11、少女と不良6
「何やってんだお前ら」
咲がひたすらいぐさに頭を乱暴に撫でられていると、背後から突然声がかけられた。
その声はやはり低くてどこか落ち着いており、咲の耳に心地よく響いた。
「あ!団地ー!オレ団地の事チョー大好きだぞー!」
「は?!」
「そして団地もオレの事チョー好きなわけだな!」
「何言ってんだ、お前」
いきなりの事に怪訝そうな顔をする団地にお構いなく、いぐさはひたすら笑っている。
先程までの咲の会話の事をそのまま、何の脈絡もなく叫ぶいぐさに咲は、少しだけ気恥かしい気持ちになった。
「……ったく、相変わらず意味わかんねぇな」
けれど、そうどこか呆れたように言う団地の表情に、咲はやはり先程自分の言った言葉が間違っていない事を確信した。
呆れたようでありながら、団地の言葉はいぐさの“意味のわからなさ”を受け入れて楽しんでいるのだ。
しかし、そんな小さな団地の感情の機微にいぐさは気付くはずもなかった。
「あははは!まぁいいじゃん!ねー!こども!」
「……うん」
咲は静かに頷くと、団地は更に訳がわからんと言った風に溜息をついた。
「ところでさー、火葬場どこだった?!」
かそうば、という言葉に咲はハッと団地を見上げる。
そう言えば、いぐさとの会話で忘れかけていたが団地は咲の家族がいるであろう“火葬場”の場所を探してくれていたのだ。
「場所はわかった。今からでも行けるぜ」
「かそうばに行けるの?」
「あぁ、今すぐな」
団地は微かに笑いながら咲を見下ろした。
その団地の自信に満ちた言葉に咲は心がふわりと浮上するのを感じた。
「よかったねー!もうすぐ家族と会えんじゃん!」
「うん」
咲は頭をコクンと大きく頷かせた。
「場所もわかったし、行くか」
「団地がソッセンして行動しよーとしてる!チョーレア!写メりたい!」
「ケータイ割るぞテメェ」
団地は軽くいぐさをあしらうと、バイクにかかっていたヘルメットを咲の頭に被せた。
大きめのヘルメットを被せられた咲は頭の重さヨロヨロとなってしまう。
それはどう見てもヘルメットをかぶっているというより、ヘルメットにかぶされていると言った方が正しかった。
「あはは!バイクから転げ落ちそー!あたまから!」
「洒落にならんこと言うな」
団地はヨロヨロとなる咲を見て、あり得る……と眉間にシワを寄せた。
そんな団地に咲はぐっと重い頭を上げて団地の目を見つめながら、必死に口を開いた。
「落ちない、大丈夫。絶対」
そんな、無表情の癖に余りにも必死な様子が伝わってきて団地はフッと微笑んだ。
団地が微笑むと咲の心はさらにふわりと浮く。
ふわふわする、その感覚を咲はなんと言ったらいいのかわからなかった。
けれど、とても良い気分である事は確かだった。
「絶対落ちんなよ?」
「うん」
咲は団地を見上げながらしっかりと頷いた。
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「(……すごいすごいすごいすごい……すごい)」
駆け抜けるように過ぎ去っていく風景に咲は内心大興奮だった。
激しいバイク音で周りの音は何も聞こえないが、それが更にスピード感を高め物凄く気持ちが良い。
そして咲の後ろからは、いぐさもバイクでついて来ている。
いぐさのバイクは、それはもういぐさらしく真っ赤であった。
あの後、「オレも絶対ついていく!!」と言い出して聞かなかったいぐさは、またしても緑髪の男をパシりバイクを取ってこさせた。
団地の時同様、緑髪の男は「喜んでっす!」と言うと駆けるように走り去って行った。
そして、ものの数十秒で取って来る男の忠犬っぷりは、もはや不動のものと言ってよかった。
いぐさによると「こどもが落ちて転がって来たらオレがキャッチする為に後ろから付いて来んの!」とのことだった。
その言葉に、団地は更に絶対落とさないようにせねば、という気持ちを更に強めたという。
その後、バイクに咲が乗る際、どうやったら楽に遺影を持ってバイクに乗れるかという事について周りに居た不良達が全員で考えてくれた。
ただ一人血塗れだった男だけは、やはりグッタリとしたままだったが。
