だってプロですから 3 実食編
長かったので分割してみましたm(_ _)m
俺の言葉に、先ず真っ先にライムが干物バーガーに手を出す。暫し手に取り匂いを確かめた後、大きく息を吐いて、目を瞑ってガブリと噛みつく。
……本気で信用してねえのな、コイツ。ライムの中での俺の信用度がどの程度かわかったぜ。
ライムは暫くモゴモゴと咀嚼した後飲み込み――クワッと目を見開き、己が齧ったバーガーと俺の顔を何度か見比べる。何か、とても不思議な物を見た、そんな顔だった。
「……その態度は何だよ?」
俺が半眼で睨むが、ライムは無言のまま再びバーガーに齧り付く。そしてまた咀嚼。
「……醤油だ……」
「いや、醤油じゃねえよ。流石にこの世界にはねえ」
「醤油……テリヤキ……テリヤキバーガーの味!」
「いや、だからな、それは魚醤で、テリヤキに似てるが……って聞いちゃいねえ……」
ライムは俺の言葉を無視してガフガフとバーガーを口一杯に詰め込んでいやがる。……こう言っちゃ何だが、お前、一応女の子なんだからその食べ方はどうなんだ?男前すぎるだろ。
ライムの様子に我慢できなくなったのか、タクトとミントもパンッと手を合わせ、
「「いただきます!」」
見事に声を合わせて言うと、干物バーガーに齧りついた。
「ほ、本当だ……テリヤキだ……しかも魚なのに生臭くない……」
「凄い……ちょっと香りが違うけど……醤油の味……」
二人もガバガバとバーガーに齧りついている。まぁ、こんだけ醤油の味から離れていたんだから、気持ちは分からなくもない。久しぶりに味わえば日本人としてはたまらないだろうよ。……醤油じゃないけど。
などと俺が考えていると、「「「「パンッ」」」」と言う音が四個、そして、
「「「「い、イターダキマ!」」」」
と言う異口同音の声が4人分聞こえた。いや、まぁ……別にお前達にまでそれをやれと言った覚えは無いんだけどよ……まぁいいか。礼儀正しくはあるしな、うん。
さて、取り敢えずタクト達の舌には馴染みある様に作ったから、元々心配してなかったんだが、四騎士の方は異世界人だからな。果たして合うかどうか――
「こ、これは……馴染みのない……いや、ある?初めてだが初めてじゃない……」
と、クラウス。まぁ、魚醤がある位だから馴染みはあるだろうよ。だがこれは日本人向けアレンジだからな。やはり珍しい味なんだろう。
「これがさっきの干物……?生臭さが無い……しかも柔らかい……」
と、これはディネストの呟き。それは一度蒸したおかげだ。似た技法では関東風のウナギのかば焼きがある。アレも蒸す事で油と生臭さを落とし、適度な水分を入れる事で柔らかくなる。そして焼く事で香ばしい香りもプラスしているからな。
「パンで食べ物を挟むなんて……それにこのパンはさっきのと同じ筈……でも柔らかいし噛み切りやすい……何で?」
この声はマキティ……もとい、マキティネスか。やはりこの世界じゃパンで挟む食べ方は珍しかったんだな。
しかしパンの柔らかさに気が付くとは中々嬉しいね。実はパンも魚や野菜パテを蒸すのと同じく軽く蒸したんだ。そしてその後表面に軽く切れ込みを入れ、炙っておいた。こうする事で多少硬いパンも柔らかくまた噛み切りやすく食べやすくなるんだ。
蒸し過ぎるとベトベトになるから加減が難しいけどな。後、向うの俺の包丁ならもう少し細かく隠し包丁を入れられたんだが、ここのナイフじゃこれが限界。そこが少し不満ではある。
……カンダルフは何もねえのか?と思ったら、無言でモリモリ食ってたよ。まぁ気に入ったのなら良いんだけどよ。
それ以降は四騎士もほぼ無言で干物バーガーに食らいついている。中々好評のようだ。
「しかし、お前等………旨いのかマズいのかの感想はねえのかよ?」
結局そこの所の意見は出てこねえじゃねえか。ま、この見事な食いっぷりを見れば、少なくともマズいって事は無いようだな。
俺も食うか、と元の席に着くが――
「フングッ!?」
慌てて食って喉を詰まらせたのかライムが胸をドンドンと叩き出した。
「……ちったぁ落ち着いて食え。ほれ、スープもあるからそれを飲め」
仕方なく俺は存在が忘れられているスープを指差す。その存在を思い出したライムは、ガッと皿ごと落ち揚げ、縁に口を付けて直接「ズズズッ」と啜りやがった。
……何でコイツは一々男前な食い方なんだろうね……後で少しマナーを躾てやらにゃあ。
「こ、これも……覚えのある味……ク○―ルのカップスープに似た味!」
身も蓋も無いネタ晴らしありがとよ。まぁ確かに意識して味を寄せたんだが……本人の前で仮にも手作りスープとインスタントスープを同列にするたぁ、中々良い度胸していやがる。
「ほ、本当だ……どうやったらあのトン汁がこれに……?」
「わぁ……ちゃんとスープに野菜の味が溶け込んでる……あのスープは殆ど出汁みたいなの出てなかったのに……」
ライムに続いてタクトとミントもスープに手を付けたようだ。こっちはちゃんと匙で掬って食べてるな。しかし、ミントは本当に良い舌を持って居る様だな。実は三人の中で一番グルメなのかも知れねえな。このオッパ……ゴホゴホッ!この嬢ちゃんに料理作る時は気を付けよう。
「この砦の……と言うか多分この国の水は全て硬水だ。だから普通にやったら中々味が溶けださないからな。だから具の野菜を潰して出汁が出やすくしただけだ」
