第七話 公衆トイレ
昨日のことで分かったが、レイは怪談を聞くのが好きだ。それも詳しい由来など。機会があったらこれからも語ろう。そうしたらきっと喜んでくれる。
「今日はどこ行くの?」
「公衆トイレ」
「トイレの怪談って普通学校じゃない?」
「閉まってて入れないから」
二人が向かうトイレは山の中だ。それなりに手入れされた山、一応公園ということになっている。そこには舗装されたまっすぐな道が一本通っており、その脇に公衆トイレがある。
レイは迷わず臆さず女子トイレに入った。
「花子さんといえば、女子トイレの三番目の個室だけど、これどれが三番目だ」
六つの個室が向かいあわせに三個ずつ並んでいる。
「適当に全部叩いてみよう」
「花子さんいますかー」
3回ノックして尋ねるのを6度繰り返しレイは肩を落とす。
「出ないね」
「まだ他にもトイレの怪談あるから、赤い紙青い紙とか」
「それ、個室に入らないといけないやつじゃない?」
「そこは躊躇するんだ。私が入るよ」
「任せた」
年季は入っているものの、きちんと清掃された個室に入り立ち尽くす。トイレットペーパーはあるので、白い手は出てこない。
「ダメだわ。紙がちゃんとある」
「あれってそういう話なんだ」
レイが感心した。チャンス、ここはうんちくの語りどき。
「そう。赤い紙青い紙のよく広まっている形は、トイレに入ると紙がなく、白い手に尋ねられ、赤なら血まみれ、青なら血を抜かれるか絞め殺されるかで青くなる。」
「どっち選んでもダメなんだよね」
「そうそう。その後どんどん広まるうちに攻略法として別の色が出てきて、今度はその色でもアウトになってって感じでイタチごっこ式に登場する色が増えていったんだ」
「子供たちの間でルールを付け足されながら広まったんだね」
「そうなんだよね。似た話では、赤いちゃんちゃんこいりませんか?って尋ねられて、着せてと言うと首を切られて、服が赤くなるって話だったり。赤いマントを被せましょうか?って尋ねられて、断っても背中に剣がいっぱい刺さった人が現れて、その背中の血が赤いマントに見えるとか」
「なにそれ。変な人が出てくるだけで襲われないの?」
笑いながらレイが尋ねる。レイが笑ったのでユウはますます調子に乗った。
「めちゃくちゃ変なんだよね、これ。しかもこの赤マントには原型があって、元々は戦中に広まった赤いマントの怪人が人攫いをするって話なんだ。それが多分、赤いちゃんちゃんこと結びついて赤マントっていうトイレの怪談になった。」
「じゃあ赤い紙青い紙の方はなんか由来とかないの?」
「もちろんある。元は赤と白の紙だったんだ。赤い紙やろか、白い紙やろかって尋ねてくるだけ。この質問にも元ネタがあって、元は、この呪文を唱えながらトイレに入らないと、お化けに尻を撫でられるってものなんだ」
一通り語り尽くした。ユウは自信ありげに鼻高々だ。レイの反応はどうだろうか。
「赤い紙やろか、白い紙やろか」
レイはそう言いながら個室に入った。
「うん。出ないね」
個室の中から話しかけてきた。
「そりゃ出ない呪文だからね」
「他にはなんかトイレの怪異いないの?」
「細かいのなら色々あるけど、有名どころはもうそんなにないしなあ。紫ババアとか?」
「なにそれ?顔色の悪いババアじゃん」
「鏡から出てくるんだよ」
「紫色のババアが?」
「紫色のババアが」
個室から出てきたレイは一目散に鏡へと向かった。ユウも後ろから覗き込んだ。
「いないね」
「いないね」
ふと外に目を向けるとスーツ姿の若い女の人がこちらをじっと見つめていた。
なんだろうと思う間もなく、その人は目を逸らし駆け出してしまった。
「誰かいた?」
「なんか女の人が」
「お化け!?」
「いや多分OL」
「なーんだ。」
二人は外に出て女の人が向かった方を眺めると、走り去る後ろ姿が遠目に見えた。時折チラチラ後ろを振り返っている。
「よく考えたらさ、花子さんって午前3時も条件だっけ?」
「そういえば。今日はもう帰る?」
「そうしよっか」
「明日は2時過ぎ?」
「いや10時過ぎで別の場所に行こう」
「りょうかーい」
左右を森に囲まれた公園の中、唯一舗装された細い道を仕事帰りの女は歩いていた。右手にあるトイレの中からなにやら話し声が聞こえた。覗き込んでみると子供が二人いた。こんな時間に?二人はなにやら「いない」と呟いている。そのうちの片方がこちらを向き、女と目が合った。二人は何かを探している。その相手はもしかして。女は一目散に走り去った。道中何度も振り返りながら。子供たちはトイレの前から動く様子がない。まるでそこから動けないようだ。




