第八話 首なしライダー
「首なしライダーを見に行こう」
二人は住宅街を抜け、暴走族の通る大通りを目指す。
レイ、わざわざ車道側歩いてくれているんだ。今更ながらユウは気づいた。多分これまでも自然に守るような動きを取ってくれていたんだろう。コミュニティハウスで庇うように立ってくれたように。小学生に守られるって。流石に自分が守る側に立つべきだが、ここで動いても不自然だ。明日こそはレイを守らなければ。
およそ不審者に似つかわしくない決意をし、ユウはレイの隣を歩いた。
車通りの多い環状線の上、歩道橋から暴走族が通るのを待ち侘びる。欄干の上で腕を組み、その上に顎を乗せてまっすぐ遠くを見つめている。街灯は眩いばかりに光り、足元からは風を切るエンジン音が響いた。
二人はしばらく黙ってそうしていたが、暴走族はなかなか来ない。退屈に耐えかねてレイが口を開く。
「もしかして、首なしライダーについても詳しい?」
「もちろん!」
意気揚々とユウは語り出した。
「首なしライダーはね、元は海外の映画とかドラマに登場したんだ。首のない亡霊っていうよくあるテーマに当時のバイカー文化が組み合わさって、1970年代に作られた。この映画の中でワイヤーで首が斬られるって場面があるんだ。」
「それが日本に入ってきたの?」
「そう。これが日本に輸入されて現実で模倣犯が出る。1984年道路に張られたロープに引っかかって、バイクが転倒、死亡する事件が起きたんだ。犯人も動機も不明のこの事件、すぐにこれを元ネタにしたドラマが作られる。そこでは被害者は暴走族で、犯人はそれに悩まされる地域住民という設定。」
「よく聞く首なしライダーの設定だ」
「ここにワイヤーで首が飛ぶ映画のイメージが組み合わさって、首なしライダーの出来上がり」
料理番組風に完成を伝えると、レイは拍手で答えてくれた。
暴走族はまだ来ない。
ユウはふと、気になっていたことを尋ねてみることにした。
「そういえばさ、レイってどうやってこの時間に抜け出しているの?」
顔だけ右に向けると、レイも左を向き
「ヒミツ」
とだけ、笑いながら答えた。
何か言いづらい事情があるのだろうか。大人びたカッコいいところも、もしかしたらそこに関係があるのかもしれない。
ユウが一人で納得していると、
「ユウはどうやってるの?」
と、レイに尋ねられた。
「わたしもヒミツ」
真似して答えると、二人で見つめ合いケラケラ笑った。笑い声が夜風に吹かれて運ばれていった。
ブオーン。遠くからエンジン音が轟いて、緩やかなカーブからバイクの集団が姿を見せた。暴走族だ。
「来た」
車道に広がり隊列を成し、やかましい音を立てながら一直線に向かってくる。
歩道橋から見下ろす二人は、隊列の中に首なしライダーが混ざっていないかじっと探すが、皆頭がある。ほとんどがろくにヘルメットを被っていない。
「いないね」
「そうだね」
視線はそのままに呟いた。
暴走族は二人の真下をけたたましい音と共に走り抜けた。
二人は覗き込んでいた顔を上げ振り返り、走り去るバイクを見つめる。
「明日はどうする?」
「川の方に行こう」
暴走族の一員の男は爆音の中バイクを走らせ、環状線を駆け抜ける。緩やかなカーブを曲がり、直線に出る。向かう先はまっすぐだ。ふと視線を上にすると、歩道橋の上に二つの人影が見えた。子供だ。こんな時間に?男が言えたことでは全くないが、不良だろうか?子供たちはこちらをじっと見つめている。視線を変えずになにやら呟いた。もしかして何かを伝えようとしている。考えている間に真下を通り過ぎた。大丈夫。きっと用があるのは自分じゃない、自分たちじゃない。そう信じて男はバイクの運転に集中し直した。




