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正体見たり  作者: 37373
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エピローグ

 白い綿雲が豊かに浮かぶ青空の下、画面下部にボンネットの映る車載カメラの映像は、鬱蒼とした深緑の木々生い茂る、蛇のように曲がりくねった片側一車線の山道を駆け抜けていた。左側にはコンクリートで固められた崖が反り立ち、その上から深い影が落ちている。右側は逆に谷へ切れ落ち、下から伸びた木々の梢が道路脇までせり上がっていた。

 次々と電柱を通り過ぎ、前方に高さ制限の看板が現れた。その奥には山肌に掘り抜かれたトンネルの開口部が見える。トンネルの手前、右手側にはフェンスで封鎖された脇道がある。

「やっぱ無理かー。監視カメラも付いてるし、こっそり入れそうにないね」

 画面左、助手席側から赤色の字幕が入る。

「ほらほら、マネージャーも喋ってよ」

「えっと、これ。私も喋った方がいいの?」

 今度は右側、運転席から青色の字幕が入った。

「そうだよ。犬鳴トンネル探訪が失敗に終わった今、この動画は福岡ドライブデートvlogへとなったんだから」

【実写】犬鳴村に行けなかったので福岡観光してきたぞ【vlog】


「今日の動画最高だった」

 vlogの投稿から三時間後、ハナは動画を見た視聴者たちを集め、雑談配信をしていた。

「そうでしょー。犬鳴村には行けなかったけど、結構面白い動画になってたでしょ。私たちも楽しかったし」

 次々と褒めるコメントが流れる。復帰配信とは異なって充分読める速度だ。

「『そういえばマネージャーっていつ雇ったの?』それねー、難しい質問だよね。厳密には雇ってないんだよね。それっぽいからマネージャーって呼んでるだけで、パトロンというか、ヒモの飼い主というか。とにかく雇ってないんだよね。私が養われている側で」

 コメントの速度が一気に加速した。皆一様に困惑している。

「『なんで?』ね、わけわかんないよね」

 ただ株で金持ってるガチ恋なだけだ。

 「彼女?」「恋人?」コメントだけは見ないふりをする。これだけ湧けばカプ厨営業は充分だ。他のガチ恋のためにも、わざわざ読み上げないのが大切だ。


 配信を終え、フカフカのベッドに背中から倒れ込むと、漫画みたいな天蓋が目に入る。背中だけをベッドに乗せ、腰から下を外に投げ出した体勢のまましばらく眺めていると、ノックもなくドアが大きな音を立てて開け放たれた。

 レイだ。

「ハナちゃん!さっきのアレ、何?」

「どれ?」

「その、アレ。私がマネージャーだとか、パトロンだとかそういうの」

 ハナの足元までやってきて、上から見下ろす形だ。

「飼い主とも言ったね」

「それ、そんだけ言って恋人は?」

「えー。デートって言ったんだからそれで我慢してよ。カプ厨営業も大事だけど、ガチ恋営業も同じくらい大事なんだよ」

「そうじゃなくって。えっと、その」

「なーに?『ハナちゃんの恋人は私だけです』ってそんなに見せつけたいの?」

「いや、そういうわけじゃ」

「そういうわけでしょ」

「はい」

「絶対捨てないでよ。ガチ恋切り捨てるんだから」

 ベッドから身体を起こし、見上げるように口にした。

「もちろんもちろん、そんなことするわけない」

 ハナは何も言わず、黙ってレイを見つめたままだ。

「ハナちゃん?」

「じゃあさ、証明してよ。手ェ出して」

 その言葉に従い、レイはおずおずと右手を差し出した。

 一瞬きょとんとしてから、ハナはケラケラと笑い出した

「そうじゃなくてさ、エッチな意味で。『私はハナちゃんの恋人だ』って言う割に、今まで手ェ出してきてないじゃん」

「え、えっと。ダメでしょ」

「ダメってことはないでしょ。仮にダメだとしてもさ、ガチ恋ネトストが推しと同棲以上にダメなことなくない?」

と掴んだ手を引っ張りハナは胸元に引き寄せる。そのままベッドに倒れるように抱き寄せると、力無くレイはハナに重なるように倒れこんだ。

「グエ。おもーい」

「ごめん、でもハナちゃんが引っ張るから」

「レイがチキンだからでしょ」

 レイ本当にウブだな。ビビリなのに無理して心霊スポット案内したり。私が配信で言ったことちゃんと覚えていて、花壇で可愛いって言ってくれるし。引退してからも熱心に応援している。

 可愛いな。本当に私のガチ恋なんだな。

 そのままの体勢で抱きしめていると、レイが顔を背けてモゾモゾと、頬を朱に染め震え声で。

「その、いつまでこれやってるの?」

「満足するまで」

 「あの夏の少女」はもういいや。

 充分満足しきった。

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