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正体見たり  作者: 37373
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13/15

第一三話 枯尾ハナ

 緊張した面持ちのユウは、机に向かってため息をついた後、視線を三枚のPCモニターに戻した。モニターにはユウ自身の姿が映し出されている。

 この三枚のモニターはレイが用意したものだ。大きな机にユウが元から使っていたのと同じガジェットが並べられ、広々とした部屋、フカフカの天蓋付きのベッド、部屋の隅には肉厚の葉っぱが赤く染まった観葉植物が飾られ、まだほとんど中身のない白いワンピースといくつかの衣類が掛けられたウォークインクローゼット。どれもこれもユウがこの部屋に来たときから用意されていたものだ。

 ここはレイの家だ。断じて金品に揺れ動かされた訳ではない。断じてその健気さに絆された訳でもない。断じて、断じてだ。こんなものをあらかじめ用意するその狂気性を恐れ、危害を加えられないよう虎穴に転がり込んだだけだ。そうだ。そうに決まっている。

 もう一度深くため息をついた。

 モニターに映る時計は14時53分。まだ15時にはほど遠い。遅々として進まない時間を、ユウは一人ゲーミングチェアにもたれて過ごしていた。

 これならレイにも部屋で待機してもらった方が良かったか。


 やがて時間になり、軽い電子音と共に、画面に男が映し出された。七三分けの短髪に、四角い黒縁の眼鏡をかけた、丸顔の張りのある男だ。背後には背もたれと白い壁紙以外に何もない。

「お久しぶりです。社長、でいいですかね?」

「お久しぶりです。ええそれで構いません。そちらもハナさんでよろしいでしょうか?」

 クビになって以来四ヶ月ぶりの面談だ。今日の面談はユウから提案したものだ。

「それで、本日はどういったご用件でしょう?メールには特に要件が書かれていなかったので」

「はい。社長は枯尾ハナとシイノミプロに関する風説が広まっているのはご存知でしょうか」

「ええもちろん。マシュマロや質問箱、果てはリアルのハガキで同じ文章が送られて、それを見た方からの問い合わせがたびたび届いて困っています。開示請求しようにも、無作為に届いたものを別のユーザーがネット上にアップしている形なので、どうにも難しくて」

 レイが開示されてしまうのはとても困る。まわりくどい方法で良かった。

「心中お察しします。このコピペ、私の方でも困っていまして、転生しようにもこれに関する質問が絶えないことを考えると気が重くて。説明も契約との兼ね合いで難しいですし。そこで、私の活動休止から契約解除までの流れを説明する許可を頂けませんか。私が転生先で枯尾ハナであることを明言してです。そうすればデマに対して明確に対抗できますし、私と社長の仲が険悪でないことも証明できます」

 社長は右手を口元に当て、目をつむり少し考えると、

「それなら、せっかくですし転生せずに、枯尾ハナとして説明してはどうです?」


【復活】枯尾ハナ復帰説明配信【奇跡】

「!?」

「マジで」

「何があった」

 配信前の枠には口々に驚嘆の声を上げるリスナーたちに紛れて、RAYというアカウントが無言赤スパ投げている。

 枠が開き、画面右下に赤みがかった黒髪の少女、枯尾ハナが映し出された。画面にはコメント欄や配信用のハッシュタグと並んで、今日のために作った説明資料が大きく表示されている。

「幽霊の、正体見たり、枯尾ハナでーす。お久しぶりです」

 そう言って椅子の上で左右に揺れた。画面に映るハナも同じように揺れた。

 コメントがものすごい勢いで加速し、ハナの目には捉えることができない。同接五千、これまで見たことのない数字だ。普段は数百、よくて千だったが、復帰そのものの話題性に加え、レイのばら撒いたコピペのせいでかつてないほどに注目が高まっている。

 緊張を誤魔化すように一度大きく深呼吸をして口を開いた。

「さて、まずはなぜシイノミプロにいた時に活動休止になり、そのまま引退したのか話しましょう。」

 話しながらobsで資料も操作する。

「えー、端的に言うとコンプライアンス違反です。まあ視聴者の皆さんも心当たりはいっぱいあると思います。色々ダメなことした話をしていました。それで社長から怒られて活動休止になったまま、契約更新の時期が来てそのまま引退です。社長はほぼ毎日説得してくれたんですけど、私がゴネにゴネまして。大体私が悪いです。この後シイノミプロ自体なくなるのですが、その一因はここで私に時間を使いすぎた説が私の中であります」

「カス」

「アホ」

「ゴミ」

 罵倒が流れる。全くもって返す言葉もない。

「そんなわけで晴れて無職となった訳ですが、しばらくすると私の名前を使った陰謀論が広まりだしました。こうなると私も社長も困ります。社長はこの件の問い合わせが来るし、私もいわゆる転生しようにも質問に答えることができません。契約の都合で。そこで私は考えました。私が無職になった流れを説明する許可をとって陰謀論を払拭しようと。意気揚々と社長に提案したら、それなら別に転生しなくて良くない?って言われて今に至ります。私の復帰は陰謀論のおかげと言えなくもないですが、拡散はやめてください」

 もちろんレイはもうしない。あくまで建前として言っておくだけだ。

「と、言うわけで、今後ともよろしくお願いします」

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