まぁ、話し合い結果、咲の背中に遺影を紐で巻きつけるという案で話はまとまった。
そしていぐさのバイクを取って戻って来た緑髪の男は紐調達の為、再度パシられる羽目になったのだった。
やはり、どこから調達したかは不明だが、ものの数十秒で戻って来る男に、最早咲は尊敬の念を抱きつつあった。
「(みんないい人)」
咲は吹き抜ける風をその身に受けながら、カラフルな頭で日本語を話す男達に感謝した。
咲の中では団地以外は未だ外国人だった。
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「おし、ついたぞ。」
団地のその言葉に咲はハッとした。
いつの間にか周りの景色は静止していた。
あれほどうるさかったバイクの音もなくなっている。
咲がキョロキョロと周りを見渡すと、そこには咲を置いて走り去った、あの黒い車と何やら真新しい建物があった。
どうやら、ここが団地達の言う“火葬場”とやらのようであった。
「(ここが……かそうば?)」
咲のイメージとは大分かけ離れた火葬場に、咲は困惑した。
こんな綺麗な建物のどこで、祖母の死体を燃やすというのだろうか。
すると咲は団地に抱えられバイクから下ろされる。
「かそうば……」
「ここが火葬場だ」
そう言いながら団地は咲の頭からヘルメットを取る。
すると一足遅れてバイクでいぐさが到着した。
「あー!後ろから団地追っかけてる時、ずーっとこどものおばあちゃんにガン見されててチョー気まずかったー!」
そう言っていぐさは咲が背負う遺影を指差した。
「(………確かに)」
確かに、咲は写真の方を外に向けて背中に背負っていた為、その後ろを走ってくるいぐさは必然的に遺影を見ながら走る事になる。
団地は遺影からガン見されながら自分がバイクを走らせる姿を想像して、苦い顔をした。
そんな団地の思考などお構いなしに、いぐさはバイクから降りると火葬場を見渡して、おーっ!と歓声を上げた。
「火葬場って見た感じチョーキレイ系じゃん!てかオレ昔さー、火葬って外でデカい火をつけて死体を火の中に放り投げんのかと思ってたわ!あはは!こわいよねー!」
「違うの?」
笑ういぐさに咲は目を大きく見開いた。
「……違う」
団地は頭を抱えた。
そんな団地を咲は疑問を孕んだ目でひたすら見つめる。
「火葬がどういうもんかは母ちゃんに聞け、いいな?」
「……わかった」
咲が釈然としない気持ちで頷くと、団地はポンと咲の頭に手を置いて優しく撫でた。
「なら早く母ちゃん達ん所行け。心配してんぞ、多分」
「そだねー!キミ軽くホームアーロン状態だもんねー!」
そう二人共に言われ、咲は俯いた。
早く家族には会いたかったが、彼らとここでただ別れるのはどうも惜しまれた。
迷子の自分にここまでしてくれたのだ。
何か感謝の気持ちを現したい。
そう思い、咲は何かないかとポケットに手を入れる。
コツリ、と何かが手にあたった。
それは祖母から貰った、あの木彫りのクマのキーホルダーであった。
咲はゆっくりと顔を上げる。
「(おばあちゃん、この人達のおかげでここに来れたよ。だから……いいよね)」
咲はポケットからクマを取り出した。
そして団地の目の前に突き出した。
「?……なんだ、それ。」
「貰って下さい」
「おー!なんか必勝って書いてあるよ!団地!」
「これを俺に……?」
団地が困惑しながら木彫りのクマを見つめる。
正直、いるかと問われれば全くいらない。
しかし、咲の目はそれを許さないようであった。
「かそうば捜してくれたお礼。私、いまこれしかない。だから……貰って下さい」
「いや、気にすな……勝手に俺がした事だ」
そう言う団地に咲はフルフルと頭を横に振る。
意外にも頑固な少女の反応。
「…貰って下さい」
じっと真剣な目で見てくる咲に団地はフゥと息を吐いた。
「……本当にもらっていいのか?」
「うん」
「じゃ、貰っとく」
そう言うと団地は咲からクマを受け取った。
団地がクマを受け取ったのを見ると咲は深く頭を下げた。
「ほんとに、ありがとう」
そう言って咲は最後にしっかりと二人を見つめた。
その瞬間、団地といぐさは息を呑んだ。
咲は微笑んでいた。




