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正体見たり  作者: 37373
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12/15

第一二話 レイ

「ユウ、いやハナちゃん。ちょっと話したいことがあるので入れてくれませんか」

 レイだ。やけに丁寧だしなぜかユウが枯尾ハナだと知っているが、間違いなくレイの声だ。

「なんでその名前を?」

 しばしの沈黙の後、

「いやー私、ハナちゃんのファンで」

 要領を得ない答えが出た。

 つまり、ネトストということだろう。幽霊ではないことはわかったがこれはこれで危ない。家まで知られているからには、下手に怒らせるわけにはいかない。ここはおとなしく招き入れ、どうにか言葉で退散してもらうしかない。

「わかった。今開けます」

 恐る恐るチェーンを外し鍵を回しドアを開くと、レイが汗を浮かべ困ったような顔で立ち尽くしていた。

「お邪魔します」


 二人はデスクとベッドの間、椅子に座らず正座で向き合っている。

「それで、何の用なの?というか女の人だったんだ」

 視線を合わせずモジモジと床を見つめるレイに尋ねた。

「はい。その、私もハナちゃんと同じで小学生のふりをしてて。男の子にしたのは、その方が都合がよくて」

「そう。名前はなんて呼べばいい?」

「レイで大丈夫です。本名なので」

 気まずそうにレイが答える。気まずいのはユウも同じなのだが、いやむしろネトストなんかを長居させたくない。

「それで用は?」

「えっと、その、驚かせたかったとか、からかいたかったとか、そういうのじゃなくて。私が少年役をすることで、ハナちゃんに『あの夏の少女』を楽しんでもらいたくて。そうしたら、配信で話してくれるかなって思って」

 やけにテンポよかったのは、レイに誘導されていたからか。冷静に考えると、夜な夜な家を抜け出せる、怪談好きだけどビビリの小学生なんて、いかにも怪しい。

「怪談も本当にあるわけじゃなくて、ネットで調べてそれっぽいのを作っただけで。その、ごめんなさい」

 これなら多分大丈夫だろう。単に配信をして欲しいだけの過激なファンだ。配信してあげれば直ちに身の危険はないはずだ。

「そっか。そんなに私に配信して欲しかったんだね。心配かけてごめんね。その、ちょっとだけ面倒なことがあるからそれだけ片付けたらすぐにするね。転生って形になっちゃうけどそれでいいかな?」

「面倒なこと?」

「そう。枯尾ハナの名前を使った匿名の質問とか、差出人不明の手紙とかが、流行っているのは知ってる?あれで変に知名度ついちゃって、まとめサイトも運営との揉め事があったとか書くしで、説明が面倒でね。契約とかあって全部話せるわけじゃないし。どうしたの?」

 なぜかレイが顔を青ざめさせ、今にも逃げ出しそうに背後へチラチラ視線を送っている。

「何か知ってるの?」

「ごめんなさい。それ私です。その、ああすれば転生した時にバズるかなって思って。そうしたらもっと配信してくれるかなって」

 レイは半泣きで早口にまくし立てた。膝立ちになりあわあわと手を顔の前で動かしている。

 まずい、どうにか落ち着いて帰ってもらおう。

「大丈夫大丈夫、そんなに気にしてないから。運営と揉めたっぽく見えちゃうよね。実際は何も揉めてないから。ね、落ち着いて」

 背中を撫でるようにさすって耳元で話しかけると、レイは顔を赤らめた。

「わかりました。その、もうしないので。背中、大丈夫です」

「いや、落ち着いてないでしょ。しばらくこうしてるから」

「いやほんと平気なので、すみません」

 そう言って身体をよじって逃げ出すと、クローゼットに音を立ててぶつかった。

「ちょっと大丈夫?」

「大丈夫なんで、ほんと平気なんで」

 ぶつけたところを手でさすり、上気した顔をしかめている。

 どう見ても大丈夫ではないが、こんな時間に騒ぐのもまずい。ここは早くお帰り願おう。

「そう。まあちょっと時間かかるかもだけど、また配信するから。お金も厳しいし」

「大丈夫です。お金なら困っていないのでいくらでも差し上げます。百万でも一千万でも一億でも、それ以上は難しいですけど何とかします」

「いや別にいいから」

「そんな遠慮なさらずに、どうぞどうぞ。家も必要なら差し上げますし、車も欲しければお渡しします」

 この熱量はまずい。反転されたら殺されかねない。本当にそんなにお金があるかも怪しいものだが、どうにか反転されないように、この熱意の理由を聞いておかなければ。

「な、なんでそんなに私のこと好きなの?配信して欲しいだけじゃないよね?」

 ユウの質問にレイは言葉をなくした。顔を伏せて床を見つめ、両手を握りしめている。

「なんか聞かない方が良かった?」

「いや、そういうわけじゃなくって。えっと」

 そう言って目が合ったレイの頬は真っ赤に染まっていて、またキョロキョロと目を逸らし、やがて覚悟が決まったのか口を開いた。

「えっと、ガチ恋なので」

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