だってプロですから 4 後始末編
ちょっと難産で更新が遅れましたm(_ _)m
結局俺が飯にありつけたのはそれから一時間は経ってからだった。とは言えそれで直ぐに食えたわけじゃねえ。席に戻ってみれば、俺の分はとうに食われていたからな。
「だって冷めたら勿体ないじゃん」
と、満足そうに腹をさすりながらライムがいう。お前、俺の分を入れたら都合三人分食った事になるんだがよ。乳が無いくせに大食らいなヤツだ。
「お前のせいで俺は残り物のスープとパンだけの食事になっちまったじゃねえか」
肝心の干物は全てこいつ等と砦の奴らの腹に収まっちまってたから作りたくても作れん。
「アハハ、ゴメンゴメン。でも流石にプロと言うだけの事はあるわ。まさかこの世界の食べ物だけで向うの味に近い物が食べれるとは思わなかったもの」
「……ちったぁ満足したか?」
俺が固いパンをスープに浸しながら(行儀が悪いが勘弁してくれ)ライムに言うと、
「も、満足も満足。満足過ぎて口から戻ってきそうだわ」
「……そりゃ食い過ぎだ」
「いやぁ、美味しかったわ!ご馳走様でした!」
と、手を合わせて言ってきた。
「そうか……旨かったか」
ようやく言いやがったか。チラリとタクトとミントを見やると、二人も頷いて、
「うん、美味しかったです。もう一度テリヤキ味が口に出来るとは思いませんでした」
「私も……すごく美味しかったです」
そうか、そうか、三人とも旨かったか……言質は取ったぜ、クケケケケッ
「我々もご相伴に預かりありがとうございました」
と、クラウスが言うとディネストも頷きながら、
「見た事の無い料理でしたが、確かに美味でしたな。テツ様がこれ程料理巧者とは……」
勇者様とは何かしらの才にたけているのですな、といつもはムスッとした顔に笑顔を浮かべている。マキティとカンダルフも、
「珍しいだけでなく様々な工夫がなされた素晴らしい料理でした」
「いやぁ、剣技と魔法はアレっスけど、料理は最高だったっスよ!」
と、満足そうに言って来る。しかし一言多いぞカンダルフ。だがまぁ、異世界組にもこう言われると悪い気もしない。俺は煽てに弱いからな。
ま、皆満足したと言うなら、やるべき事をやらせてもらいましょうかね。
「なぁ、ライム」
「うん?」
「お前って向うの金とか持ってるか?」
「お金……?日本の……?うん、有るよ。コッチに飛ばされた時にカバンとかは無くなってたけど、身に着けていた服とか財布とかはそのままだったから……」
そうかあるのか。なら……と、俺はライムに向って手を突き出した。
「……………………………何?」
「何じゃねえよ。金だよ金。お代をまだもらってねえ」
「は…………はぁ!?何よそれ!?何で私がお金を払わなきゃなんないのよ!?」
「あのなぁ。『プロとして』料理を作り直せと俺に言ったのはお前だろうが。そしてお前は『旨かった』『満足した』と俺に言ったよな?つまり俺は『プロとして客の注文を全うした』って事だよな。ならお前は『注文の対価』として金を払う責任があるってこった」
「ちょ、なにそれ!?セコくない!?」
「セコくねえよ。どこの世界にタダで仕事を受けるプロがいるんだよ。注文を受け、客を満足させ、金をもらう。そこまで行って初めて『プロの仕事』って言うもんだ。金をもらわなかったら、それはプロの仕事じゃねえ。ただの素人の、趣味の領域だ」
すました顔で俺が言うと、ライムは顔を歪めて「ぬ……ぐぅ……」と唸る。
「ライム、残念だけど君の負けだと思う。テツさんの言う事は筋が通ってると思うよ」
「私もそう思う。プロとして、って言っちゃったのはライムちゃんだもんね」
タクトとミントに言われて、流石に分が悪いと思ったのか、ライムは渋々と、
「分かったわよ、払うわよ!でも日本円なんて殆ど無いわよ?第一コッチじゃ使い道が……」
「別にそこはどうでも良い。お前が払いたいだけ払えばそれで構わねえよ」
「はぁ!?」
「元々他人が作った料理の食いかけ、値段付けるのもバカバカしい。しかしプロとしてはお代をいただかなきゃならねえ。ただそれだけだからな」
そう、これはただのケジメと言う問題でしかない。向うの金なんざ今更もらったって意味は無いが、それでも板前として、初めて日本人相手に作った料理で御足(代金)をもらうなら、やはり日本の金をもらわねばならない。そういう、ただの俺の拘りってだけの話だ。
「ハァ…………面倒くさいヤツね、アンタって」
俺もそう思わなくもないが、ほっとけや。
「ま、でもそういうのも嫌いじゃないわ、アタシ」
苦笑じみた笑みを浮かべ、ライムはツイッと空中に手を伸ばすと、掌を上に向けて「お財布お財布」と呟く。
何をしているんだ、と見ていると、ライムの手の上にはいつの間にか、色気の欠片も無い黒っぽいがま口が現れていた。年頃の娘としてその財布はどうなんだよ?って……
「ちょっと待て!何だそれ!今突然現れなかったかそのがま口!?」
俺が驚愕しているとライムはキョトンとした顔をして首をかしげている。
「何だって……マイストレージから取り出しただけジャン」
事も無げに言うが、何だそりゃ!?それも魔法なのか?
