13、少女と
「あ!お姉ちゃんだ!」
咲が建物の中に入ると、弟の牟田の声が建物中に響き渡った。
すると、牟田の声を皮切りに周りに居た大人達が一斉に咲の方を見た。
「咲!!」
「お母さん」
母親は咲に駆け寄ると、咲をしっかり抱きしめた。
その表情からも、咲は自分がいかに母親を心配させていたのか理解した。
「咲が居ないから、お母さん達みんな心配したのよ!牟田に聞いたらまだ葬儀場に居たなんて言うじゃない?もう本当に心配で心配で」
咲の不在に気付いた母親は、すぐに葬儀屋に連絡を入れた。
しかし、その時には既に咲は一人で街を放浪していた為に見つけられず、もうすぐで警察に連絡をするところだったらしい。
「ごめんなさい」
咲は無表情のまま、しかしハッキリとした声で謝ると、母親の隣から今度は笑顔で父親が咲の顔を覗き込んで来た。
「いや、もとはといえばお父さんとお母さんが悪いんだよ。咲、ごめんな。一人で寂しかったろ?」
母親に抱きしめられながら、咲は近づいて来た父親を見た。
「寂しかったけど寂しくなかった」
「なんだそりゃ」
咲の言葉に父親は不思議そうな顔をする。
咲は元来、どこか不思議なところを持つ子供であったが、やはりそれは現状でも遺憾なく発揮された。
「ところで咲?あなたどうやってここまで来たの?」
やっと母親は咲を抱きしめる手を緩めて咲に問いかけてきた。
「(バイクで)走って来た」
「走った?!よくここの場所がわかったわね!」
「優しいお兄さん達が教えてくれた」
「そうなの……。でも本当によかったわ」
そう言うと母親は再度、咲を強く抱きしめた。
「(あったかい)」
咲が安心して目蓋を閉じると、突然牟田が咲に話しかけてきた。
「お姉ちゃん」
「なに?牟田」
「なんでお姉ちゃん、おばあちゃんの写真おんぶしてるの?」
牟田は不思議そうな顔で咲の背中を指差す。
「……………」
咲がどう説明しようか悩んでいると父親が笑顔で咲の頭を撫でてきた。
その瞬間、その姿が団地とかぶった。
「まぁ、説明しにくいならまた後で教えてくれ?な?咲。」
「うん」
「それに今日、咲は一人で頑張ったみたいだから、葬式が一段落したらお父さんがお店で咲の好きな物を作ってあげるよ?」
「一人じゃなかった」
「あぁ、そうか。優しいお兄さん達と一緒だったんだよね」
「うん。だからお兄さん達にも何か作って」
「うーん、困ったなぁ。それ、どこのお兄さん達かわかるかい?」
「……わかんない」
そこで咲は、自分が彼らの事を何も知らないまま別れてしまった事に気付いた。
「それじゃあお兄さん達を捜すのはちょっと難しいなぁ」
「…………」
「でもまた咲がそのお兄さん達に会ったら、その時はお兄さん達をお店に連れておいで?その時、お兄さん達にはお父さんが何か作ってあげるから、ね?」
「ほんと?」
咲はじっと父親を見つめる。
「あぁ。だからまずは咲にご褒美。いつか暇な時……うん明後日からお店は開けるから、学校が終わったらお店においで?」
そう言われ咲は大きく頷いた。
するとそれを聞いた牟田が不満の声で叫んだ。
「お姉ちゃんだけズルい!僕は?!」
「今回はご褒美だからな?牟田は我慢だ」
そう言って父親は笑顔で牟田の頭を撫でてやる。
「ヤダ!僕も食べたい!」
「がまん、がまん」
「むー!」
目の前で繰り広げられる家族のいつもの姿に、咲は安心してだんだん眠くなってきた。
「あら?咲、眠いの?」
「う…ん」
母親の暖かさも助け、咲はゆっくり目蓋を閉じた。
するとゆっくり頭を撫でられた。
多分母親だろう。
しかし、やっぱり思い浮かぶのは今日出会ったあの優しい人達。
「(また……会いたいな)」
今日出会った彼らを思いながら、咲は意識を手放した。
こうして咲と不良達の未知との遭遇は幕を閉じた。