ネタをばらせば、これがこの世界の料理が俺やタクト達の口に合わなかった最大の理由であり、俺が敢えて「不味い」とは言わなかった理由だ。
「硬水……?あのミネラルウォーターってヤツですか?」
「ちょっと違うよタックン。硬水は水に含まれるミネラルとカルシュウム分が一定以上ある物の事を言うんだよ。だからミネラルウォーターが全部硬水な訳じゃないよ」
お、中々詳しいじゃねえか。やはりミントは食い物の知識が少しはあるようだな。タクトとライムは良く分かって無いみてえだから少しフォローしてやっか。
「その通り。水にはミネラルとカルシウムが多い硬水と、それらが少ない軟水の二種類があんだよ。日本の水は水道水も含めてほぼ軟水だ。軟水の特徴は素材の味を水に溶かし出しやすい所にある。ヨーロッパは……多分この世界もそうだと思うが、大部分の国が硬水なんだよ。特徴は素材の味を中に閉じ込める、と言う所だ」
この硬水と軟水の違いはかなり大きく、そもそもの料理の組み立てに影響している。つまり硬水はその水が多い西洋料理の作り方に向き、軟水は日本料理の様な作り方に向いている。
「要するにカルシウムやミネラルが多い硬水には細胞の表面を補強する性質があるんだよ。だから肉や野菜の旨味を閉じ込めたままアクだけを取り出す料理に向いているんだ。しかし軟水にはそういう効果が無いから肉や野菜の味が汁に溶けたり、逆に入り込んだりするって事だ」
よく海外で日本料理を食べたり、逆に日本で海外の料理を食べた時に、微妙に味が違う事があるが、その原因の一つにはこの水の違いがある。結構馬鹿に出来ないんだぜ。
だから俺は今回、軟水に慣れたタクト達に合わせて、予め素材の味を汁に溶かし込んだ、という訳だ。野菜パテを入れたのは単純に「勿体ないから」だ。こうすれば食えるんだからな。
と、俺がドヤ顔で解説する間にもタクト達は元より、四騎士も物凄い勢いで食べ続けている。……くそう、コイツ等全く聞いちゃいねえな……折角料理人っぽく解説してやったのに……
そうこうしている間に、ライムが料理を全て食べ尽し、「ふぅ」と満足そうに息を吐く。中々良い喰いっぷりだな。これなら文句は出ねえだろうな。
「どうだ、旨かっ……」
「お代わり!」
たろうが、と俺が言う前に俺に向かって皿を突き出す。って、おい!?
「ねえよ!これはさっきのお前らの食い残しで……」
「あ、僕もお代わりお願いします」
「……じゃぁ私も」
タクトとミントも俺に向かって皿を突き出す。いや、だからお代わりなんて作ってねえよ!
「なら私もお願いします」
「是非とも」
「御願いします」
「お代わりっス」
こ、コイツ等……旨いか不味いかの感想も言わねぇで……俺はまだ食ってねえんだぞ!
「ハァ……分かった分かった!板長……じゃねえ料理長に材料残ってるか聞いてくるよ!残ってたら作ってやるから!」
渋々と皿を受け取り立ち上がる。ま、お代わりを要求するって事は、少なくともマズくはねえって事だし、いいか。
と、ふと周囲を見ると、
「「「「「わ、我々にもそのバーガーとやらを……!」」」」」」
うおっ!何か知らねえ間に他の席で飯を食っていた筈の砦の兵士達が食いかけの料理片手にズラリと並んでやがったよ!
「ちょ、いやいやいや!それは流石に不味いだろう!」
だってお前らコレ、料理長が作った料理を全否定かましたのと同じだろうよ!何普通に俺に作り直しさせようとしてんだよ!
俺も料理人の端くれだ、そうそう他人の料理を作り替える様な真似はしたくねえぞ!?今回は俺達の口に合わせただけで、お前等にはこの料理は元々口に合ってんだろうが!
「そこを何とか!」
「是非に!是非に!!」
「我らにも未知の味を!!」
と口々に喚きだす。さ、流石にこれは収集が付かねえぞ!?
「ああもう……分かったよ!料理長に作り直していいか聞いてみてやるよ!その代わりダメっつったら諦めろよ!」
俺がそういうと、兵士達は嬉しそうに頷く。ま、こうは言ったが、さっきの料理長の頑固そうな態度から見て、自分の料理を作り直される事を良しとはしねえだろう。
普通は認めねえしな。取り敢えず『頼んだけどダメだった』と言う既成事実を作ればいい、と俺はゾロゾロと兵士を引き連れ(だってこんな数の料理持てないもんよ)て調理場に向かい、
「料理長……大変言いにくいんだが…………」
中に居る料理長に声を掛けたが、途中で言葉につまる。
そこには真新しい材料を俺が借りた調理台に乗せてニコニコとして俺を待って居た料理長と、出来立て、或いは作りかけの料理をそれぞれ手にした料理人達がズラリと並んでいた。
「……お前等もかよ…………」
俺らにとっては馴染みの料理でも、この世界の住人にとっては珍しい料理だったと言う事をすっかり失念してたぜ……
見た事のない料理を作れる奴が目の前に居る。そして材料はココにある物。となれば、作り方をじっくり見て研究したくなっちゃうよな……プロの料理人だもの……
「ああもう……わーたよ!作るよ!作り方も教えるよ!だけど一人でこの人数分を作り直すのは無理だからな!ちゃんと手伝えよお前等!!」
殆どヤケっぱちで言う俺に「おおう!」と元気よく答える料理人共。作り方も教えられると知ってドイツもコイツもご機嫌だな、おい!ハァ……俺の飯はいつになるやら。