「何驚いてんのよ。異空間に持ち物を預けられるテクニックじゃん。テツも使えるでしょが」
「いや、使えねえから!なんだ、それ……テクニック?手品かなんかか!?
俺が目を見開いていると、クラウスが横から御丁寧に説明してくれた。
「ライム様が使ったのは、本来は異空間に疑似的な保管庫を作ると言う高等魔法です。しかし勇者様達は異世界から次元を超えて来た……つまり、貴方達の存在自体が空間に歪をもたらしているのです。ですのでその空間の歪を認識できさえすれば、マーナ―の流れを意識するだけで、魔法を使わずともその歪を個人的なストレージとして利用できるのです」
と、イケメン騎士様は言うが、正直サッパリ意味が分からん!あれ、でもと言う事は……
「え?じゃあ何か、俺もそれ使えるって事か?」
「はい。テツ様も異世界の勇者なのですから、使える筈です」
え、マジか!?持ち物を異空間に預けて取り出しが可能って訳?すげえ便利じゃん!
「あれ、でも俺ストレージとやらの説明って受けた記憶が無いんだけど……」
「そりゃそうッス。テツ様はまだ何一つ魔法を覚えてないっスからね。マーナの使い方が分からん人に教えても意味無いっスから。先ずは初歩でも良いんで魔法を覚えてからっスよ」
物事には順序があるんス、とカンダルフが言う。くそう、これが元々の勇者と入れ替わりの差かよ……つくづくタクト達のチートっぷりが身に染みるぜ……
「ま、テツが料理以外ヘボい事は分かったから、取り敢えずお金払うわ。アタシの全財産で」
ライムが付きだしたままだった俺の掌に、がま口を開き逆さまにすると中身をぶちまける。
「ヘボってテメエ……って、ショボッ!お前の全財産ってこんだけかよ!!」
俺の掌に乗っていたのは全部小銭で五十円玉一枚と十円玉が一枚と一円玉が八枚。いや、いくら食いかけの作り直しでも俺の料理が六八円だと?引くわーーーーーーーっ
「しょ、しょうがないでしょ!お小遣いもらう前だったんだから!」
ライムが耳まで真っ赤にして怒鳴って来る。いや、まぁそもそも高校生のガキだから大して当てにしてなかったんだが、これは幾らなんでもなぁ。と、俺がトホホな顔をしていると、
「僕も、自動販売機で使う分しか持って居なかったんですが」
「わ、私も……少ないですけど」
と、タクトとミントが俺の掌にそれぞれ金を載せる。本当はこいつ等からもらう気は無かったが――ま、流石に二桁の支払いはねえよな、うん。有難くお前等からも御足はもらっておこう。やっぱ二人共小銭しかなかったけどよ。ま、高校のガキならこんな物か、とも思う。
「それでは我々も……」
と、四騎士を代表してクラウスが(こっちは普通に懐から)取り出した布製の財布に手を入れる。が、俺はそれを開いている方の手で押し止める。
「お前等はいい」
「しかし、勇者様達はお払いになっているのに、我らが払わぬと言うのは……」
「お前等、日本の……俺達の世界の金なんて持ってねえだろ?」
「それは……まぁ……」
「持ってねえならお呼びじゃねえよ。ま、今回はタクト達の奢りって事にしとけや」
「……そうですか……今一つ意味が分かりませんが……お言葉に従いましょう」
と、なんとなく釈然としない様子ではあるものの、クラウスが手をひっこめたのを見届けた俺は掌の小銭を懐にしまう。
お代を頂いたとあれば、やるこたぁ後一つだけだ。
「大鳥様、並びに前崎様、森野様。本日は名指しでのご注文、ありがとうございました。まだまだ修行中の身ではありますが、一本立ちの機会を頂き恐縮でございます。とは言え、手前の腕ではまだまだ親方や兄さんに追いつけておらぬ未熟者です。手前の至らなさを痛感しておりますが、そんな手前の料理でもお楽しみ頂けたのなら幸いです。これからも精進を重ねていきますので、なにとぞ、これからもご贔屓の程、よろしくお願いいたします」
俺は居住いを正してライム達にそういうと、深々と頭を下げる。例えここが異世界であっても、例え作った物が日本料理からは外れた不細工な物で有っても、例え本来ならその資格が無かったとしても、『俺の花板としての初客』となった相手だ。礼を尽さにゃぁ料理人の名が廃る。
そんな俺の一世一代の晴れ舞台の口上に、ライムとタクトとミントはポカンとした顔をしていたが――
「プッ……何それ!本当、テツって面倒臭い人だわ!!」
ライムが愉快そうに笑いだし、
「テツさんのそういう所、僕結構好きになりましたよ」
「私も、嫌いじゃありません」
とタクトとミントも笑みを浮かべ、四騎士達はそれぞれ苦笑を浮かべていたが、結局は何も言わずに俺とタクト達を愉快そうに見ていた。




