、何よりこの鶏がたまらないね!」
「この鶏さん、向うのよりも味が濃いみたい。その分クセも強そうだけど、丁寧に臭みを抜かれているから香がいいし。お野菜も、味が濃いみたい。その分アクも強そうだけど、コレも丁寧にアク抜きされているみたい。牛乳……かな?これも向うのよりも濃い感じがする。これだけ主張の強い具材でここまで優しい味に仕上げるなんて、本当に凄いよ」
三人とも実に旨そうにシチューを食べている。何気にミントの分析が半端ねえな。コッチの食材の味の濃さは俺も気づいていた所だ。アクを抜きつつ、くどくなり過ぎない様に調整するのには密かに苦心した部分だ。
「ふあっ……このシチューにパンを付けながら食べると、断然美味しいわ!」
気が付けばライムがくすんだ色のパンを千切ってシチューと一緒に食べている。
「本当だ……何時ものボソボソしたパンもこうやって食べると中々イケるね!」
タクトも真似してパンにシチューを付けながら頬張る。
「もう、二人とも行儀悪いよ!またテツさんに怒られても知らないから。でも美味しそう……」
ミントが二人をたしなめるが、若干羨ましそうだ。彼女はちゃんとしたマナーを教わっているのか、こういう食べ方には抵抗があるようだな。だが……
「別に構わねえよ。と言うかやっちまいな」
と、俺はミントに親指を立てて見せる。
「スープやシチューにパンを付けて食べるのはマナー違反、ってのは割と最近に出来たモンだ。中世ではパンを汁物に漬けて食べるのは普通だったんだぜ。ここのもそうだが、昔のパンは今の見たくイースト菌発酵じゃねえからな。パサパサで食べ難いからむしろ推奨の食べ方だぜ」
実際、昨日俺がスープにパンを浸しながら食べても誰も文句言わなかったしな。俺の言葉にミントは「それじゃ……」と小さくパンを千切ってシチューに浸してパクリ。
「わ、本当に美味しい……こういう食べ方も良いね……フフッ、何かいけない事している感じがしちゃうけど」
まぁ、マナーなんてのはその時代や国で違う物だからな。無条件に固執する事は無い。だが、いただきますとご馳走様はどの時代でも、異世界でも必須だ。そこは譲らないぜ。
と、三人の物凄い食いぶり――僅か数分で完食しそうな勢いだ――に、お通夜状態だった四騎士達も、ゴクリと喉を鳴らす。見た目に引いていたがタクト達に釣られて再起動したようだ。
「で、では我らもいただくとしましょうか」
とクラウスが号令(?)したのを皮切りに、食堂のほぼ全員が、
「「「「「イタダキーマ!」」」」」
と大合唱をした。
……って、なんかの呪文みてえになってるんだが……お前等それ気に入ったのか?
号令した手前なのか、先ず真っ先にクラウスが匙を手にしてシチューを一掬いする。
一瞬躊躇した後、恐る恐ると言った体で匙を口に入れる。
「これはっ……!?何と甘い……しかしくどい甘さでは無く自然な甘さだ……」
初めて口にするであろうクリームシチューの味に、驚きの声をあげる。
「確かに……これは野菜と乳の甘さでしょうか……しかし塩気もちゃんとある。そこにバターとチーズの香り、そして乳と鶏の香り……この香の組み合わせは見事ですな」
クラウスに続いてディネストもシチューを口にし、唸る様に言う。
「この色合いに驚きもしましたが、これは何とも美味ですな。このトロリとした感じがまた何とも言えませんな……」
「そうですね……乳をシチューに入れるなんて、と最初は思いましたがこの優しい味わいは癖になりそうです。そして全てが溶けだした汁が、自然に体に入ってくる感じ……これが、軟水という物を使った効果なのでしょうか……だとしたら水が違うだけでここまでになるとは……」
ディネストの言葉を受けて、マキティネスが感動した様子で言う。彼女は料理を手伝った事もあって工程を知っているだけに、深い所にまで目が行くようだ。
「理屈なんてどうでも良いっス!旨けりゃいいんスよ、旨けりゃ!」
と、カンダルフがまるで流し込む様にシチューをかき込みながら言う。しかし、俺は見てたぞ。お前、他の三人が食うまでチャッカリ観察してやがったよな!なのに一番食が進んでやがるのはどういう事だ?
「ま、ともかく今回も異世界組の口には合ったようだな」
見れば砦の連中もお通夜状態から一転、それぞれ一心不乱にシチューをかき込み「旨い旨い」と口々に言っている。
腕に自信があるとは言え、やはりここは異世界でこいつ等は異世界の住人だからな。味覚も多少俺達と違うかもしれないと、どうしても思っちまうからな。実際に「旨い」の言葉を聞くまではどうしても気になってしまう。これで、俺も心置きなく自分の飯が食えるぜ。
俺が皆の態度にニヤニヤしながら、自分の分を食べようとしていると、
「しかし、テツさんは和食の料理人なのに洋食もイケるんですね。てっきり和食っぽいのが出て来るかと思って居たら、こんなおいしいシチューが出て来るとは思いませんでした。向うでも含めてこんなに美味しいのは初めて食べましたよ」
既にシチューを空にしたタクトが言って来る。その言葉に俺は思わず苦笑する。
「ま、基本さえ押さえりゃ和食も洋食もそんなに差は無い。それにな、和食を作りたくても醤油も味噌もカツオも昆布もねえココじゃ流石に無理だ。魚醤で誤魔化すのも限度があるしな」
「ああ、言われてみればその通りですね。一度テツさんが作る和食も食べてみたかったんですけど……残念です。でも、代わりにこんなに美味しいシチューが食べれたから満足です」
「おう、そいつは嬉しい事を言ってくれるじゃねえか。あ、シチューは大鍋にタンマリと作っておいたから、まだまだお代わりが……」
「是非お願いします!」
と俺の言葉の途中で皿を突き出してくる。すげえ食いつきだな、オイ。
「いや、俺に言うなよ。厨房の方へ……」
「何、お代わりがあるの!?じゃあアタシもオネ!」
「いや、だから俺はこれから食う所で……」
「すみません、テツさん。私も……」
「だからな、それは俺じゃなくて厨房の……」
「何と、今日もお代わりがあるのですか!?では私にも!」
「私もお願いしましょうかな」
「御願いします」
「勿論オイラもお代わりっス!」
「だから何でお前等も俺に言うんだよ!俺にも飯食わせろよ!!」
と、皆に抗議したのだが、飢えた子供達プラス肉体労働者である騎士様連中に詰め寄られ、結局俺はこの日も飯食うのが一時間以上遅れる事になった。
付け加えるなら、やはり俺の分は弾丸チーターの腹の中に納まっていた。チクショウめ!




