第二話 焼け落ちた神社
ユウは家の近くの鳥居と小さな祠しかない境内へと向かった。木々に覆われ薄気味悪いあそこなら雰囲気も出るだろう。前を通るこどもに話しかければよい。
例年は遠征先に安アパートを借りそこを拠点にしているのだが、今年は金の心配をしなければならない。仕事をクビになったからだ。全面的にユウが悪い。
住宅街の中、家々の隙間にある小さな鳥居をくぐり、細い通路を抜け、木々に覆われ光の差さない階段を上る。階段はさらに上へと続いているが、その中腹に広場がある。もう一つの小さな鳥居をくぐり、明るい広場へと出た。
ここは昔神社だった場所で、社殿跡には石造の基壇が残っている。足元の安定するそこに立ち、住宅街の抜け道の階段を通り過ぎるこどもを待ち構えた。
獲物はすぐに来た。ユウが来たのと同じく階段の下から足音がして、ネイビーのTシャツにベージュのハーフパンツ、白いキャップを逆向きに被り前髪を左に流した少年が現れた。
「きみ、このあたりの子?」
いつも通りユウは尋ねる。
「うん、きみは?」
「わたしは夏休み入ってきてから引っ越してきたんだ。ねえもしかして向こうの坂の上の小学校?」
「そうだよ、六年生」
「わたしもそうなんだ。引っ越してきたばっかで友達いないから一緒に遊ぼうよ」
「いいよ、名前は?俺はレイ」
「わたしユウ」
流れるように遊ぶ約束を取り付けた。八年目になると慣れたものだ。もう一歩踏み込んで、不気味な雰囲気を醸し出そう。「あの夏の少女」には必要不可欠だ。
「ねえレイ、きみって怪談好き?」
「好きだよ、ちょうどここの怪談、話そっか?」
「聞かせて聞かせて」
「この神社、鳥居と小さな祠だけじゃん。社殿は二十年近く前に火事で焼け落ちたんだって。それでも建て直さないの不思議じゃない?周りは藪だらけなのに境内だけはちゃんと草刈りしてる。管理する気はありそうなのに建て直していない。」
この神社で昔火事があったのは本当のことだ。ユウも調べたことがある。
「なんで直さないんだろう?」
「その理由はね、建て直そうとしてもまた燃えちゃうんだって。なんでもその火事の時に巻き込まれて亡くなった人がいるらしくて、それ以来夜になると人魂が現れて工事中の建物を燃やしちゃうんだって。境内だけは草刈りしてるのも、その火が燃え移らないようにしてるんだ」
こんな話をユウは見たことも聞いたこともない。こどもたちの間で語られているのだろうか?普通に考えたら再建費用がなかったから建て直していないのだろう。
「ねえもし良かったら夜にその人魂を見にこない?」
怪談を語り終えたレイが提案する。
「いいね、それじゃあ今日の夜、何時くらいがいいかな?」
「10時より後だと人通りも少なくてちょうどいいんじゃない?」
「じゃあそこで」
またあっさりと約束を取り付けられた。怪談好きのレイは「あの夏の少女」の相手として極めて都合が良い。
「それじゃあまた後でバイバイ」
そう言ってレイは鳥居をくぐり階段を下った。
「バイバーイ」
ユウも手を振って答えた。
ユウは約束通り22時過ぎに廃神社へ向かった。
レイは来ているだろうか。はっきり言って小学生が夜な夜な一人で外出するのは難しい。すっぽかされるならそれでいいが、親がついてくるとなるとリスクがある。これまでも何度か親がついてきたことがあるが、そのたびにターゲットを変えている。少しでも不審に思われないためだ。何度も会ったのに姿を消すといくらなんでも怪しまれる。すぐに姿を消せばたまたま親戚の家に来ていたこどものイタズラのようにも思える。できれば今年はレイ相手に「あの夏の少女」をしたい。
階段を上ると境内で動く光があった。レイのスマホのライトだ。
「ユウおそーい」
「ごめんごめん、ちょっと親の説得に時間かかっちゃって」
約束通りレイは来た。それも一人だ。
「人魂いた?」
「いやいないね」
「待ってたら出るかな?」
「そうしよっか」
レイはライトを消した。人魂を見やすくするためだろうか。
10分ほど黙って待った。藪の葉が風に擦れる音が耳に残る。
「出ないね」
「そうだね」
「なんか話す?」
「うん」
「それじゃあこっち来る前に聞いた怪談話そっか」
「おねがい」
「これはわたしが引っ越してくる前に聞いた話なんだけどね」




