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正体見たり  作者: 37373
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第六話 差出人不明

「今日はどこ行くの?」

「幽霊バス、深夜のバス停に存在しないバスが来るんだ」

 学校から10分ほど歩いた先のバス停に向かい、待合用のベンチに二人並んで腰掛ける。こんな時間にバス停はおろか、道行く人すらほとんどいない。静かな夜風が吹きつける中、ユウは無言の気まずさに耐えかねていた。すぐ隣、肩と肩が触れ合う距離にレイがいるのも拍車をかける。

「なんか話さない?」

「ユウも怪談好きなんでしょ?なんか教えてよ」

「そうだなあ、それじゃあ犬鳴村伝説ってあるじゃん。犬鳴峠の脇道を進むと、『この先、日本国憲法つうじません』って看板が立っていて、その先には地図にない集落があるってやつ。」

「あるね、入ると住民に襲われるってやつだよね」

 食いついた。ここは由来まで詳しく語って、カッコつけよう。

「そう、それ。まあもちろん真っ赤な嘘なんだけど、この話の舞台、犬鳴峠には元から噂があったんだ。トンネル工事の犠牲者の霊が出るみたいなね。そんなところで実際に事件が起こった。」

 ユウは少し間を置いた。レイは急かすでもなく、続きを待っている。

「車で帰宅していた男性が、帰宅途中に5人の不良に遭遇。車を奪われ監禁され、旧犬鳴トンネルまで連れて行かれて、ガソリンで焼き殺された。これが1988年の話。まだ伝説は作られていない、地元で有名な心霊スポットでしかなかった。なんでこれが、犬鳴村伝説になったんだと思う?」

 レイはここまで相槌一つ打たず、じっとユウの話を聞いていた。

「2ちゃんねるでそういう話が広まったんじゃないの?」

「惜しい。そうなんだけど、その前にもう一個話がある。」

 思ったよりちゃんと聞いてくれている。ユウは得意げに、顔の前で人差し指を立てた。

「1999年、日テレの『特命リサーチ200X』って番組に、『日本にあって日本でない村』を調べてほしいって依頼が届くんだ。それによると、犬鳴峠のトンネルの横に道があって、その奥には地図に載っていない村がある。途中には『この先、日本国憲法つうじません』という立札。車で行った知人は、村の入り口で四、五人の男に斧みたいなもので襲われた。別の知人は人のいない家と壊された車を見た。携帯電話も通じない。警察も入れない。外界との交流を絶った村人がいる。」

 車のヘッドライトが二人を照らし、ユウは一度口を閉じる。車が通り過ぎ、遠ざかると、辺りはまた元の暗さに戻った。

「で、最後に、興味本位で行く若者がいるから調査してほしい、って」

「大体の要素がその番組時点であるね。」

「そうなんだよ」

「じゃあ2ちゃんの創作ってよりも、その依頼主が作ったって感じ?」

「たぶんね。それがネットに転載されて、そっから広まった」

 レイは納得したように頷いた。

「じゃあ、その依頼送った人って誰なの?」

「分からない」

「分からないんだ」

「今も正体不明。一体どこの誰が、なんのためにこんな話を作ったんだろうね」

 口にしてから、ユウは暗い道路の先へ目をやった。

 誰が、なんのために。その言葉に、別のものが引っかかった。


「元シイノミプロジェクトの枯尾ハナってご存知ですか。とっても可愛い声です。運営に邪険されてクビになりました。」

 差出人不明のメッセージ。別にユウのもとへ届くわけではない。マシュマロや質問箱に無作為に送りつけられ、ときには同じような文面の手紙まで、現実の店や施設に届いているらしい。

 受け取った人間が不気味がり、ネットに投稿する報告も日に日に増えている。

 放っておいていいものではないことは分かっている。

 だからといってユウが転生して配信を始めても、集まった注目に対して何もかも話せるわけではない。契約の都合がある。

 何も言えないまま注目だけ集めるくらいなら、見ないふりを続けたい。次第に転生すること自体が億劫になっていた。


「ユウ、ボーッとしてどうしたの」

 レイの言葉で思索から呼び戻された。

「いや、ね、依頼主って誰なんだろう。誰がなんのためにこんなことしたんだろう?って思ってね」

「確かに。現実の事件を元に、誰かが都市伝説を作っているよね」

「ね、不気味だね」

 他に誰もいないバス停で話すとより一層背筋にくるものがある。人も車も、もちろんバスも来ない。

「バス、来ないね」

「来ないね」

「明日からはまた早めの時間、10時にしよっか」

「わかった」

 二人は待合ベンチから立ち上がり、バス停を後にした。


 深夜、ジャージ姿の男が、人通りのない道をジョギングしていた。昼間の暑さも和らぎ、夜風が心地よい。ふとバス停が視界に入った。こんな時間にバスなんか来ない。だから誰も座っているはずがないのに二つの人影が見える。しかもどうやら子供だ。なぜ?何を待っているんだ?男はできるだけバス停から距離を取り、歩道の反対側へ寄って走り抜けた。

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